外国人ファンも急増中! 新版画ブームの火付け役・渡邊庄三郎の軌跡を辿る展覧会

2023.6.26
新版画とは、江戸時代から続く伝統的な浮世絵木版画の技術を使って、同時代の画家の作品を表現したニューウェーブのこと。明治以降、写真や印刷技術の普及で衰退の一途をたどっていた木版画技術に注目し、温故知新ともいえる新しい作品を考案し広めた人物が、渡邊版画店(現・銀座8丁目にある渡邊木版美術画舗)の初代店主・渡邊庄三郎だ。

色鮮やかな新版画から渡邊庄三郎の軌跡を辿る『THE 新版画 版元・渡邊庄三郎の挑戦』。

庄三郎は17歳で浮世絵商・小林文七の輸出の出店に勤め、そこで出合った浮世絵木版画特有の美しさに魅了される。その後独立し、明治42年に東京・京橋に渡邊版画店を構え、浮世絵を販売。大正4年から版元として、来日した外国人画家の作品の版画化に始まり、鏑木清方門下生だった伊東深水を中心とした新進気鋭の画家たちを絵師に起用して、新たな木版画を作り始めた。

版画は絵師、彫師、摺師(すりし)の分業で制作される。それを統括する庄三郎は版元として類いまれな才能を発揮した。例えば摺師には、わざと凹凸のあるバレンを使って版画を摺らせて、従来にはなかった味わいのある「ざら摺り」の手法を開発。また1枚の版画に30~40回もの多重摺りを行い、古典にはなかった精緻で鮮やかな色彩を実現。その創意工夫に溢れた美しい新版画はたちまち話題となり、それらの作品をきっかけに次々と新版画の版元も登場。庄三郎はまさに新版画ブームの火付け役だ。

本展はそんな新版画の数々から庄三郎の仕事ぶりが窺える、いわばプロデューサーの回顧展。美人画、風景画、役者絵、花鳥画など、江戸時代から続く浮世絵版画の定番モチーフごとに、その魅力と進化ぶりをたっぷりと紹介している。

2000年代にリバイバルブームが巻き起こった新版画だが、昨今は日本ならではのアートとして、特に外国人ファンが急増しているというニュースもあるほど。本展は海外でも話題になっている新版画について学べる絶好の機会となるだろう。

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チャールズ・W・バートレット《ホノルル浪乗り》大正8年(1919)渡邊木版美術画舗蔵
新版画誕生のきっかけとなった外国人作家フリッツ・カペラリやチャールズ・W・バートレット、橋口五葉など草創期の作品から展覧会は始まる。

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川瀬巴水《清洲橋》昭和6年(1931)渡邊木版美術画舗蔵

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川瀬巴水《日本風景集II 関西篇 京都清水寺》昭和8年(1933)渡邊木版美術画舗蔵
風景画では場所や構図、摺りの技術などが詳しく紹介される。「巴水ブルー」と呼ばれるきっかけにもなった川瀬巴水の作品をはじめ、笠松紫浪など渡邊版画店を代表する風景画の名手を中心に展示。

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小早川清《舞踏》昭和9年(1934)渡邊木版美術画舗蔵
当時のモダンな雰囲気の女性たちをカラフルに描き出した小早川清の作品をはじめ、女性の日常的なシーンを描いた多彩な美人画も登場。

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山村豊成(耕花)《梨園の華 十三代目守田勘彌のジャン・バルジャン》大正10年(1921)渡邊木版美術画舗蔵
渡邊版画店で人気の高かった役者絵。山村豊成、名取春仙の歌舞伎役者の似顔絵作品を見た庄三郎は彼らをスカウトし、江戸の浮世絵とは異なる新時代の役者絵を誕生させた。

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小原祥邨《柘榴に鸚鵡》昭和初期 渡邊木版美術画舗蔵
花鳥新版画の中でもモダンさと日本情緒の絶妙なバランスを持つ、小原祥邨の作品。

『THE 新版画 版元・渡邊庄三郎の挑戦』 美術館「えき」KYOTO 京都市下京区烏丸通塩小路下ル東塩小路町 ジェイアール京都伊勢丹7階隣接 6月24日(土)~7月30日(日)10時~19時30分(入館は閉館の30分前まで) 会期中無休 一般1000円ほか TEL:075・352・1111

※『anan』2023年6月28日号より。文・山田貴美子

(by anan編集部)