志村 昌美

「横浜流星は本当に純粋な人」盟友の藤井道人監督と後輩の奥平大兼が語る魅力

2023.4.20
4月もまだまだ幅広い話題作が公開を控えていますが、そのなかでも日本映画界が誇る実力派キャストとスタッフが集結したことで注目を集めている1本といえば最新作『ヴィレッジ』。閉鎖的な村社会を舞台に描いた衝撃のサスペンス・エンタテインメントとしても関心が高まっているところですが、本作の裏側についてこちらの方々にお話をうかがってきました。

奥平大兼さん & 藤井道人監督

【映画、ときどき私】 vol. 572

横浜流星さん演じる主人公・優が働くごみ処理施設に後輩として入ってくるワケありな青年の龍太を演じたのは、デビュー作『MOTHER マザー』で数々の賞に輝き、ブレイク必至の若手俳優と話題の奥平さん(写真・左)。そして、監督と脚本を手掛けたのは、『新聞記者』や『ヤクザと家族 The Family』、大ヒット作『余命10年』などで高く評価され、いまや“日本映画界の寵児”とも呼ばれている藤井監督(右)です。今回は、お互いに対する思いや周りに流されないために意識していること、そして人生が変わったと感じた瞬間などについて語っていただきました。

―本作のきっかけは、プロデューサーの故・河村光庸さんから「お面をかぶった人々の行列」や「能」といったいくつかのお題を出されたことだそうですが、最初にお話があったときはどのように思われましたか?

監督 いきなりバーッと言われてしまったので、いつも通り何を言っているのかわかりませんでした(笑)。

奥平さん そうなんですか!?

監督 というのも、河村さんは頭の回転が早すぎて口が追いついていないような方ですからね。でも、そのときから「今回の映画は村社会を描きたい」「若い人の話にしないと意味がない」ということは特に言われていました。

―そこからすぐに物語のイメージは湧いたのでしょうか?

監督 いや、まったくです…。こんなにも脚本の決定稿までに時間がかかったことはありませんでした。衣装合わせのときにもまだできあがっていなくて、みなさんにも「これから作るので少々お待ちください」と伝えていたほどです。

自分とかけ離れた人物を演じるのは楽しい

―キャストの方々には、監督から一人ずつキャラクターシートが渡されていたそうですが、それを踏まえて奥平さんはどのように役作りしましたか?

奥平さん なかでもよく覚えているのは、劇中に匂わせるシーンもないのに「ヒップホップグループの『舐達麻(なめだるま)』を聴いている」と書かれていたことです。それでもとりあえず聴いてみようと思って、京都にいる間はずっと聴くことに。いまではすっかりファンになりました(笑)。

―金髪にタトゥーという外見で、キャラクターとしてもいままでにない役だったと思います。

奥平さん 今回はそれもすごく楽しみでした。というのも、役者の仕事では短期間でも自分が生きられない人生を味わえるので、疑似的に体験できたり、他人の感覚を知れたりするのはうれしかったです。自分とかけ離れた人物を演じるのは、楽しいことだと改めて感じました。

―おふたりがご一緒するのは本作が初めてですが、監督は奥平さんに対してどのような印象をお持ちでしたか?

監督 河村さんが『MOTHER マザー』をプロデュースしたときに「次のスターを見つけた!」とずっと自慢していたので、実は最初は「うるさいなぁ」って思っていたんです(笑)。でも、信頼している流星のマネージャーたちからも「すごいのが入りました」と話があって、そんなにみんなが言うなら見てみようかなと。

奥平さん それはハードル上がりすぎです(笑)。

大兼は見てきた俳優のなかでも一番ニュートラル

―実際お会いしてみて、評判通りだと思われましたか?

監督 評判以上の生き物でしたね(笑)。というのも、大兼は同じことをしないというか、本当に自由にやってくれますから。でも、そこが好きなところです。

奥平さん ありがとうございます!

