大失恋後の「赤面大失態」|12星座連載小説#74~牡牛座8話~

文・脇田尚揮 — 2017.5.11
12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。

【12星座 女たちの人生】第74話 ~牡牛座-8~


前回までのお話はコチラ

志田さんと私は同郷ということで、地元ネタで大いに盛り上がり、気づくと一緒に来ていた祥子を置いてきぼりにしてしまっていた。

『志田さんって、本当に街の景観をよく見てるんですね~』

気づくとビールは二杯目。気持ちも少しフワフワと高揚してきて、自分でも驚くほど饒舌になってきている……。

一見無口そうな志田さん。楽しそうに一杯喋ったかと思いきや、時折、ふと我に返ってはにかむ感じが、何だか新鮮で可愛かった。

第一印象ではイマイチ“ピン”とこなかった彼だけど、話してみると誠実そうでちょっと良いかも……もちろん、雅俊さんには遠く及ばないけど。

祥子の方に目をやると、何だかニヤニヤしている。……この顔はよからぬことを考えている顔だ。

「志田っちは、マジメなんだけど大人しいからさ、なかなか彼女できないのよ。確か最後に付き合ったのが3年前……だったっけ? あの、高校の英語教師」

祥子が聞いてもいないことをペラペラと話し始める。

「はじめは、お似合いだと思ったんだけどねぇ……半年でおわっちゃったのよね、志田っち?」

「ああ、ええ、はい…」

志田さんが、困った顔をしている。

「だから今、志田っちは“彼女募集中”ってワケ」

こっちを向いて、祥子がニンマリしている。ここまで露骨にそっちへ持ってくか……。

「ねぇ、和歌子、あんた最近はどうなのよ?」

『ん? 何って?』

「決まってるじゃない、“浮いた話”よ!」

『ま、まぁ……これまで通りよ』

「これまで通りって、彼氏いないんでしょ?」

『……うん』

「雅俊さんのこと、まだ引きずってるんでしょ?」

―――それは“地雷”だった。

誰にでも触れられたくないことって、あると思う。私と雅俊さんの“8年間”は、私たち二人にしか分からないもの。それを簡単に口にするなんて、許せない。

我慢してグッと堪らえようと思ったけど、お酒が進んでいてムリだった。

『何よ! 放っておいてよ! バカ!』

自分では、大きな声を出したつもりはなかったけど、かなり大声だったらしく、バル内が一瞬シーンと静まり返る。

気付いたときには、目から涙がこぼれ落ちていた。

祥子がギョッとした顔をしている。

―――そこからの記憶はない。

目を覚ますと、自分の部屋にいなかった。頭がガンガンする……。

『ここどこ……?』

隣を見ると、祥子が寝息を立てている。祥子の部屋か。

『ねぇ、ちょっと』

祥子を軽く揺さぶって、起こそうとする。

……うっ、頭痛い。

動こうとすると、頭の中を銃弾が突き抜けるような痛みが走る。

「ん……和歌子、大丈夫?」

祥子が目を覚ました。

「ちょっと待ってね。」

この子はよほど寝起きが良いのか、そのままムクリと起き上がりキッチンへ向かい、何かのサプリと水を持ってきてくれた。

「はい、これ。飲んで」

『何、これ?』

「二日酔い用のサプリ。ほら、ウコンとかそういうのが入ってる」

祥子はいつもテキトーだなぁ。と思いながらも、その優しさが嬉しかった。

黄色いカプセルを口の中に入れると、祥子が私の背中に手を回し、少しずつ水を飲ませてくれた。

横になると気持ちが悪いから、そのまま壁にもたれかかる。

「和歌子……昨日はゴメンね」

祥子がしおらしい……。こんな祥子初めて見たかも。

『どうしたの? そんなに改まって、昨日のこと、私覚えてないんだけど』

「えっ」

『えっ』

「覚えてないって、じゃあどこまで覚えてるの?」

『えっと、そう、あんたが雅俊さんの話を出してきて、私がキレちゃって、そこまで』

一瞬、沈黙が流れる。

「その後、凄かったわよ和歌子。……私がいけなかったんだけどさ。」

えええ……何かしたの、私!?

頭痛の“ズキズキ”に加えて、今度は心臓の“ドキドキ”が襲ってきた。

『あの、さ。良かったら、昨日のこと教えてくれない?』

―――祥子が語り始める。

昨夜、“あれから”の私は、泣きながら怒っていたらしい。雅俊さんとどれだけ大切な時間を過ごしてきたか、この“8年間”がいかに特別なものだったかを延々と事細やかに語ったようだ。

なだめてくれようとした志田さんには、

『あんたに何が分かるのよ!』『余計なお世話よ!』

とか悪態をついていたらしい。サイアクだ……。

そして、「これはヤバい」と思った二人が、お会計を済ませ、店の外に連れ出してくれたところで、“ゲロゲロ”を。

志田さんが、持っているハンカチで口を拭いてくれたり、近くの自販機で水を買って飲ませてくれたりしたそうだ。

確かに、昨日のコンディションは最悪だった。生理とお酒と、……その前にお寿司も食べていたからね。

しまった。

祥子から一部始終を聞いて、自己嫌悪タイムに突入。もう志田さんには会えない。つか、会いたくない。

「私が余計な事しちゃったから……。ゴメンね和歌子」

祥子が泣きそうな顔をしている。

『ううん、私、昨日体調悪くって……こっちこそゴメン。迷惑かけたね。』

「とりあえず、今日はゆっくりしていきなよ」

『うん、ありがとう』

良かれと思ってしてくれたことだ。仕方がない。

『ええ……と、スマホは、と』

「はい」

スマホを探していると、祥子が手渡してくれた。

フォルダを見ると、“志田秀”から3通メールが入っていた―――


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【今回の主役】
清水和歌子 牡牛座28歳 保育士
子供好き。学生の頃から付き合っていて、結婚まで考えていた彼(飯田雅俊)に振られる。彼との恋をずっと引きずっており、復縁を望んでいる。ややぽっちゃり体型だが、男ウケする柔和な笑顔が特徴的。結婚していい奥さんになるのが夢。友人の紹介で、同郷の志田秀と引き合わされ、淡い恋心を持ちながらも、過去を忘れられずに苦しむことに。

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