知りたくなかった怖い話…残業のない会社に隠された知りたくなかった怖い話…残業のない会社に隠された「恐怖の秘密」 #7
【犬養ヒロの知りたくなかった怖い話】vol. 7
会社に出る霊
知りたくない度★★☆
(P.N カツ男 会社員)の体験談
友人のKが転職して、とある企業で働き始めた。その会社は小さくて古い建物ではあったが、一応自社ビルらしい。入社してしばらく経つが、周りの同僚はみな親切で上司も口うるさくない。残業も無いし快適な環境で、いい会社に入れたと喜んでいた。
数か月後、上司から初めて残業を頼まれた。その仕事はどうしてもその日のうちに片付けなくてはならなかった。他には誰も残業ができる人はいないらしく、新人のKが断れるはずがない。特にこれと言って断る理由も無かったKは、快く引き受けた。
時計の針が9時を指していたが、Kは会社に残って薄暗い社内でひとりで作業をしていた。夜の社内はやたら静かで「今日は、他の部署の人もみんな帰っているのかな?」と、思った。
夜の10時を過ぎた頃だった。ようやく仕事を済ませた時、遠くのほうで「カツーン、カツーン……」と、女性がヒールを履いて歩いているような足音が小さく聞こえた。
「やっぱり他の部署でも、残業してる人いたんだ」と、Kは思った。
帰り支度を済ませて廊下に出ると、非常用の蛍光灯以外は消灯されていてびっくりするほど暗かった。「さすがに暗い夜の会社はいい気がしないな」早く帰宅しようと思い、出口の方向に向かうと……
「カツ―ン、カツ-ン」
同じフロアに人はいないのに、どこからか、また自分以外の足音が聞こえる。「別のフロアから聞こえるのか……?」なんだか気味が悪い。しかも奇妙なことに、Kが歩き出すと、
「カツン、カツン、カツン」
さっきより足音が大きくなった。
「え……?こっちに向かって来てる?」
そう思った時、
「カツ、カツ、カツ、カツ、カツ」
足音はさっきより早くなって近付いてきた。Kはゾッとして、速足で出口に向かった。
するとその足音も……
「カツカツカツカツカツカツカツカツカツカツカツカツカツカツカツカツ」
速くなって追いかけて来たのだ!
他には誰もいないのに、足音は異様な速さでどんどん近づいて来る。
「誰かが追いかけてきている……!」
足音はとうとうKに追いついて来て、背後まで迫ってきた。急に足音が止んだので、恐る恐る後ろを振り返ると……
誰もいなかったので、ほっと胸をなでおろしたのだが、廊下の窓に映った自分の姿を見て、心臓が凍りついた。
ボサボサの長い髪、薄汚れた衣服、ボロボロのヒールを履いた女が自分の背中にしがみついていたのだ。どう見ても普通の人間ではなく、見開かれた眼は血走り、半分が飛び出している。
「ひぃぃぃーーーーっ!!!」
その女と目が合った瞬間、Kは恐怖のあまり気を失った。
それからどのくらいの時間が経ったのか、
「……大丈夫ですか?」
見回りに来た管理会社の人に揺り起こされた。長い時間が経ったように思ったが、実際にはほんの数分しか経っていなかった。管理人さんに自分に起こった出来事を話すと、
「このビル、夜は出るって噂なんで早く帰ったほうがいいですよ……」
と、数年前にこのビルで自殺があったことを教えてくれた。
聞けば、会社の同僚に虐められて毎日残業させられていた女性社員が、社内で首を吊って死んでいたことは社員全員知っているという。そんな事件があったので、現在は残業が少なくなっているそうだ。もしかしたらその霊は未だに成仏できなくて、誰かと一緒に自分も帰りたかったのかも知れないが……
「しかしアイツら、それを知ってて俺に残業させたのか」
そんな目に遭ったKだが、今も逞しく同じ会社に務めている。勤務条件に不満はないしせっかく入った会社で、転職するのももったいないと思ったらしい。この残業の時に起こったことは、自分だけの胸にしまっているそうだ。
「もうすぐ会社に新人が来るから親切にしなくちゃな。すぐに辞められちゃ困るもんな」
Kは待ち遠しそうにつぶやいた。
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