神木隆之介「好きになってほしい、尽くしたい」 一途な役が多い理由

2020.1.10
岩井俊二監督の最新作『ラストレター』は、現在と過去の回想シーンを行き来しながら、手紙の行き違いをきっかけに生まれた2つの世代の恋愛が描かれる。姉・未咲の葬儀の場で、彼女の娘・鮎美(広瀬すず)から、未咲宛ての同窓会の案内を受け取った裕里(松たか子)。姉の死を知らせるために同窓会へ出かけるが、本人だと勘違いされたうえ、初恋の相手である作家の鏡史郎(福山雅治、回想・神木隆之介)と再会。彼が姉を今でも想っていることを知った裕里は、本当のことを言い出せないまま、文通をし始める。作家の鏡史郎を演じる神木さんにお話を伺った。

追いかける恋をする役には共感できる。演じていて楽しいです。

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岩井監督は、“優しい映画を撮る監督さん”という印象でした。実際、『ラストレター』の撮影現場には、優しく、ほんわかした雰囲気が流れていましたね。でも、演技をしていて、不思議な感覚に陥ったんです。それは、森七菜ちゃんのリアクションがすごく自然で、演技じゃなく、リアルタイムのものに感じられたから。か細い声で言う「ごめんなさい…」「ありがとう」みたいなセリフなんて、“人は言うよね、こういうふうに”って思ったし、岩井監督は七菜ちゃんに、何をどうやって伝えたんだろう、と気になりました。そんな現場だったから、僕も生身の相手の感情や動きを捉えて、感じて、返していかなきゃダメだと思い、彼女に身をまかせて、演じるのではなく乙坂鏡史郎その人としてやりました。本番中かどうかよくわからない、夢うつつの状態でお芝居をしている感覚があり、すごく貴重な経験になりました。

鏡史郎は、ちょっと小心者だけど、内面は爆発したい人。だけど不器用だから発散の仕方がわからなくて、恋をしても一人で悶えている。そんな彼が、好きな人に想いを伝えるために見つけた方法がラブレターを書くことだったけど、きっと、自分が文章が上手いかどうかなんて関係なく、「これだ」と思い込んでしまったんでしょうね。僕からすると、“あんた、告白するよりラブレターを出すほうが恥ずかしいの、わかってる?”って言いたいけど(笑)。でも、メッセージを送るツールがたくさんある今の時代に、あえて手紙を選ぶのは、すごく素敵ですよね。文字には書く人の考え方や人間性が出るし、相手を思う時間も長いもの。無機質じゃなく、密なものだと思います。

恋愛映画では、今作や『フォルトゥナの瞳』のように、恋に落ち、一途に想い続ける役が多いです。その理由ですか? 僕自身が追いかけたい側だからかもしれません。好きになってほしい、尽くしたい、笑ってほしいという気持ちに共感できるからやりやすいし、演じていて楽しいです。何度か演じたことで、板についてきたというのもあるかもしれないけど。恋する気持ちは、相手を目で追って表現するようにしています。やっぱり、複数の人がいるのに見ちゃうというのが、相手を好きだとか、興味を持っている証だと思うから。

今作には、昔の恋愛や想いを引きずっている人がたくさん登場します。僕、過去の何かに縛られている人の感情って、今にも崩れそうな、繊細なものだと思っているし、そういう部分が垣間見えた瞬間には憂いがあって、すごく魅力的に映るんです。そんな人に憧れます。大人になった鏡史郎(福山雅治)と、彼と同じ女性を愛した阿藤陽市(豊川悦司)の二人もそうですよね。過去を吹っ切れているように見えて、全然そうじゃなくて。その事実に気づいた時の表情は言語化できないほどに美しかったし、そういう表情ができる大人になりたいと思いました。完成した作品を試写会で観て、二人が対峙するシーンは大人の世界だと思いました。いずれは僕も、誰かのことを引きずって、不完全燃焼のまま生きてしまい、“その想いをどうやって思い出に変えるんですか?”と問われるような役をやってみたいです。もちろん、今じゃなくて将来! いつかね! だって、僕はまだ、過去を引きずって、掘り返して、傷んでという経験をしていないし、わからないから。いろいろな経験をして、さまざまな感情を味わって、ヒゲとかが似合うような大人になってから、挑戦できたら嬉しいです。

どんなに素晴らしい恋もいずれは変化するもの。

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学校のヒロイン的な存在である未咲と、彼女に想いを寄せる鏡史郎(回想・神木隆之介)。彼の文才を知った未咲は、この階段のシーンで、とある大事なお願いごとをする。

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同じ部活に入った鏡史郎に、密かに片想いをしている裕里(回想・森七菜)。彼が姉の未咲に一目惚れしたことを知り、ラブレターを書いて想いを伝えることを提案する。

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夫の勘違いと嫉妬によってスマホを壊されたことをきっかけに、手紙のやりとりを始めた裕里と鏡史郎。しばらく文通を続けていたが、ある時、鏡史郎が会いにやってくる。©2020「ラストレター」製作委員会

かみき・りゅうのすけ 1993年5月19日生まれ、埼玉県出身。映画『屍人荘の殺人』が現在、全国公開中。3都市で上演される舞台『キレイ-神様と待ち合わせした女-』に出演している。

※『anan』2020年1月15日号より。写真・野呂知功(TRIVAL) スタイリスト・百瀬 豪 ヘア&メイク・MIZUHO(vitamins) インタビュー、文・重信 綾

(by anan編集部)

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