ひとつ屋根の下に咲く女二人の「百合の園」|12星座連載小説#40~水瓶座4話~

文・脇田尚揮 — 2017.3.21
12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。

【12星座 女たちの人生】第40話 ~水瓶座-4~


前回までのお話はコチラ

「クラブに行くんなら、ちゃんと連絡して!」

好美が可愛く怒っている。……連絡して欲しいっていう言い分も分かるんだけどね。そんときのノリも大事なのよ。

『ゴメンゴメン、勘弁してよ』

「他にいい子いたんでしょ。それとも男?」

『そんなことないよ。ただ、面白いヤツがいてさ、アイディアはもらったよ』

好美は勘が鋭いから困るわ。もう、今日は疲れたからゆっくりしたいってのに。

「何その子、どんな人なの!? レナの一番は私じゃないと嫌なの!」

めんどくせ~。

『大丈夫だよ、ヨッシーがイ・チ・バ・ン』

オデコにキスをする。

「むぅ~」

『ちょいとシャワー浴びてくるわ』

プンプンしている、ちっこい彼女を差し置いて、服をポイポイ脱いでいく。

『あ~! もう! レナはすぐに散らかすんだから!』

私が脱ぎ散らかした服を片付けながら、好美がグチをこぼす。こんな彼女がとてつもなく可愛い。私にないものを全部持ってるんだから。

シャワーをひねって、今日の疲れを洗い流す。アルコールでボーッとした意識に、熱い“喝!”が入る。

『何度考えても、いいアイディアだわ』

口元が緩くなる。“戦国×恋愛×魔性”……このシナリオなら、数あるゲームアプリを押しのけて、前に出られるはず。

シャンプーしながら、ブツブツつぶやいてると……

「失礼しま~す」

好美が入ってきた。

「えへへ、一緒に入ろ?」

好美のペッタンコな胸が、私の腰に当たる。少しひんやりする。

くるんと後ろを向き、好美の頭にシャワーをかける

「わっ、ぷ……もう! レナレナったら!」

ちょっと嬉しそうな好美を見て安心した私は、彼女の華奢なカラダにボディソープを塗り泡立ててやる。

女同士、泡まみれになっている……こんな光景はなかなか見られないだろう。

男からすれば、涎モノのシチュエーションだろう。

バスルームでイチャついて、私たちは1つのバスタオルで身体の水滴を拭き合う。

女同士の生活は、男との暮らしとはまた違った楽しさがある。ましてや私は、“根がオトコ”なもんだから、好美のような“オンナオンナ”したタイプと合うんだな、

男と同居したこともあるけど、私のズボラな部分を受け入れられないヤツが多くて、住んでみて“即終了”が多かったからなぁ。

その点、好美はそんな私の“オトコ”っぽい部分が好きらしい。私は相性が合えば男も女も関係ないから、ただ好美といるのが居心地いい。……私ができないこと、全部やってくれるし。

「レナレナは、ご飯まだでしょ? クラブハウスサンドイッチを作っといたよ。食べる?」

『お~、ヨッシー! 気が利くぅ! ……いっただきまーす』

パンツ一丁でサンドイッチを頬張る。基本、身体を縛る衣服を好まない私は、家では“裸族”なのだ。


このちっこい妖精と、同居し始めてもう5ヶ月。

始まりは……、私が副業で売っていたアフィリエイト商材を好美が買ってくれたことがきっかけだ。

「自分を好きになるための28の法」という、アフィ臭漂う情報商材にどハマリしたのが好美だった。

好美は自分にあまり自信がない。聞けば、小さい頃に母親から虐待された経験があるんだとか。

詮索したことはないから、詳しくは分からないケド。

そんな彼女が作成者である私に直接コンタクトを取ってきたところから、この“奇妙で耽美な同居生活”は始まる。

「理想通りのヒト! ……私、あなたのことが好きです!」

初対面で好美が放った一言は印象的だった。まさか私もファミレスで女から告られるなんて思ってもみなかったわ。横に座っていた高校生がコーヒーを吹き出しそうになったのを覚えている。

そこから、何となく私たちは惹かれあって、何となく同居しようって話になった。

たまに嫉妬したり、ちょっとしたケンカしたりもするけど、今、私が一緒にいて一番居心地が良いのが好美だ。

確かにオトコが欲しいって思う時もあるけど、メンタルの充足感は間違いなく、“好美>オトコ”だろう。

……まぁ今のトコ、好美とのエッチはそんなにないんだけどね。お互いそっち方面は、ちょっと苦手なもんで。

「レナレナ、美味しい?」

クリッとした目のちびっ子が、何かを求めているかのように聞いてくる。

『ヨッシーのサンドイッチは、美味しいよ。特に飲んだあとは格別だね』

「レナ、大好き~」

またもやボフッと私の胸に顔をうずめてくる。……ホントにコイツは変わった奴だ。

日頃は『ちゃあみぃ』という名で、メイクやファッション記事を中心に書いてそこそこ稼いでるブロガー。しかしてその実態は、甘えん坊な少女。彼女の素顔を知っているのは私くらいなもんだろう。

……ちょっと優越感だったりしてな。

『ヨッシー、今日はさ、もう寝ようか。疲れた』

サンドイッチを食べ終わり、突然睡魔が襲ってきた。

「うん! 一緒におふとん入るミィ」

変な語尾をつけるのは、嬉しい時の好美の癖だ。

いそいそと布団を敷き始める好美の横で、メールチェックをしていると……テレビの竹内から連絡が入っていた。明日、顔合わせか。

そろそろ、仕掛けていく段階だな。腕が鳴るわ。

……妖精が布団に潜り込んで、ルンルンしている。



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【今回の主役】
中野怜奈 水瓶座26歳 IT開発事業部
個性的で変わり者、我が道を行くタイプ。協調性に欠けているが、時代の先を読む“先見の明”があるため、社内での評価は高い。女子向けアプリ会社『キュートキッチュ』の新作指揮を任される。アイディアウーマンであるが、縛られることを嫌う一匹狼。後輩の三橋奈美は良い相談役。実はバイセクシュアルの性向があり、出会い系アフィリエイトで知り合った池谷好美と同棲している。

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