「バツイチ」という十字架|12星座連載小説#57~蟹座6話~

文・脇田尚揮 — 2017.4.13
12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。

【12星座 女たちの人生】第57話 ~蟹座-6~


前回までのお話はコチラ

―――パタン

アクセサリーカタログを閉じる。

『とても素敵なジュエリーを見せて頂き、有難うございました! それでは後ほど、どのアクセサリーを何点注文させて頂くか、確認を取ってご連絡しますね。』

満足のいく内容だった。このジュエリーなら誰が見ても納得するだろう。

……そしてもう一つ、気になることを聞いてみた。

『ところで戸部さんは、このお仕事に携わってどれくらいなんですか?』

「そうですね~、22歳の頃からだから……6年くらいです」

――え!

この女、私と1つしか歳変わらないの? こんなに子供っぽいのに……。

「瀬名さんはブライダルのお仕事、長いんですか?」

カウンターが飛んできた。

『私は、5年ほどやらせてもらっています』

本当は4年と数ヶ月なんだけど、四捨五入して“だいたい5年”にした。

「そうなんですね! でも、憧れちゃうなぁ。やっぱり結婚は女性の夢ですよね~。こちらに来て色々見ていたら、私も結婚したくなっちゃいました」

『ええ、実際に式場に足を運ぶとイメージが湧きますものね。皆さん、そうおっしゃいますよ』

……何か、イヤな展開。

「瀬名さんは、もう結婚されてるんですか?」

キタ。痛い質問を、満面の笑みでしてくるか……。

話したくないのに……。

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『アハハ、私、実はバツイチなんですよ~』

戸部さんの顔が、一瞬、引きつったのを見逃さなかった。

その後は、たわいもない話をし、数分後、

「それでは、ご連絡お待ちしています!」

と言って、彼女は帰っていった。

――テンションはガタ落ち。

午後の業務は、ほとんど手につかなかった。しかも、“オンナの日”がきて、下腹部も痛くてイライラする。

なによ! なによ! 私だって、結婚前はみずみずしかったわよ! 子供を産んでお腹も肉割れしてるし、少しシワも増えちゃったけど……けど……!

何だか悔しかった。

私よりもずっと自由に、人生を楽しんでいる彼女が。

あの女は好きなことをして、恋も仕事も充実している。結婚に純粋な憧れもある。

私は……、バツイチという十字架を背負う“シングルマザー”で、生活のために働いている。結婚に対して、未婚の女性たちが抱くような憧れもないから、自分の仕事にもどこか誇りが持てない。

そして何より、いかにも「私、苦労してません」って感じの、あの純朴な笑顔が妬ましかった。

「瀬名さん、お疲れ様。今から帰り?」

田代さんが声を掛けてくるのが、鬱陶しい。

『はい、失礼します。』

そっけなく返事をし、少し早めに“サンクチュアリ”を後にした。

――私、今、イヤな女になってる。余裕がない。

ツカツカと早歩きでバス停に向かう。しばらく待って、バスに乗り込む。

こんなコンディションで帰っても、家の空気が悪くなるだけ。どこかで気分転換して帰りたいわ……何か、何か……。

そういえばと……、最近スマホでよく見掛ける“占い師さん”のことを思い出した。

え~と、何だったっけ、確か、フレイ何とかって女の人。

私は、占いが好きだ。別に、占い依存性ってワケじゃないけど、誰かに背中を押して欲しいときは、電話占いなどに頼る。

女は、“未来”を見て生きているから、占い好きなのよ。“過去”の嫌なことなんて、わざわざ思い出したくないもの。

あと、今を生きる勇気が欲しい、そんな女たちの後押しをしてくれるのが“占い”だと思う。

『行ってみようかな……』

場所は新宿かな。飛び込みでダメなら、ご縁がなかったってことで。

―――“次でおります”のボタンを押して、バスを降りた。

ここから新宿まで行くなら、地下鉄のほうが早いわね。

階段を降りながら考える。何を聞こうか……。

『結婚したいんですけど』と相談したら、「何かアクションはしてますか?」って聞かれるだろう。

『運命の出逢いはありますか?』と聞いて、「ないです」って言われたら、ショックだし。

本当は、『今後の恋愛運をみてください』とお願いするのが妥当なんだろうけど、この歳でそれを言うのは気が引ける。

あれこれ考えながら、電車に揺られているうちに、新宿に着いた。

……歩くこと5分。

少し奥まったところに“フォーチュン・ハウス”はあった。

占い館特有の“胡散臭さ”はなく、爽やかな雰囲気の店内。ちょっと意外。本日出勤の先生の写真が壁に飾られている。

その中に、広告で見た顔が。あ! そう、あの先生ね……「フレイア華」先生。

『すみません、予約してないんですけどフレイ……ア先生?に占っていただくことはできますか?』

受付の女性に尋ねる。

「いらっしゃいませ。あいにくですが……本日、フレイア先生はご予約で一杯でして。すみません、他の先生ならご紹介できるんですが……」

『そうですか……。なら、また来ます』

……今日は、ホントついてない。欲しい時に欲しいモノが手に入らないと、余計に欲しくなる。

でも、いつまでも悩んでいるのもイヤだから、自分で結論を出すしかない。

と言うか、もともと結論は出てるの。

占いでも何でも良い。誰かに「あなたは正しい」って言って欲しかっただけ。

―――占いの館を後にし、“大手婚活サイト”に登録した。

蟹座 第2章 終



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【今回の主役】
瀬名亜矢 蟹座29歳 ウェディングプランナー
バツ1子供あり(瀬名由愛・7歳)。仕事で、華やかな結婚式場のプランニングを企画しながらも、どこか冷めている自分に気づきつつある。婚活や合コンには頻繁に参加しているが、どこか満たされない”出会いイベントジプシー”な一面も。カップルの幸せを見送る立場でありながら、医者である元夫(二階堂恭二)との離婚を経験した自分に矛盾を感じている。

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