監督 あとは、いろんな俳優を見てきましたが、大兼は一番ニュートラルというか、計算せずに感じたことでやるタイプなんだなとも思いました。実際、衣装合わせで会ったときに、「僕は事前に考えていくよりも、やってみて理解するタイプなんです」と本人からも言われて何も返せなかったです(笑)。

奥平さん あははは!

監督 でも、だからこそ今回演じてもらった龍太という役にはぴったりだなと。芯の部分を持っているのにそこをなかなか出せない人物だったので、そういうところが大兼とシンクロしていて撮るのが楽しかったです。

―奥平さんは藤井監督の演出に関して、「ヒントをくれつつ自分で答えを見つけさせてくれた」と感じたそうですが、改めて振り返ってみていかがですか?

奥平さん まずこの現場に行く前のお話をすると、ありがたいことではありますが、まだほとんど経験のないときにいろんな映画賞や新人賞をいただいたこともあって、周りの方々が思っている僕と自分自身とのギャップがありすぎてつらいと感じていた時期がありました。というのも、実は僕はあまり自分に自信がないタイプだったので…。

俳優部と成長過程を共有できるのは幸せなこと

―順風満帆のように見えていたので、意外です。

奥平さん だから、現場に行くと「自由にやっていいよ」と言われてしまうこともよくありました。でも、僕自身は「何か言ってほしいな」とずっと思っていたんです。そんなときに藤井さんの現場に行ったら、いろいろと言ってくださったのでそれがすごくうれしくて。

おかげで自分に足りないことやできないことがだんだんわかってきたので、勉強になりました。この作品以降はほかの現場に行っても、毎回藤井さんの言葉がフラッシュバックするくらい。本当にありがたいことだなと思っています。

監督 こちらこそ、そう言ってもらえてうれしいです。

―主演の横浜流星さんについてもおうかがいしますが、長い付き合いがある監督だから言える魅力や素顔について教えてください。

監督 役者のなかには、「作品をどんどんこなしては消化されていく」というのを何回も繰り返していくなかで、潰れてしまう人や間違った方向に行ってしまう人もいます。でも、流星は本当に純粋なので、「作品と監督を信じる」というシンプルだけどすごく難しいことをやり続けられる人。

その結果が今回もちゃんと出ていたので、最後のシーンを撮っていたときに「いい役者になったなぁ」とうれしくなりました。大兼にも言えることですが、俳優部と成長過程を共有できるというのは幸せなことです。

このままではダメになると思って、考え方を変えた

―素敵な関係ですね。奥平さんは横浜さんとは初共演ですが、すごくかっこよくて完璧な方だったので、思わず惚れそうになったとか。

奥平さん 流星くんは同じ事務所の先輩なのでいろんな話を聞いてはいましたが、実際に会ってみないとどんな人かはわからないなと思っていました。ただ、すごくストイックな方なんだろうなとは想像していたので、現場ではなるべく話しかけないほうがいいかなと最初は遠慮してたんです。

でも、あるとき思い切って話しかけたら、集中しないといけないときだったにもかかわらず、すごくやさしく話をしてくれました。そういう僕個人の流星くんに対する気持ちは役とも重なりましたし、おかげで安心してできたと思います。ただ先輩に助けてもらったというだけでなく、人としても教わることがありました。

―監督は『新聞記者』、奥平さんは『MOTHER マザー』で一躍注目されるようになってから、環境が大きく変わったと感じていらっしゃるようですが、日本にはこの作品で描かれているように同調圧力が強いところがあります。そのなかで苦労されることもあると思いますが、周りに流されないためにご自身で意識していることはありますか?

奥平さん 以前は自信がほしいと思っていましたが、最近は「自信は持たなくてもいいっか!」と開き直るようになりました。あとは、小さくてもいいので自分なりの目標を持ち、目の前の壁をちゃんと乗り越えようという意識は持つようにしています。

というのも、実は一度だけ調子に乗りかけた時期があって、何でもやればできちゃう気がして作品に対するベクトルがずれそうになったことがありまして…。でも、「そんなわけはない」とすぐに気がつき、このままでは絶対にダメだと思って考え方を変えました。

自分を否定してくれる人を大事にしている

―そこで客観的に自分を見て修正できるのはすごいですね。監督はいかがですか?

