「婚活サイト」の落とし穴|12星座連載小説#79~蟹座7話~

文・脇田尚揮 — 2017.5.18
12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。

【12星座 女たちの人生】第79話 ~蟹座-7~


前回までのお話はコチラ

取り敢えず、勢いで登録してみたものの……“婚活サイト”ってイマイチどんなシステムなのか、分かっていない。

検索機能を使って、希望に近い男性を絞り出すことができるらしい。逆に男性側が私のことを見つけ、ちょっと気に入った場合、メッセージ機能を使ってコンタクトを取ってきたりすることもあるようだ。

年齢などの基本情報は、漏れなく正直に記載しなければならない。ただ私の場合、ブライダルという仕事上、顔写真は掲載しないことにした。ブライダルプランナーが婚活だなんて、正直笑えないもの……。

もちろん、顔写真を掲載しておいた方が引きは強いらしいけど、そこまでガツガツしてやるものでもないと思っている。

後は、しばらく待ってみよう。なかなか何も起きなかったら、自分で探してみても良いしね……。

別に悪いことをしているわけではないけど、何だか“秘密”を一つ持ったようで気持ちが高揚した。

―――帰宅する頃には、今日一日のムシャクシャも収まっていた。

「おかえり。今日は早かったんだね」

『うん、午後はジュエリーの打ち合わせが一件あっただけだから。明日は少し遅くなりそうだけどね』

「買い物は済ませてあるけど、夕食の準備はまだこれからだよ」

『そっか。お母さん、今日は私が作るよ』

母に作ってもらってばかりなので、たまには私が作らないと申し訳ない。

「そう? それじゃあ頼むよ。あたしは由愛の面倒を見ておくからね」

『うん、よろしく』

今日は珍しく由愛が駆け寄ってこない。昨日の今日だから少し不安な気持ちになる……。

子ども部屋に入ってみると……、どうやらお絵かきに没頭しているようだ。

『ただいま、由愛』

「あっ、おかえりママ」

顔を上げてくれたことに、少しだけホッとした。由愛は私が思っている以上に、気持ちの切り替えが早く、強い子なんだろう。誰に似たのかしら。

私は意外と打たれ弱いし、気持ちの切り替えもヘタ。

……案外、お母さんに似ていたりして。少し苦笑する。

久しぶりにエプロンをつけてキッチンに立つ。

料理もたまにはやっとかないと、腕が鈍るしね。

母が買ってきていた食材を見ると、どうやら今日は“中華”でいく予定だったようだ。OK。

今朝の残りご飯でチャーハンを作って、あとは麻婆豆腐、青椒肉絲あたりかしらね。

チャーハンの作り方は、幼い頃母から教わった。一人でも作って食べられるようにと、母なりの優しさだったのだろう。

昨日のことを思い出して、もう一度お母さんに「ゴメンね」と呟く。

次は、青椒肉絲。“青椒肉絲の素”とピーマン、たけのこ、豚肉をフライパンに投入。基本的に、辛いものは由愛が食べられないから、味付けはマイルドに。お皿に盛り付けて……と、出来上がり!

うん、まぁまぁの味ね。

「いい匂いがする~」

由愛がやってきた。

「ママ、今日のご飯なに?」

『中華よ~。手を洗って、食べようか』

「わ~い!」

ドタドタと洗面所へ駆けていく娘。自分の作ったものを喜んでもらえるのは、幸せだ。

―――食後、普段通りの家族団らんの時間。平和な会話が流れる。

話の途中、何気なく婚活サイトのメールBOXをチェックしてみる。

!!

何これ……18件って!

この数時間で、驚くべき件数のメールが私のもとに届いていた。登録したての頃は注目されがち、と説明資料にも書かれていたけど、こんなに来るものなんだ……。

『お母さん、ちょっと私部屋でやることあるから、後片付けお願いできる?』

居ても立ってもいられなくなり、母にヘルプを。

「うん、分かった。やっとくよ」

――ナイス、我が母よ!

いそいそと自分の部屋に戻り、メールをチェックする。コソコソしてしまうのは何故だろう。私のようなバツイチ子持ちでも、男性からちょっと声を掛けられるだけでも喜んでしまうような私が、一気に18人の男性から声を掛かられるなんて、婚活パーティーではまずないことだわ。

一通一通、丁寧に開封して目を通す。

……
……
……

5通ほど開封して感じたことがある。

“結婚を目的にしている人”は意外と少ないのかもしれないということ……。

以前、聞いたことがある。婚活サイト、特に大手のサイトには、一生懸命“婚活”している男性もいる一方で、ただの“出会い目的”の男性も一定数いるということを。

『はぁ……』

まぁ、そうよね。そんなに簡単に良い人が見つかるなら、誰も苦労しないわよね……。

引き続き、開封作業は続く。

かすかに持っていた期待も、15件目を読む頃にはすっかり薄れていた。

ちょっと顔が好み! でも、年収が200万円……。私よりも低いじゃないのよ。
年収800万!と思いきや、年齢57歳。倍近くの年の差……ムリ。
条件は良いんだけど……、見事な若ハゲで身長152センチ、体重89キロ。ないわ~。

まぁ“売れ残り組”が今も続けてるんだから、こうなるのも当たり前か…。

残り3通を、何の期待もなく開封していくと……

あれ?

この人、ええと…石田誠二さん。IT勤務で年収800万、36歳。お顔も少し彫りが深くてステキじゃない。

なになに……。

初めて、ちょっと気になった。


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【今回の主役】
瀬名亜矢 蟹座29歳 ウェディングプランナー
バツ1子供あり(瀬名由愛・7歳)。仕事で、華やかな結婚式場のプランニングを企画しながらも、どこか冷めている自分に気づきつつある。婚活や合コンには頻繁に参加しているが、どこか満たされない”出会いイベントジプシー”な一面も。カップルの幸せを見送る立場でありながら、医者である元夫(二階堂恭二)との離婚を経験した自分に矛盾を感じている。

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