働きたくても働けない精神疾患者。「私たちは決して ”のうのうと” 生きているわけではない」

文・七海 — 2017.2.23
精神疾患者に対して、どのようなイメージをお持ちですか? 精神疾患とひと口にいっても、その種類は数えきれないほど存在します。鬱病は現代病ともいわれる時代になりました。あなたの周りにも、そういった人はいませんか?

働きたくても働けない精神疾患者のつらさ

重い精神疾患を持った人のなかには、働きたくても働けない人がいます。働くことは義務。そんな根性論が常であるこの社会で、働けないことは非常につらくあることでしょう。生活保護や障害者年金を受け取って生活している人もいます。働きたいのに働けない−。そんな状況を想像したことがありますか?

当然のように働いている人の口から、「働きたくない」という声が漏れるのを聞いたことがあります。確かに、仕事は責任が伴うもの。重たい責任を負って働くのは並大抵のことではないでしょう。だからこそ、「働きたくない」という言葉が聞こえるのだと思っています。

私は以前、躁鬱病が悪化して、働けない状態になったことがあります。動きたくても動けない。ベッドで涙を流すだけの日々。それから、働けるありがたさをしみじみと感じられるようになったのです。私自身、働けないつらさを知らなかったのだと思います。

そんなつらい状況下にいるのに、生活保護や障害者年金を受け取っている人を非難する場面がよく見られます。それは、当たり前のように働ける人が「働きたくない」という気持ちをどこかに抱いて、”働けない=働かない” に変換しているからなのでは、と思う部分があります。また、取り沙汰される不正受給のみのイメージでマイナスな印象を持っている人もいると思うんです。あなたは、働けない精神疾患者を見たらどう感じますか−?

働ける精神疾患者は決して手本ではない。それぞれのペースがあることを理解して

以前働けない状況に陥ったと前述しましたが、現在は働いています。障害者枠で働いているわけではありません。”健常者” と同じ位置づけで働いています。でも、これが当たり前だとは決して思っていません。なぜなら、働けなくなる状態を知っているから。働けることに日々感謝して生きています。そんな私を見て、精神疾患を持っていても働けるのが当たり前だと思ってしまう人がいるのも事実です。

「友人が鬱病になった。今働いていない。でも、あなたを見ていると、彼女にもっと頑張りなさいって思う」

この言葉を聞いたとき、衝撃が走りました。私は決して当たり前に働いているのではない。また働けなくなるのでは、という恐怖感と隣り合わせで働いている。その言葉は、彼女に対して根性論を強いていないか−と。

このとき、働ける精神疾患者である私は、働きたくても働けない精神疾患者への差別をより深める存在になっているのではないかと感じました。そう考えるとゾッとして、背筋が凍りました。

私は決して手本ではないのです。働ける精神疾患者も確かにいます。でも、働きたくても働けない人だってたくさんいるのです。みんな、それぞれのペースで生きようと必死なのです。

”健常者” の根性論では図れないもの。想像力を豊かにしてください

私は働けない精神疾患者への差別意識を助長する存在なのかもしれない。恐ろしさを感じた瞬間でした。当たり前のように働いている ”健常者” は、”働かざるもの食うべからず”、そんな思いを持っているのかもしれません。でも、それってただの根性論ではないでしょうか?

根性論は ”美徳” なのかもしれません。滅私奉公のような考え方が ”美徳” なのかもしれません。だからこそ、働ける ”健常者” が「働きたくない」と漏らすのかもしれません。自分はつらい思いをして働いているのに、なぜこの人は生活保護や障害者年金で ”のうのうと” 生きているのだろう−。そういった考えが頭をよぎっているのでしょうか。

確かに根性論や滅私奉公はつらいもの。だけど、働きたくても働けない人は、その ”スタート地点” にすら立てないのです。つらさから逃げているわけではないんです。逃げたくても、”逃げたいと思える” 地点にすら届かないのです。

働くことが当たり前になっている方へ−。私たち精神疾患者は、”のうのうと” 生きているわけではありません。私の場合は、働けることのありがたみを十二分に噛みしめています。働けることは、決して、決して、当たり前ではない。「もっと頑張りなさい」。そういった根性論では図れないのです。どうか、想像力を豊かにしてください。あなたの ”当たり前” が ”当たり前” ではなくなったとき−。それはとても恐ろしい世界ではありませんか? その想像力が、私たちの心を救う手だてになるのです。


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