志村 昌美

猫を飼う男性はモテない!? 猫好き男性のリアルに見る「猫と暮らすメリット」【映画】

2023.8.3
ペットランキングや数多く配信されている動物動画のなかでも、幅広い層からつねに高い人気を誇っている猫。そこで、オススメの1本としてご紹介するのは、猫好きにはたまらないと話題のドキュメンタリーです。

『猫と、とうさん』

【映画、ときどき私】 vol. 593

俳優兼インフルエンサー、ベイエリアの技術者、路上で暮らす男性、消防士、スタントマン、トラック運転手など、一見何のつながりもない男性たち。それぞれ異なる背景を持つ彼らだが、その共通点は家や職場でともに生活する猫たちをこのうえなく愛していることだった。

そんな彼らに立ちはだかったのは、誰にとっても経験したことのない試練となった2020年。9人の男性たちは、コロナ禍で愛猫とともにさまざまな困難を乗り越えようとしていた…。

ダラス国際映画祭2021やサンフランシスコインディーフェスト2022などで観客賞に輝き、各地で好評を博している本作。そこで、見どころなどについてこちらの方にお話をうかがってきました。

マイ・ホン監督

手がけたのは、ロサンゼルスを拠点に活動しているマイ・ホン監督。自身も、6匹の猫と暮らす愛猫家でもあります。今回は、キャリアにおいて初の長編ドキュメンタリー映画となる本作が誕生したきっかけや猫が男性たちに与える影響、そしてアメリカの猫事情などについて語っていただきました。

―本作は、猫好きではなかった監督のパートナーが猫を飼い始めたことによって変わっていく様子を目の当たりにしたことが制作のきっかけだったとか。実際、どういう変化があったのかを教えてください。

監督 私は彼のことを長年知っていますが、優しい人ではあっても、動物に関心があるタイプではないと思っていました。なので、猫との強いつながりを見たときに「こんなにも思いやりがあって、動物を愛せるキャパがある人だったのか」と私も周りの人たちもみんな驚いたんです。

あと、夫は仕事人間で働きすぎなところがありましたが、以前よりもゆったりとした暮らしをするようになったことで、自分の時間を大切にするようにもなりました。そんなふうに、猫とかかわることによって変わっていく姿を見て感動しましたし、重要な意味を持つことでもあると感じたのです。

男性が猫を飼うことは、まだあまり一般的ではない

―ただ、アメリカでは「猫を飼う男性は変わっている」と見られてしまう傾向があるそうですね。

監督 SNSに猫を飼う男性の投稿が増えていることによって、少しずつ変わってきたとは思いますが、それでも男性が猫を飼うことはまだあまり一般的とは言えないかもしれません。実際、飼っていたとしても、そのことを男性がオープンに話さないこともあるくらいですからね。

私の兄がいい例ですが、実は彼が猫を飼っていることも、猫をかわいがっていることも知らなかったんです。でも、この映画によって彼はそのことを話してくれるようになりましたし、猫との写真をSNSに載せるようにもなりました。そんなふうに、身内にも猫のことを言わない男性もいるほどです。

―驚きのエピソードですが、その背景には「猫を飼っていることを知られるとモテない」と男性が思い込んでいる部分もあるのかなと。

監督 それもありますね。おそらく、テレビや映画が与える影響が大きいと思いますが、男性には猫ではなく、犬がキャスティングされることが大半です。そうなると、男性と猫というのは見慣れない光景になるので、それが彼らにとっては恥ずかしさにつながってしまうのかもしれません。

あと、アメリカでは猫好きの女性を「クレイジーキャットレディ」と呼び、非常識な描かれ方をされることがよくあるので、そういうイメージが広まってしまったことも原因だと感じています。

最近は、有害な男らしさも改善されつつある

―ちなみに、日本でも「猫を飼う女性は結婚できない」と言われていたこともあるので、猫好き女性に対する偏見は似ている部分があるのかもしれないです。

監督 そうですね。アメリカでも猫好きの女性は、1人で猫と住んでいるように思われたり、少し哀れみを持って見られたりする部分もありますから…。でも、私としては、猫の面倒もちゃんと見ることができる自立した女性で、より解放されている人として捉えています。

―そう思います。また、本作では男性と猫を通して、“現代における男性らしさ”について探求したいという意図もあったそうですが、制作過程で新たな発見などもあったのでしょうか。