監督 僕は、自分を否定してくれる人やディスってくれる人を大事にするようにしています。監督は神ではありませんが、現場ではどうしてもそういう雰囲気になってしまうことがありますからね。そういったこともあって、自分に対して気を遣わずに話してくれる人にはなるべく近くにいてもらうようにお願いしています。

―なるほど。劇中では、主人公が人生を逆転させたことで生きている実感を得ていく様子も描かれていますが、おふたりにもそういう瞬間はありましたか?

奥平さん すごい前のことですが、空手の大会で優勝したときです。強い人たちがたくさんいましたが、会場のなかで一番自分が強いんだと思えました。といっても、いろんな部門があるので本当はそんなことないのですが…。でも、それまでちゃんと努力していたので、報われてよかったなと感じられた瞬間です。

監督 僕は、いま思えば昨年亡くなってしまった河村さんに引っ張ってもらって、一緒に映画を作るようになってから気が楽になったように思います。それまでは自分がはみ出し者のように感じていましたが、自分よりもはみ出している大人がいることを知ったので(笑)。「この人がオッケーなら自分も大丈夫だな」と考えるようになってから、余裕が出るようになりました。

誰もが壁を乗り越えようとしていると知ってほしい

―それでは最後に、ananweb読者にメッセージをお願いいたします。

奥平さん この映画はいろんな人の目線から見てほしいなと思いますが、その理由は、誰にでもそれぞれ壁があって、それを乗り越えようとしているということがわかるからです。みんな表に出していないだけで、押さえつけられていることって実はたくさんありますよね。そういうことを知る機会というのはありそうでないので、それを知ることができるだけでも気が楽になるのではないかなと思っています。あとは、お願いですからぜひ映画館で観ていただきたいです。

監督 まさにその通りで、もし悩みがあっても、みんなが同じように悩んでいる姿を見れば、自分なりの答えを見つけられるのではないかなと。そして答えが出なくても、それもまた正解だと伝えたいです。「素敵な俳優たちを堪能するもよし、物語にハマってもらうもよし」なので、まずは楽しんでください。

インタビューを終えてみて…。

終始和気あいあいとした雰囲気で、とにかく楽しそうにお話をされていたのが印象的だった奥平さんと藤井監督。そんなおふたりの様子からは、お互いを信頼し合っている気持ちも伝わってきました。近いうちにまたタッグを組まれることがあるのではないかとも感じたので、今後にもぜひ期待したいと思います。

現代社会の在り方に一石を投じる!

日本社会の縮図とも言えるような村を舞台に、現代にはびこる闇をあぶりだしていく本作。心を揺さぶる俳優陣の熱演と映像美に圧倒されるとともに、生きづらさを抱えるリアルな若者たちに自らの姿を重ね、さまざまな問いと答えが頭のなかを駆け巡るはず。


写真・園山友基(奥平大兼、藤井道人) 取材、文・志村昌美
ヘアメイク・速水昭仁 スタイリスト・伊藤省吾(奥平大兼)

ストーリー

美しいかやぶき屋根が並ぶ山あいにあり、夜霧が幻想的な集落・霞門村(かもんむら)。神秘的な「薪能」の儀式が行われている近くの山には、のどかな景観には似つかわしくない巨大なゴミの最終処分場がそびえ立っていた。

幼い頃から霞門村に住む片山優は、この施設で働いていたが、父親が起こした事件の汚名を背負い、さらに母親が抱えた借金の支払いに追われる希望のない日々を送っている。優には人生の選択肢などなかったが、幼馴染の美咲が東京から戻ったことをきっかけに人生が大きく動き出すのだった…。

目が離せない予告編はこちら!

作品情報

『ヴィレッジ』
4月21日(金)より、全国公開
配給:KADOKAWA/スターサンズ
https://village-movie.jp/
(C)2023「ヴィレッジ」製作委員会