思わずほろり…グレた高校生が“後悔”を機に成長する物語『マイ・リグレット』

2024.1.9
お金のない人でもツケ払いで食事ができるとうわさの千田食堂。その善意は本当で、タダめしにありつけると、水津竜丸らグレた3人の男子高校生たちのたまり場に。千田おじいさんの優しさに触れるほど、おじいさんに憎まれ口を叩くようになる竜丸。そんなある日、食堂の扉が閉まっていて…。 優しさを掛け違いながらも互いに関わり、成長していく人たちの物語『マイ・リグレット』に、ほろりとする。その著者が砂糖野しおんさん。

後悔から立ち直ることはできる。そんな希望を抱かせてくれる感動作。

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「やさぐれ主人公に、強烈な後悔を植え付けることから始めたいと思ったんです。“食べること”は生きるのに必要不可欠な欲求であり、年頃の少年たちが集まる十分な理由になると考えたんです。そこから食堂という案を思いつきました。返す当てもないツケ払いでごはんを食べ、罪悪感を覚えながらも千田おじいさんの優しさから抜けられなくなり、罪悪感を抱えたまま優しい居場所だけを突然失う…。言ってみれば自業自得だけれど心痛い始まりは、この物語でしか描けなかったと思います」

千田おじいさんには、繊細すぎて社会になじめず、引きこもってしまった孫の千田涼介がいる。おじいさんの愛情に甘えていたのは竜丸も涼介も同じなのに、最初は互いを〈社会のゴミ〉〈クソニート〉と罵り合う犬猿の仲。だが、言い合いをするたびにそれぞれが自分に何が足りないのかに気づいていく。少しずつ変化していく彼らの心情が細やかに描かれ、読む者の心を揺さぶる。

「竜丸と涼介は“後悔”という共通点こそありますが、年齢も性格も価値観も全然違う者同士。パッとすぐには分かり合えない方がリアルですよね。なかなか仲良くならないのでじれったくもありますが(笑)」

登場人物の表情が豊かで、その表現力にも引き込まれる。

「作画では、喜怒哀楽だけでなく、それ以外の言葉にしにくい表情など、そのときどきの感情に合わせた行動なども描くように意識しています。たとえば竜丸は人前で泣いてしまったのが恥ずかしくて、俯いたり顔を隠したりしていますが、そういったそのキャラクターならではの仕草を描くのが好きです」

優しくされても、その感謝を適切な形で相手に伝えられず悔やんだような経験は誰にでもあるだろう。

「私にも、その当時はそうするしか自分らしくいられなかったと思う経験があり、そこから広げて生まれた作品です。取り返しのつかない後悔で苦しくなったときや、ふと立ち止まりたくなったときに、この物語がそっと寄り添えるような存在になっていれば幸いです」

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『マイ・リグレット』2 竜丸の仲間である勇仁や大和、涼介のお母さんなどサブキャラもみな魅力的。特に、竜丸の変化に疎外感を感じる勇仁のジレンマには共感必至。全2巻。KADOKAWA 770円 ©砂糖野しおん

さとうの・しおん マンガ家。愛知県出身。少女マンガ誌『Cookie』に読み切り作品を投稿。受賞を経て、2022年、「COMIC it」にて本作で商業デビュー。

※『anan』2024年1月3日‐10日合併号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・三浦天紗子

(by anan編集部)