【兄は障害者】行き場のない負の感情は、暴力と言葉で家族を突き刺す #3

文・心音(ここね) — 2017.6.19
“私の兄は、障害者”。見て見ぬ振りして、直視できない現実を避けるように生きてきた、妹目線の連載です。 真夜中に帰宅する兄を中心に、家の中はピリピリムード。最悪の事態は、「暴力」となって繰り広げられていきました。

【兄は障害者】vol. 3

「鍵はもう開けなくていい」

確か私の記憶が正しければ、夜中の12時を回った時点で兄が帰宅しなかったら、ドアの鍵をかけるというルールでした。しかし、兄の帰宅はいつも夜中の3時ごろ。家族が一番熟睡している時間に、盛大な物音と共に帰ってくるのです。

「次はもう鍵を開けないからな」。いままで眠い目を擦りながらも兄を受け入れていた父親でしたが、こう何日も深夜帰宅が続くとしびれを切らして、「ここはお父さんが建てた家だ。もう、二度と帰ってくるな」と拒否に変わっていきました。それでも、「ドンドン」「ピンポーン」と近所迷惑を省みず、大きな音を立てる兄。あるとき、「おいっ! いいから開けろ! ガラスを割るぞ」と兄の叫び声が響くと同時に、父は玄関を開け、兄と取っ組み合いを始めました。

スポーツマンで筋肉もあり、背も高い兄は、本気で力を出せばかなりのパワーだったでしょう。父と腕を掴み合いをしながらリビングに移動し、その衝撃でテーブルのコップはひっくり返って割れる音が部屋に響きます。ゴミ箱やラックは足で踏み倒されて、足の踏場がない状態になりながら、父と兄は胸ぐらを掴み怒鳴り合いを続けました。

「危ないから、自分の部屋にいなさい」

「ねえ、お母さん…」。怖くて母の服を掴んでいた私は、父と兄の様子が気になって、じっと見つめていました。すると母は「自分の部屋に戻りなさい」と、リビングに行こうとする私を制します。それでも、私は目の前で繰り広げられている信じられない光景から目を逸らせませんでした。

胸ぐらを掴んでいた兄の手は、父の肩を殴り、頭を叩きだしました。「ドスっ…」「なんだ?お父さんを殴るんか?」とムキになった父は反撃。足で蹴ったりわき腹にパンチを食らわし、鈍い音が耳を突き刺します。私は耳を両手で塞ぎなふがら目をつぶりました。人は、本当に怖い想いをすると勝手に涙が出て体が震えるということを、この時知りましたね。そう、勝手にガクガクと震えるのです。何もしてないのに。

暴力は「言葉」にも宿ることを知る

今振り返ると、もっとも怖かった出来事があります。それは、父が仕事で不在のときに突然兄が機嫌を悪くして、母に八つ当たりするということでした。

母と私がリビングでテレビを見ていると、情緒不安定な兄が「ドタドタ」と足音を立ててリビングに歩いてくるときは、「…来た」と心の中で防御線を張る準備が必要です。テーブルの上のコップを手で跳ね除けては、「おいっ! 聞いてんのか?」といきなり喧嘩口調で母を攻撃し始めるのです。「お前は子育てに向いてない」「子供は親を選べない」「こんな家に生まれてくるんじゃなかった」など、理不尽な文句を浴びせてきます。

当時の私は、私をかばいながら母がウルウルとした目で兄の言葉を受けているのを眺めていることしかできませんでしたが、今思えば、自分が産んだ子供に言われたらどんな心境なんだろう?と胸が痛む想いしかありません。

母の代わりに殴られることもあった

攻撃の矛先は私に向けられることも出てきました。

兄はよく、キッチンで料理を作っている母に「ご飯まだ?」と歩いてきては、火を使っているにも関わらず荒々しく話しかけたり、出されたご飯が気に入らないと「こんなマズイもん食えるかっ」「違うやつにしろ」など偉そうな態度を取っていました。時には料理を作っている最中に母の肩を掴み、「おい!聞いてんのか?」と包丁を持つ母を揺さぶることも多々ありました。

そんなとき、あまりに見ていられなくなった私は、「お母さんに触るな!」と母の前に立ち、必死に母を守ります。すると、思いっきり頭を殴られたり、倒されて背中をひたすた蹴られ続けることも。「そんなに蹴ったら心音が死んじゃう…!」と母は慌てて兄を止めに入ってくれるのですが、私は殴られた激痛より、お母さんが兄に殺されるのではないか?という不安のほうが強く、自分が代わりに殴られるほうがマシだと考えていましたね。「パパ、早く帰って来て」「ママが危ない」と父の携帯にメールを送ることもありました。

突然何をしだすか予想ができない兄にハラハラする毎日で、安心して家にいることができなくなった私は、自分の居場所を求めるようになります。


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