田代 わこ

悶絶級の美しさ!…「強い男」の裸体が話題『男性彫刻』に潜入

2020.12.10
東京・竹橋の東京国立近代美術館で『眠り展:アートと生きること ゴヤ、ルーベンスから塩田千春まで』がはじまりました。芸術家たちの創造を刺激した「眠り」にスポットをあてたユニークな展覧会のプレス内見会を取材。さらに、同時開催中の美しき『男性彫刻』もご紹介!

『眠り展』とは?

【女子的アートナビ】vol. 189

『眠り展:アートと生きること ゴヤ、ルーベンスから塩田千春まで』では、「眠り」をテーマにした古今東西33作家による絵画や写真、映像、インスタレーション作品など119点を展示。17世紀のバロック絵画から現代アートまで多彩な作品を見ることができます。

そもそもこの展覧会は、全国各地にある国立美術館6館による合同展。幅広いコレクションのなかから作品を厳選し、紹介しています。

なせ「眠り」?

なぜ美術の展覧会で「眠り」をテーマにしたのでしょうか。企画者の東京国立近代美術館研究員 古舘遼さんによると、「眠りというのは、夢とうつつ(現実)をつなぐ創造の源泉である」とのこと。

また、本展の象徴として使われているゴヤの作品《理性の眠りは怪物を生む》について、古舘さんは次のように解説しました。

古舘さん この絵は、眠る芸術家の周りにさまざまな動物が集まり、そのなかのフクロウが、銅版画制作に必要な針を芸術家に手渡すことにより芸術が生まれる、という趣旨の作品。眠りが芸術を生み出す原点、ということを表しています。

「眠り」がいっぱい!

会場は序章・終章を含む7章で構成されています。

まず、シンプルにかわいいのが、幼い甥っ子たちの寝顔を描いたルーベンスの作品《眠る二人の子供》。無防備な表情やぷくぷくした赤い頬が愛らしく、見ていると自然に頬が緩みます。

ルーベンスとは対照的にドキッとするのが、塩田千春の映像作品《落ちる砂》。砂ぼこりが立つ息苦しそうな部屋で、女性がベッドに横たわるシーンなどが流れています。窓からの光が不穏な室内を照らし出し、なんともいえない不安な気持ちにさせられます。

河口龍夫の《関係―種子、土、水、空気》は、一見すると眠りとは関係なさそうに思えます。

黒い鉛の板に埋め込まれたタマネギや麦などの種子が壁一面に掛かり、床に置いてある管には、植物に必要な土や水などが閉じ込められています。これらは「植物の種子を保護する」というメッセージが込められた作品。『目覚めを待つ』と題された第4章で見ることができます。

『眠り展:アートと生きること』の会期は2021年2月23日まで。

男の裸がいっぱい?!

『眠り展』のチケットで入館当日に限り見られる同時開催中の展覧会が2つあります。本記事では、2階のギャラリー4で開催中の『コレクションによる小企画 男性彫刻』をご紹介。

小さな一室で開かれている企画展ですが、凝ったパンフレットを見るだけで並々ならぬ気合いが感じられます。

この小企画では、20世紀はじめから1940年代にかけて日本で制作された男性の彫刻を展示。展示室内は「強い男」「賢い男」「弱い男」の3コーナーに分けられ、荻原守衛、朝倉文夫、平櫛田中など有名彫刻家の作品が並んでいます。

「強い男」たちの彫刻は、ほぼ裸体。筋骨隆々の肉体をさらけ出しています。

上の画像は、長崎にある「平和祈念像」の制作者として知られる北村西望の《怒涛》。モチーフは、荒波に立ち向かう漁師です。胸板のたくましさに見惚れますが、体と対照的に表情がゆるい感じ。これは口笛を吹いている顔とのこと。近くで見ると、妙にリアリティがあります。

聖書や神話の人物をモデルにしている西洋彫刻なら全裸でも違和感ないのですが、一般東洋人のリアルな全裸彫刻は、なにか生々しくて気恥ずかしさも感じます。

なぜ裸にするのでしょう? 解説によると、明治時代の彫刻家は西洋彫刻を規範に全裸彫刻の日本定着をもくろんだとのこと。ただ、風紀を乱すという理由で検閲にひっかかった時代もあり、男性器を切断させられ、そもそも目立たないようにつくったりしたこともあったそうです。

男性彫刻をまとめて見られる機会はめったにありません。ぜひ『眠り展』と合わせて、こちらもご覧ください。

Information

『眠り展:アートと生きること ゴヤ、ルーベンスから塩田千春まで』
会期: ~2021年2月23日(火・祝)
休館日: 月曜[2021年1月11日(月)は開館]、12月28日(月)~ 2021年1月1日(金・祝)、2021年1月12日(火)
開館時間:10:00-17:00(金・土曜は10:00-20:00)*入館は閉館30分前まで
会場:東京国立近代美術館 1F 企画展ギャラリー
観覧料:一般¥ 1,200、大学生:¥600 
※高校生以下および18歳未満、障害者手帳をお持ちの方とその付添者(1名)は無料。それぞれ入館の際、学生証等の年齢のわかるもの、障害者手帳等を提示。
※本展の観覧料で入館当日に限り、所蔵作品展「MOMATコレクション」(4-2F)、「コレクションによる小企画 男性彫刻」(2F ギャラリー4)も観覧可能。

公式サイト: https://www.momat.go.jp/

※本記事の写真は、プレス内見会で主催者の許可を得て撮影しています。