映画『零落』で共演 斎藤工×趣里が語る、作品と登場人物の魅力とは

2023.2.8
元人気漫画家と風俗嬢の哀しくも美しい愛を描いた映画『零落』。本作で共演した斎藤工さんと趣里さんが、作品を通して感じた“惹かれる”気持ちを掻き立てる、カタチのないものの正体とは?

斎藤工×趣里が考える、引き寄せられる偶然と必然。

Entame

浅野いにおさんの漫画が原作の映画『零落』で、初共演を果たした斎藤工さんと趣里さん。落ちぶれてゆく人生や人間を描いた、重苦しい世界観に、強く惹かれてしまうのはなぜだろう。

――原作ファンが多い作品ですが、おふたりが感じるこの作品の魅力とは?

趣里:誰しも人間は、表には出さない部分でいろいろ抱えていると思います。その“触れてはいけないもの”が見えてしまった時に、自分と重ね合わせたり、そこから何かを思い出して衝動的に惹きつけられ、他人事ではなくなって目が離せなくなってしまう。私もいにおさんを通して、いろんな感情になったし、そして、その感情に寄り添ってもらえるような不思議な感覚も覚えました。

斎藤工(以下、斎藤):すごくわかります。いにおさんの作品ってそれまでも、人間の赤裸々な部分を表現されてきたと思うし、それって苦しいことでもある。『零落』ではさらに描き手の本性を晒し、内臓まですべて見せられるような感覚でした。そこに読み手の僕の、内側にある何かが反応し、同期してしまう瞬間があって。だからこの作品には、どうしても人に見せたくない自分が宿ってしまっていて、“好きだけどすごく嫌い”でもあるんです。コンディション次第では向き合いたくない日もあるというか…。

――辛いけど目が離せない、そんな感覚は映画でも感じました。斎藤さん演じる深澤は、虚無感に包まれた毎日の中で趣里さん演じるちふゆと出会い、惹かれていきますが、それぞれの役を演じてみた感想をお願いします。

趣里:ちふゆが実在する人物だとすれば、いにおさんにとって思い入れのあるキャラクターだと思ったので、演じるにあたりプレッシャーはありました。喋り方や言葉に特徴がある女性ですが、それは自分を武装するためなのかな、なんて、想像させられたりもして。

斎藤:趣里さんが初めてちふゆとして現場に現れた時、漫画のキャラに生き写しだと思ったし、ちふゆに会った感じがしました。完成した作品を観たら、ゆるぎない世界観を表現してくれていて、とても贅沢な気持ちでした。

趣里:ありがとうございます。ちふゆを理解するために、いろいろ悩み考えて臨んだのですが、現場に行ったら全部手放せた感じでした。作品の空気感がすでに漂い、照明なども素敵に作られていた中で、深澤を感じて。工さんや監督の竹中(直人)さんはじめ、たくさんのことが助けになったと思います。

斎藤:準備をして現場でそれを表現することでは、太刀打ちできないものがありました。何かを用意するのではなく、もっと踏み込んで、内側に寄り添わなければいけない、と。深澤には、自分という概念がないような気もしていて…フィギュアっぽいというか。もしかしたら、ちふゆも彼が作り出した幻影なんじゃないかという気すらします。そして、ちふゆを媒介とすることで、やっと呼吸ができるような関係性なのかもしれません。異性としてちふゆに惹かれた部分もありますが、取り巻く空虚感みたいなものの周波数が心地よかったんだろうなって。

趣里:私も、ちふゆって本当に存在しているのかな? と思う瞬間がありました。もしかしたら深澤が勝手に作り出したものなんじゃないかって。だからいつ現れて、消えるかわからない。

斎藤:漫画のキャラクターって、それが魅力ですよね。例えばSNSを含め、知らなくていいことまで必要以上に情報を得てしまうと、それ以上の想像はしないけれど、小説や漫画のキャラクターのように、情報のかけらを拾い集めて想像することで、その人の存在がどんどん強まっていくというか。だから、ちふゆが深澤に断片的に見せるものが、ことごとく神秘的で美しいんだと思います。

