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涙の味の「アップルパイ」|12星座連載小説#84~水瓶座9話~

文・脇田尚揮 — 2017.5.25
12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。

【12星座 女たちの人生】第84話 ~水瓶座-9~


前回までのお話はコチラ

悔しさと不甲斐なさが入り混じり、涙がボロボロこぼれてくる。

誰にも言わずに会社を早退し、タクシーを捕まえる。

車中で、家にいるであろう好美にひとこと、

「今から帰る」

とだけ連絡を入れる。

もう、今日は何もしたくない。どこにも行きたくない。

あの社長のせいで……。

どうせ何か目新しいものを見つけて、ゲームアプリの企画なんかどうでも良くなってしまったのだろう。

あいつはいつもそうだ。その時の気分で言うことがコロコロ変わる。

作り手側の気持ちなんて、これっぽっちも考えちゃいないんだ。

この規模のベンチャー企業では、“社長の言うことは絶対”というのは、頭では分かっている。

役員はみんな若く、そして尋常じゃなく有能だ。それでも、何かのきっかけで必要ないと判断されると容赦なく“切られる”のがうちの会社。

組織として成果を出し続けるには、こうするのが適切……。それを十分理解していただけに、余計に悔しかった。

アタシが進めてきた企画はなかったことになり、他の誰かが新たに企画を進め始めるんだ。

所詮会社の“歯車”の一つに過ぎなかったんだ……。そう考えると、どうしようもなく悲しい気持ちになった。

好美から

「うん、帰ってきな」

とLINEが届いていた。

―――重い気持ちのまま帰宅する。

普段はチャイムを鳴らし、カギを開けてもらうのだが、今日はもう既に開いていた。

ドアを開けると好美が立っていた。いつものように、少し笑顔で。

「おかえり」

『ただいま。企画、ダメになった……』

「そっか」

『悔しい』

「うん」

好美がそっとアタシを抱き寄せ、頭を撫でてくれる。いつもはアタシがしてあげる側なのに……。

また涙がこぼれる。

『アハハ』

女の割に身長の高いアタシの頭を、小さい妖精が“うんしょ、うんしょ”と背伸びをしながら撫でる姿を見ていると笑えてきた。

「手洗ってきて」

『うん』

洗面台で手を洗っていると、甘くて香ばしい匂いが鼻腔をくすぐる。

このリンゴとシナモンの香り……アップルパイか。

―――予想通りだった。

「ほら、悲しいときは甘いものを食べよう」

この女、なんて気遣いができるのだろう。

『うん、いただきます』

カップに紅茶を注ぎ、グイと飲む。熱いけど、そんなのは気にならなかった。

今日は少し高いのを淹れてくれたのだろう、香りがいつもと違う。

……こんなに食べたら、太るんじゃないかってくらい、パイと紅茶を堪能した。

『ありがとう、ヨッシー』

「美味しかったね、レナ」

甘いものは女の味方だ。悲しみや怒りを、それ以上の幸福感で忘れさせてくれる。

……しばしの沈黙。そして、好美が口を開く。

「レナ、会社辞めたら?」

考えてはいたけど口に出さないでいたことを、あっさりと提案された。

「あ、あの別に逃げたら?って言ってるんじゃないからね」

『うん……』

「レナは良くも悪くも“職人”ぽいと思うんだ。今の会社は、業界の最先端を走っていて凄いな~とは思うけど、レナのようにバーッてアイディアが降ってきて、いろんなことを考えながら一つの作品を創っていくタイプの人には合わないんじゃないかと思う」

この子には、いつも驚かされる。アタシ以上にアタシのことをよく知っている……。

そう、アタシは柔軟そうに見えて、一つのことにこだわりすぎるところがある。

だから、自分が作り出したモノを否定されると、まるで自分自身を否定されたように感じてしまう。

好美の言うように、アタシは“職人”なんだ……。肩の荷がフッと降りた。

『うん……アタシね、悔しかったんだ。自分の作った作品・世界を、組織のトップの意向で“すべて無かったこと”にされるのは、耐えられない』

「いい加減そうに見えて、誰よりも一生懸命なんだから……レナは。私、レナのそういうところが好きなんだよ? ……すっごく不器用」

『そう……かもね。』

子供の頃からそうだった。

好きなことには、いつも全力投球だった。寝食を忘れて取り組んだ。しかも自己満では済まず、誰かから評価されたくて……。

だから何度でもやり直す。認めてもらうまで、何度でも。

やり直しはキライじゃない。許せないのは、“ゼロ”になること。そこに至る努力も無かったことになるから。

「そうだよ。レナ、顔を上げて」

ハッとして、好美の顔を見る。

「一緒に……仕事、しよ?」

―――まるでプロポーズをされているような気分だった。

水瓶座 第3章 終


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【今回の主役】
中野怜奈 水瓶座26歳 IT開発事業部
個性的で変わり者、我が道を行くタイプ。協調性に欠けているが、時代の先を読む“先見の明”があるため、社内での評価は高い。女子向けアプリ会社『キュートキッチュ』の新作指揮を任される。アイディアウーマンであるが、縛られることを嫌う一匹狼。後輩の三橋奈美は良い相談役。実はバイセクシュアルの性向があり、出会い系アフィリエイトで知り合った池谷好美と同棲している。

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