監督 いわゆる「トキシック・マスキュリニティ(有害な男らしさ)」については、だいぶ改善されているように感じました。それは、MeToo運動のように女性が声を上げられるようになり、男女平等を求めるようになったことも大きいのではないでしょうか。

ただ、進化した部分があるのと同時に、伝統的な男らしさとされるマッチョイムズについては、まだまだかなと思うところも…。その1つの例が銃規制ですが、そういったところは、もっと改善すべきだと考えています。とはいえ、なかなか打破するのが難しい分野ではありますね。

日本には、共通の“猫愛”があると感じている

―なるほど。ただ、本作に登場する男性たちを見ていると、猫にはそれを変える可能性があるのではないかとさえ感じるところもありました。

監督 確かに、そうですね。男性と猫というイメージが広がることによって、もっと男性のソフトな面が出てほしいですし、もっとそこを評価してほしいと思っています。そうすれば、男性もマッチョでいることよりも、動物や人に対して愛情を持って接することに価値を見い出せるようになるからです。そして、それが有害な男らしさによるいじめなどを減らしていくきっかけになったらいいなと考えています。

それから、男性が問題を解決する際のアプローチ方法においても、そういった変化は重要だと言えるのではないでしょうか。映画のなかに、野良猫の問題に取り組む男性が出てきますが、その姿から問題解決においても男らしさではなく、愛情や優しさを持って向き合う大切さを知ってほしいです。

―日本についてもおうかがいしますが、これまでたびたび来日されているということなので、どのような印象をお持ちかをお聞かせください。

監督 日本人は勤勉で職人気質ですし、食をはじめとする文化の発信の仕方も素晴らしいので、私も映画という分野で同じように極められたらいいなと考えています。それと、猫が文化の一部に入り込んでいる国だなという印象です。ロゴや広告など、いたるところに猫がいるので、共通の“猫愛”を感じられて、猫好きの私としてはとても落ち着きます。

楽しみながら仕事をする大事さを伝えたい

―そういった共通点から、今後日本のアーティストと仕事をしてみたいと思うこともあるのでは?

監督 美的感覚が優れた方が多いので、機会があればぜひコラボレーションしてみたいですね。好きな方がいっぱいいすぎて困るのですが、映画監督であれば三池崇史監督のファンです。以前、私はアジア映画祭のプログラマーをしていたこともありますが、そのときにも三池監督の作品は多くかけていましたし、私の周りにも好きな人はたくさんいます。なので、アメリカでも監督の作品は愛されていることを伝えたいです。

―それでは最後に、ananweb読者にメッセージをお願いします。

監督 言い尽くされた表現ではありますが、やっぱり大切なのは「ネバーギブアップ」の精神。私自身も諦めそうになったことはありましたが、40代半ばでジャンルをドキュメンタリーに変更したことでやっと自分に合うものに出会うことができた経験があるからです。「気づくまでにどうしてこんなに時間がかかったんだろう」と思うこともありました。でも、そんなふうにちょっとした調整をしただけで答えが見えてくることもあると知れたので、いまはよかったなと感じています。

この作品も自分の楽しみのために撮り始めたものなので、成功しても失敗しても関係ないという気持ちでしたが、いつの間にか多くの人が共感してくれました。そうやって輪が広がっていき、同時に評価されていることもうれしいですが、その源にあるのは何かというと、自分自身が楽しむこと。キャリアを築くうえではそういうこともつい忘れがちですが、楽しみながら仕事をする大事さをみなさんにも伝えたいです。

“ニャン”とも言えない幸せな気持ちに満たされる!

猫好きはもちろん、まだ猫の魅力に気づいていない人も虜になること間違いなしの本作。思わず釘付けになってしまうかわいさに癒されるだけでなく、個性豊かな猫たちが起こす奇跡の瞬間にも心を奪われる珠玉のドキュメンタリーです。


取材、文・志村昌美

目が離せない予告編はこちら!

作品情報

『猫と、とうさん』
YEBISU GARDEN CINEMA、シネ・リーブル池袋、ヒューマントラストシネマ有楽町他にて公開中
配給:ファインフィルムズ
https://catdaddiesjp.com/
️(C) Gray Hat Productions LLC 2021.