会社を辞めて、こうなった。【第42話】 全米最大規模の環境会議・Bioneers! 2組の女性アーティストに注目。

2017.1.12
カリフォルニア州・サン・ラファエルで行われる環境イベントBioneersに参加。独自のスタイルで社会活動を行う2組の女性アーティストについてレポートします。

【土居彩の会社を辞めて、サンフランシスコに住んだら、こうなった。】vol. 42

 

【第42話】全米最大規模の環境会議・Bioneers! 2組の女性アーティストに注目。

毎年10月末にカリフォルニア州・サン・ラファエルで行われるBioneers(バイオニアーズ)。”持続可能な社会作り”をテーマに、生物の持つ機能を模倣する先端技術「バイオミミクリ」を提唱する科学作家のジャニン・ベニュス(TEDTalksはこちら)や、社会の中で抑圧された「女子力」の強さを宣言する、劇作家のイヴ・エンスラー(TED Talksはこちら)などが登壇。その他アメリカ先住民の叡智から気候変動について考えるフォーラムや種の交換会など、参加型のワークショップなど盛りだくさんな全米最大規模の環境イベントです。費用は3日間朝から晩まで贅沢なプログラム内容がみっちり!、で約5万円。決して高くは無いのですが、安くもない。しかも社会活動ってなんだかちょっと敷居が高くて、縁遠い? ということで、Bioneers会場内、無料で楽しめるスポットで出会ったスタイリッシュに言葉の力で社会正義を提案していた2組の女性アーティストをレポートします。

造語から、現代社会の動きを探る。

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The Bureau of Linguistical Realityのヘイディ(左)とアリシア(右)。「わざと風刺的に偽物の政府っぽいスタイルにしているの」。2人がデザインしたロゴは、地元産業を守るためにローカルの工場に依頼してワッペンに。写真・Hiromi Bower Ui

一組目は、The Bureau of Linguistical Reality。設立者のへイディとアリシアが注目するのは、言葉。「言語によって存在する言葉、無い言葉ってありますよね。例えばドイツ語の ”ツァイトガイスト“。ある時代に共通する人間の精神的態度、様式、理念を意味します。でもそれと全く同じ意味をひと言で表す言葉が英語、日本語にはありません。となるとドイツ語を話さない人にとっては、この言葉が持つ概念を全く同じように共有することができないわけです。これを『サピア=ウォーフの仮説』と言って、古くから哲学者、言語学者、心理学者が提唱してきました」と2人。

まさに先日久しぶりに日本に帰ったら、8歳の甥っ子の言葉が全くわからなかった私。浦島太郎状態、日本語ネイティブなのに、である。「そう、言葉は生き物なんです。どんどん変化して、新しい単語や表現が生まれていく。逆に廃れていく言葉もありますよね。言葉は社会の鏡なんです」。

『スーパー ドラゴンボールヒーローズ』がわからず、甥っ子とコミュニケーションできなかった私とは違い、急速な気候変動にともなって自分たちの気持ちや考えを的確に表す言葉が見つけられなくなったという2人。それがThe Bureau of Linguistical Realityの活動をスタートしたきっかけだという。「Solastalgia(ソラスタルジア)という言葉をご存知ですか? 2003年にオーストラリア・マードック大学の持続可能・技術政策研究所所長を務める哲学者・グレン・アルブレヒトが新しく作った言葉です。その意味は、自分の慣れ親しんだ土地が戦争や環境破壊で変貌してしまうのではないかと苦悩すること。まさに私たちの感情をひと言でピッタリと表していると思ったんです。そこで私たちは全世界で新しく生まれた言葉に注目して、社会がどうなっているのか探究し、発表しているんです」。現在、アメリカLA、NY、フランスを中心に活動している。

参加者の心の声を美しいタペストリに。

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Climbing PoeTreeのナイーマ(左)とアリクサ(右)。音楽活動のほか、2人がデザイン販売するハンドメイドTシャツも。売上の一部は、青少年支援に使われる。写真・Hiromi Bower Ui

二組目は、Climbing PoeTree。ナイ―マとアリクサの女性アーティストコンビだ。ヒップホップとワールドミュージックが合わさった独自の音楽スタイルで、社会問題や環境問題を訴える。「結成して13年以上経ちますが、アメリカを始め、南アフリカ、キューバ、メキシコ、イギリスなどでライブを行ってきました」と2人。活動の場は、国連、ハーバード大学、リカーズランド収容所などと幅広い。車を使った移動は、リサイクルの植物油で走るバスを利用してきたという。最近では、アメリカ・ノースダコタ州とイリノイ州を結ぶ石油パイプライン「ダコタ・アクセス・パイプライン」の建設をめぐった抗議デモ活動 “スタンディング・ロック” に賛同し、アメリカ先住民のOceti Sakowinキャンプでライブ活動を行った。

「2005年からですが、音楽活動だけではなく、S.T.I.T.C.H.E.Dというプロジェクトも行っています。ライブやワークショップに来てくれた皆さんにカラフルな布とペンを渡すんです。そして、深くて暗い誰にも言えないことだったり、高く輝かしい夢だったり、なんでも書いてくださいとお願いしています」。参加者に書いてもらった布をつなげて美しいタペストリにしているのだとか。「家族への愛を綴る人もいれば、実の父親にレイプされたときの心の傷と向き合う言葉もありました。旅を重ねるごとにタペストリは大きく、長くなって…」。これまでに10000以上のストーリーが集まったのだとか。「私たちだけではなく、みんながアーティスト。発言して、それぞれのストーリーを世界に向けて語ることは、とても大切でパワフルだと思っています」。

社会活動といったらなんだかとても難しくて、拡声器片手にしかめっ面で叫ぶ…。という先入観があった私。独自のスタイルで社会と向き合う2組の女性アーティストにインスパイヤされた3日間でした。

See You!

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せっかく素敵な写真を撮ってもらったのに、カメラを向けられ照れくさく、しかめっ面。1月中にgreenz.jpより、エシカルをテーマにBioneers参加者を取材&撮影した記事がUP予定です!写真・Hiromi Bower Ui

 

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PROFILE
土居彩
編集者、ライター。14年間勤務したマガジンハウスを退職し、’14年12月よりサンフランシスコに移住。趣味は、ヨガとジョギング。ラム酒をこよなく愛する。目標は幸福心理学を学んで、英語と日本語の両方で原稿が書けるようになること。