人類の大半が滅びた世界で遺体を回収する主人公…作者の画力にも注目の『ウスズミの果て』

2023.11.6
人類の大半が滅び、〈断罪者〉というプレデターのような存在が跋扈する終末世界。その瘴気によって〈結晶病〉を発症し死に至った人間を埋葬するのが、主人公・丑三小夜(うしみつ・さや)の任務だ。小夜はクーという正体不明の小動物(これが超可愛い!)を相棒としながら、遺体を回収する仕事を続けている。壮大で無二の世界観で描かれる岩宗治生さんの『ウスズミの果て』が、面白すぎる!
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「この世にひとりぼっちで残されたらどうしようというのは、自分がよくやる空想なんです。連載を始める頃にちょうどコロナ禍が重なって、僕の中で『世界が終わってしまったら…』がかなりリアルに考えられた。小夜自身はその特別な出自からいまの僕らの感覚とは若干ズレがあると思いますし、そもそも彼女には希望も絶望もないのではないかなと。もし自分が小夜のような境遇にいたら、暇を持て余すよりは生存者を探して、土地を浄化してというタスクをコツコツやり続けることに意味を見出すのではないでしょうか」

荒廃した街を彷徨う小夜がどんな体験をし、誰と出会うかが読みどころ。第九、十話(2巻に収録)の図書館エピソードは、紙の本を愛する人には絶対に刺さる神回だ。

「ストーリーは、人物より、道具や場所をまず考えて、そこにどんな存在がいたら面白いだろうと考えて、組み立てていくことが多いです。建物など廃墟化したときに映えるような場所を意識しています」

小夜がイサミとカノコという兄妹に出会うことで、また物語は大きく動く。だが、なぜイサミとカノコは生き残れているのだろう。

「人類が生き残れないほどの厄災が前提としてあるので、軽々しく生存者がいたというのも変だなと。こんな世界だからこそ、生きていられるのはよほど限定的な条件だよなと考え抜いて思いついたのがあのふたりの特性なんですよね」

ストーリーにもわくわくするが、岩宗さんの画力にも一目で射貫かれるはず。作画はフルデジタル。廃墟写真などの資料の他、土木作業の関連本からイメージを膨らませた。廃墟につきものの繁茂する植物の様子などは、街中の植物が絡まった建物などを参考にしているそう。

「マンガってやっぱりキャラクターが生きているかのように伝えるのが大事で、それには廃墟にあっても生活感が不可欠だろうと。背景を細かく描き込むことで作品世界をリアルに感じてもらえたらうれしいです」

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『ウスズミの果て』2 終末モノを描くにあたり強く影響されたのは、弐瓶勉さんの代表作『BLAME!』だというが、ストーリーや画面構成にオリジナリティが光る。KADOKAWA 792円 ©岩宗治生/KADOKAWA

いわむね・はるお マンガ家。1991年、大阪府生まれ。2020年からSNSにマンガ投稿を始め’21年7月『ハルタ』増刊号掲載の読み切りで商業誌デビュー。

※『anan』2023年11月8日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・三浦天紗子

(by anan編集部)