会社を辞めて、こうなった。【第43話】 マインドフルネス×パンク・ロック! ドラッグ、アルコール中毒と向き合う。

2017.1.19
マインドフルネス最先端のアメリカ。築30年のパンク・ロックライブ会場で行う、中毒者向けのマインドフルネスミーティングをレポート!

【土居彩の会社を辞めて、サンフランシスコに住んだら、こうなった。】vol. 43

 

【第43話】マインドフルネス×パンク・ロック! ドラッグ、アルコール中毒と向き合う。

1979年にマサチューセッツ大学医学大学院で分子生物学の博士号を取得したジョン・カバット・ジン博士が同大メディカルセンターでストレス軽減のためのマインドフルネスプログラムを開発し、今年で38年。Googleの技術者だったチャディー・メン・タンが2007年に社員教育の一貫として神経科学、EQ(心の知能指数)開発におけるエキスパートとともにマインドフルネスを取り入れたプログラムを提供する教育機関SIYを設立、2012年には非営利組織・SIYLIとして独立した。マインドフルネスとは、そもそも仏教でいう涅槃に到達するための8つの実践のひとつ。そこで玄米菜食・身土不二をベースにした食事療法のマクロビオティックのように、ある意味逆輸入状態でもあるけれどマインドフルネスと言えば、アメリカは日本よりも30年以上の歴史を持つ。2007年には非営利団体・マインドフルネススクールが設立され、学級崩壊に悩む小中学校の授業にマインドフルネスを取り入れたプログラムが。警察官の心のケア、そして彼らの慈愛精神を育むためにマインドフルネスを取り入れる郡もある。マインドフルネス先進国・アメリカでは、さまざまな形のマインドフルネスが社会に浸透している。

パンク・ロックスタイルでマインドフルネス治療。

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「Against the Stream」代表のノア・レヴィン著『REFUGE RECOVERY』。ドラッグ、アルコールなどの中毒者向けのマインドフルネス実践書だ。無料で配られる冊子(黄色)には「人間性を高めるための心理学」だと仏教の教えを説明している。

そんななか、パンク・ロックスタイルでマインドフルネスを使った社会変革を行うという「Against the Stream」(流れに逆らう)が。その名にはラディカルな形でマインドフルネスを学ぶというだけではなく、仏陀の辿ったスピリチュアルな道とは、人間の一般的な意識の流れ(不快なものを忌み嫌って避け、快を与えるものに執着して固執すること)に逆らうことだ、との意味も込められている。LAとサンフランシスコにセンターを持つAgainst the Streamは、ノア・レヴィンによって2008年に設立。全身タトゥーバリバリのノアは、いわゆる ”仏教を教える先生“ というイメージとは全くかけ離れている。アメリカ仏教作家のステファン・レヴィンを父に持ち、カリフォルニアにある仏教瞑想センター「スピリット・ロック」で父と懇意であった、アメリカ・ヴィパッサナー瞑想ムーブメントを起こしたひとりでベストセラー作家のジャック・コンフォールドのもと学ぶ。サンフランシスコにある大学院CIIS(かつて禅研究家のアラン・ワッツも教えていた)でカウンセリング心理学のマスターも取得している。そんなAgainst the Streamの姉妹組織に、「Refuge Recovery」がある。ノア自身、青少年時代ドラッグに溺れた経験があり、マインドフルネスを用いドラッグやアルコール中毒と向き合い、社会復帰するための団体だ。バークレーでも毎週日曜日10時〜11時30分にミーティングがあると聞き、いかなるものかと参加してみた。

築30年のパンク・ロックライブ会場で瞑想。

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築30年のパンク・ロックライブ会場が瞑想の場。約1年半から毎週日曜日に1時間半セッションを行っている。

バークレーでは珍しく大雨であったにも関わらず、参加者は30名。中毒者である必要はなく、参加資格はオープンだ。参加者の2/3程度がなんらかの中毒治療中で、総合病院のカイザーから紹介されてやってきたという人だった。参加費はドネーション制(5ドル払うのが望ましいとのことだが、社会的立場や収入により自由。定額は無い)。場所はなんと、壁一面にグラフィティがびっしりと描かれている、築30年のパンク・ロックライブ会場である。いい感じにボロボロになったソファやパイプ椅子など、好きな席に座ったら、鐘の音でセッションスタート。輪になって「アヤ!」というようにひとりずつ名前を順に言う。その後30分、足を組む必要はなく椅子に着席したままの状態で坐禅がスタート。ボランティア・インストラクターによる誘導瞑想で特にフォーカスされていたのは、自分に対する優しさ、慈しみを育み、そしてその優しさを徐々に周囲へと拡大していくという ”メッタ・メディテーション(慈愛の瞑想)“ だった。なるべく声に変化をつけるために、毎週男性・女性とファシリテーターの性別を交互にするのだという。

坐禅が終わると15分間、ノアが書いた本『Refuge Recovery』を1段落ずつ順番に読んでいく。内容は仏陀の教えを中毒者向けに解釈したもの。自分を責めるのではなく、新しい習慣を作っていこう。他力ではなく自力にフォーカスしよう。”変われる” でも “弱さ” がある自分を慈しみ認めよう、といったメッセージ性が強い内容だった。その後15分間はシェアリングの時間。つまり、自分のマインドフルネス実践に関する疑問や助けになった点、日常生活のなかで向き合っていることを自由に打ち明け合う。話している人以外は、心を込めて聞くが、決してその意見に対してジャッジはしない。ひとりひとりのシェアリングを聞きながら感じたのは、みんなとても正直だということ。「孤独だ」、「やっぱり飲みたくなる」、「でもこの場に来られたことが幸せだ」などの独白の中には、いわゆる仏教系のシェアリングでは今まで聞いたことも無い「ファック(クソ)」という単語が何度も繰り返し使われる。お酒や薬物との関係における自分の弱さ、苦しみをさらけ出す彼らの言葉。この場は、脆い、むき出しの状態を晒せる安全な場所である、という共通認識と強い一体感を感じた。

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12月31日に配られたというバンド。幸運を願う赤色の紐に3つの結び目が。ノアが考える三宝、仏陀、ダルマ(仏教の教え)、サンガ(ともに実践する仲間)を表している。

アメリカに来てからずっと感じていた違和感がある。“What’s up? (調子はどう?)” と聞くと、みんな “Pretty Good(すっごくいい感じ)” とか “Great(最高)” と答えるが、スターバックスのトイレは信じられないぐらいトイレットペーパーが床に散乱してめちゃくちゃ。先学期、学校の同級生で風邪でもないのに「震えが止まらない」と2週間クラスを休んだ子がいる。いつも挨拶をしたら “Good” と言っていたのに…。ボランティアに参加したらまだ終わっていないのに、「CV(履歴書)にサインしてもらえますよね」なんて代表者に確認している学生もいる。「いつもいい感じ」でいる自分を演出しなきゃいけないアメリカって、なんだか大変だなぁ。「アヤは自分の英語がヘンっていうけど、ゆっくり言葉を選びながら話している。そのペースが心地よいんだよ」とアメリカ人の友達に言われたことがある。アメリカに来て2年、マインドフルネスの旅はまだまだ続きそうだ。

See You!

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お気に入りのデッドストックショップ『caviar and cigarettes vintage』にて50ドルで購入したThe North Faceのジャケット。鏡にもグラフィティが!