趣里:正体を知ることが正解ではないと感じたことが、この作品や登場人物の魅力かもしれません。嘘かもしれないと思うと、より惹かれてしまう…。今こうして話していて、深澤が受けたダメージを思い出してしまい、また辛くなりました。それでも工さんは現場ですごく軽やかにいてくださったんです。

斎藤:いや、すごく辛かったですよ。でもその辛さが、クリエイティブにつながっているのかもしれない。正負の法則で言えば、負があるから正が生まれる。それが観る側の“心当たり”につながる作品だと思います。

Q、男女問わず、惹かれるのはどんな人?

内側から滲み出るもの(斎藤さん)
答えは…模索中(趣里さん)

「役者は見た目の印象も大事ですが、中身がないと演じられません。そして、内面が顔や表情に滲み出るもの。外側が目立つ時代ですが、肝心なのは中身であり魂」(斎藤さん)。「友達に言わせると、私が惹かれる要素やジャッジは間違っているらしい(笑)。だから自分の物差しを一回折って…現在模索中です」(趣里さん)

Q、最近、強く惹かれたものは?

スタミナラーメン(斎藤さん)
お餅(趣里さん)

「最近はヘルシーな食生活を送っていたんですが、先日グルテンたっぷりのスタミナラーメンを食べたらめちゃくちゃ美味しくて(笑)。チートデーはちゃんと設けるべき」(斎藤さん)。「お餅が大好きで正月に食べるお雑煮が毎年楽しみなのに、今年は全然食べられず。“餅”の字を見るたびに反応してます(笑)」(趣里さん)

自分の“思い当たる部分”が見えて、目が離せなくなる。

Entame

映画『零落』 8年間の連載が終了した漫画家・深澤薫は、鬱屈とした生活を送っていた。SNSに書き込まれた読者の酷評、アシスタントからの覚えのないパワハラの訴え、そして漫画編集者の妻とはすれ違う日々。こうして行き詰まった主人公の前に現れるのが、ミステリアスな女性・ちふゆ。本作で注目すべきは、特殊な出会い方をしたふたりが、不思議な力で引き寄せられるように惹かれ合う関係性。相手をよく知らないからこそ、“本音”で向き合うことができ、互いが強い影響力を持つ様が描かれる。そんな深澤の苦悩から目が離せないのは、きっと観ている自分にも思い当たる部分があるからだと、斎藤さんと趣里さんは語る。自分の本性をえぐり出されそうな怖さにこそ、“惹きつけられる”理由があるのかもしれない。3月17日より、全国ロードショー。©2023 浅野いにお・小学館/「零落」製作委員会

さいとう・たくみ 1981年8月22日生まれ、東京都出身。出演映画『イチケイのカラス』『THELEGEND & BUTTERFLY』が現在全国映画館にて公開中。また、出演ドラマ『超人間要塞ヒロシ戦記』(NHK総合)が2月13日より放送スタート。
ジャケット¥74,800 シャツ¥35,200(共にGraphpaper TEL:03・6418・9402) その他はスタイリスト私物

しゅり 1990年9月21日生まれ、東京都出身。近年の出演作品に映画『流浪の月』、ドラマ『サワコ~それは、果てなき復讐』、舞台『温暖化の秋』などがある。2023年後期放送予定の連続テレビ小説『ブギウギ』でヒロインを務める。
ドレス¥79,200 中に着たボディスーツ¥30,800(共にCFCL support@cfcl.jp) ピアス¥651,200(TASAKI TEL:0120・111・446)

※『anan』2023年2月15日号より。写真・倉本侑磨(PygmyCompany) スタイリスト・三田真一(KiKi inc./斎藤さん) 中井綾子(趣里さん) ヘア&メイク・赤塚修二(斎藤さん) カワムラノゾミ(趣里さん) インタビュー、文・若山あや

(by anan編集部)