中国と熾烈な緊張関係にある台湾、フェイクニュースから国民を守るサービスを開発

2023.7.8
意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「台湾ガブ・ゼロ」です。

市民主導の課題解決。見習うべき点が多々ありそう。

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「ガブ・ゼロ(g0v)」とは、オンラインで運営されている、台湾のシビックハッカーのコミュニティ(市民政府組織)です。2か月に一度、ハッカソンを開催しています。ハッカソンとは、「ハッカー」と「マラソン」を組み合わせた造語で、あるテーマに対して、プログラマーやグラフィックデザイナー、エンジニアなどが集まり、アプリケーションやシステムを開発するイベントのことです。

ガブ・ゼロが世界に広く知られるようになったのは、コロナ禍になってすぐです。マスクの入手が困難になっていた当時、在庫がどこにあるかがすぐにわかるシステムを開発し、それを見た台湾のデジタル担当相、オードリー・タンさんが、その仕組みを政府で採用することを決めて、「マスク配布システム」が実現しました。

ガブ・ゼロは、さまざまなシステム開発を行っていますが、LINEを使った「Cofacts」というプロジェクトが注目されています。世の中に飛び交う情報が、正しいのかフェイクなのか? 情報元はどこなのかなどを瞬時に教えてくれるサービスです。これは、中国からの認知戦の防衛のために作られました。いま中国と台湾は熾烈な緊張関係にさらされており、中国は台湾の政権転覆を狙っているといわれています。圧倒的な量のフェイクニュースを流し、台湾人民の意識をコントロールしようとしているのです。

日本にも「Code for Japan」という市民団体がありますが、残念ながら台湾のガブ・ゼロのように政府との連携はできていません。

ガブ・ゼロのウェブサイトは多言語対応しており、日本語でも読めます。世界に対して、活動を報告しています。なぜなら、フェイクニュースは、他国の国民を洗脳するためにも流されているからです。「蔡英文政権はダメだ」という流説を世界に広められたら、世の中はそういう空気に包まれてしまいます。これまで公表していませんでしたが、ガブ・ゼロを立ち上げたメンバーは2014年に起きた「ひまわり学生運動」に参加していました。ITを使い、市民が民主主義を自分たちで守る新しい形がここにあると思います。

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ほり・じゅん ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX月~金曜7:00~8:30)が放送中。

※『anan』2023年7月12日号より。写真・小笠原真紀 イラスト・五月女ケイ子 文・黒瀬朋子

(by anan編集部)