会社を辞めて、こうなった。【第12話】 英語がわかり始めた意外なきっかけ。

2015.4.5 — Page 1/3
日本で編集者としてバリバリ働いてきた筆者・土居。しかしここサンフランシスコでは、職業もなく、収入もなく、何より言葉が通じない。英語という大きな壁にブチ当たり、挫折でつぶされそうになっていた彼女。しかし、少し光が見えてきた? その理由は?

長年勤めた出版社を辞めて、なんの保証もないまま単身アメリカに乗り込んだ女性が悩みながら一歩一歩前進して、異国の地で繰り広げる新鮮な毎日を赤裸々にレポートします。

 

【第12話】英語がわかり始めた意外なきっかけ。

英語という高い氷山、その一角が崩れ始めたきっかけは意外なものでした。

3日ほど前のことです。先生から私の英作文はどうしても日本語英語(日本語をそのまま直訳して英語にしようとするクセ)が抜けないので、英語の小説や新聞を読むのはひとまずストップ。代わりにドクター・スースという絵本を読めと言われました。辞書を使わずに、英語を楽しむことから再スタートしろというわけです。

これには正直ショックでした。「えっ、私の英語力ってこのレベル?! お父さん、お母さんスミマセン。あなたの娘は、会社を辞めてアメリカで絵本を読んでいます…」と情けないやら悔しいやら、やりきれない思いがしました。

しかしドクター・スースの絵本を開いたとたん、その気持ちは一気に吹っ飛んだのです。

ドクター・スースとは?

ドクター・スースの絵本たち。コワカワイイ絵のタッチです。
ドクター・スースの絵本たち。コワカワイイ絵のタッチです。

ドクター・スースは、アメリカの有名な絵本作家。欧米の人たちはみな、彼の絵本を読んで育つとも言われます。ちなみにこのドクター・スースというのはペンネームで、動物園の飼育員だった父親の「獣医になって欲しい」という思いにちなんだものだとか。本名はセオドア・スース・ガイゼルと言い、ドイツ系アメリカ人です。彼が絵本作家としてのキャリアをスタートしたのは30代半ば、そしてローラ・インガルス・ワイルダー賞やピューリッツァー賞特別賞など名誉ある賞を受賞しています。

読み終えた瞬間に感じたのは、「読者である子どもを子ども扱いしていない!」ということ。例えば私が読んだ『HORTON HEARS A WHO!』(日本語題:ぞうのホートンひとだすけ)。主人公であるホートンという名前の象がほこりの上の小さい小さい人を助けるために奮闘するというストーリです。大きな耳を持つ象のホートンには小さい小さい人の声が聞こえるのですが、他のジャングルの動物たちには聞こえません。そこで、ホートンのことをバカにしたり、嘘つきだと罰を与えたりするんですよね。ここでホートンによる名言が登場します。

「A person’s person, no matter how small.」(人は人さ。たとえどれだけ小さくったってね。)

深い…。思わず「English ’s English, no matter how terrible.」(英語は英語さ。たとえどれだけひどくったってね。)と、我が身を重ねあわせてみたりして。ちなみにこの文は絵本の中で繰り返し出てきます。彼の文体には遊びがあって、night(ナイト)と flight(フライト)という単語を使って韻を踏むなど、英語の音が持つリズム感を大切にしています。こども版ラップ絵本とでもいいましょうか。複雑な文章を作ろうと背伸びしてデタラメな文を書くよりも、シンプルでも力強く、さらにはアメリカ人らしい言葉を使った文を書くほうがいいんですね。まずは絵本から始めろという先生のアドバイスは正解だなと思いました。

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