新海誠「今年だから良かった」 映画『君の名は。』の奇跡的な軌跡

2016.12.27
‘16年最も日本人を感動させた人といえば、「君の名は。」の監督である、新海誠さん。世代を超えて人々の心を熱くさせた物語を紡いだ監督は、いったいどんな人なのか。世界から注目されるその内面に、迫ります。
しんかい・まこと アニメーション監督。ゲーム会社勤務を経て、‘02年、『ほしのこえ』を発表。代表作に『秒速5センチメートル』『言の葉の庭』などが。

お目にかかったのは11月のとある一日。この日は日本のテレビ局に加え、海外の有名新聞社などの取材も入っており、アンアン以外はすべて“ちょっとお堅いメディア”がズラリ。緊張して監督を待っていると、にこやかな顔でご登場。

――この夏に『君の名は。』が公開されて以降、まさに“全日本が感動した”状態です。単純に、ご感想は?

新海:いまだにやや戸惑ってはいますが、嬉しいことは嬉しいです。今日(11月15日)の段階で、延べ約1400万人の人が見てくれているんですが、今エンタメがどんどん多様化していて、それこそ家でも配信で名作映画が見られてしまう時代に、これだけの人がわざわざ映画館に足を運んでくれたということにすごく驚いて、感動しました。映画ってまだそういう力があるんだなぁと…。僕としてはそれに、ものすごく勇気づけられました。

――物語は、東京に住む高校生男子の瀧と、岐阜に住む同じく高校生の女の子・三葉が、なぜか入れ替わってしまい、そこにはとある運命が絡まっていて…という内容です。監督は原作、脚本も手がけていますが、どういうところから考えついたストーリーなのでしょう?

東京に住む少年・瀧と、山深い田舎に住む少女・三葉は、ある日突然入れ替わる。そして1000年ぶりに地球に彗星が接近し…。声の出演に、神木隆之介、上白石萌音ほか。全国東宝系公開中。12/6現在、歴代邦画興行収入ランキング2位。海外でも公開されており、米ロサンゼルス映画批評家協会のアニメ賞を受賞した。(C)2016「君の名は。」製作委員会

新海:まだ出会っていない、少年と少女の物語を描きたいと思ったんです。二人が出会って始まる話ではなく、このようにして二人は出会ったという、さまざまな必然を描きたかった。構造としてはいわゆる“ボーイ・ミーツ・ガール”ではあるんですが、僕は“いかにして会わせないか”をいろいろ工夫をしまして(笑)。

――なぜ会わせたくなかったんですか?

新海:言い切ると語弊が出る部分もあるんですが、“この人は、自分が会うべき人だったんだ”という部分を描く物語にしたかったんですよね。逆にいうと僕たちはいろんな可能性に囲まれて暮らしているけれど、最終的には1つの選択肢しか選べない。その結果が、今自分の隣にいるパートナーであったり、あるいはパートナーをもたないという選択肢を選ぶ場合もあるわけですが。その“最終的に選んだ選択肢”にたどり着くまでには、いろんな偶然や選択の連続がある。結果人はその偶然と選択の連なりの物語を、“運命だ”と思うことで、理解ができ、信じることができる。そのプロセスを描きたかったんです。

――この映画は、どのくらいの製作期間で作られたんですか?

新海:企画から入れると、丸2年かかっています。僕はクリエイターですが、アニメは仕事として作っている部分もあるので、定期的に作品を出していかねばという気持ちがある。ペースとしては、企業CMなどの短いものを何本か作って、その次に映画を作る。この映画も、前作『言の葉の庭』のあとに企業のCMを2本作ったのち、‘14年から取り掛かりました。制作に2年かかり、‘16年に公開になりましたけれど、このタイミングでなかったら、神木(隆之介)くんは女子高生の声は無理だったかもしれないし、作画のスタッフも今と同じ人たちのスケジュールが取れなかったかもしれない。音楽で大きな力を貸してくれたRADWIMPSも、アニメ音楽はやってくれなかったかもしれないし。

――今回、音楽は一つの肝ですね。

新海:最初に野田洋次郎さんに脚本の第一稿のようなものを見せて、そのイメージで曲を作ってもらい、僕はそれを聞いて脚本を直し、またそれに合わせて音楽を手直ししてもらって…。正直、RADWIMPSのような確固たる世界観を持っているバンドが、アニメ映画の音楽制作に1年間も時間を費やしてくれるとは、始めた当初はまったく思ってなかった。それは嬉しい誤算でしたね。そしてこの映画は自然災害がモチーフで入ってくるんですが、やはりそこには日本が経験した‘11年のあの災害があります。あのとき、僕も含め、日本社会全体が変わったんだと思う。僕らはみんな、あの場所にいたのが自分だったら、すなわち<もしも自分が他者だったら>という想像力を、とにかく使わなければならなかった。その気持ちは、今回の“瀧と三葉が入れ替わる”という設定への共感と、どこかつながっている気がします。この映画が‘11年より前の公開だったら、こんなに楽しんでもらえなかっただろうし、2年先だったら陳腐になっていたかもしれない。でも僕は決して意図的に‘16年に公開したわけではなく…。すべては思いがけないことが積み重なった結果なんだと思います。

――単純な疑問ですが、なぜ実写ではなく、アニメで映画を作るんですか?

新海:僕は実写は向いてないです(笑)。同じ映画監督でも、必要とされるスキルが全然違う気がします。実写の監督に必要なのは役者をどう使うかというセンスで、僕にはそういうコミュニケーション能力はない。でも別に、子供のときからアニメ監督を目指していたわけでもないんですけどね。大学を出てゲーム会社に入って、30歳くらいのときに、自分で物語を作りたくなった。そのとき、実写かアニメかCGかという選択肢があったんですが、僕はそこで迷わずアニメを選んだ。その理由は単純に絵を描きたかったのと、アニメは全部一人でできるから。当時の僕は人と作業することにまったく興味がなくて、自分で絵を描いて自分で声を当てて、それを編集すれば形になるという意味で、アニメがよかったんでしょう。今でこそ、いろんな人の力を借りることで、作品がどんどん豊かになると思ってますけど、昔はそこにまったく興味がなかったんだと思います(笑)。

しんかい・まこと アニメーション監督。ゲーム会社勤務を経て、‘02年、『ほしのこえ』を発表。代表作に『秒速5センチメートル』『言の葉の庭』などが。

東京に住む少年・瀧と、山深い田舎に住む少女・三葉は、ある日突然入れ替わる。そして1000年ぶりに地球に彗星が接近し…。声の出演に、神木隆之介、上白石萌音ほか。全国東宝系公開中。12/6現在、歴代邦画興行収入ランキング2位。海外でも公開されており、米ロサンゼルス映画批評家協会のアニメ賞を受賞した。(C)2016「君の名は。」製作委員会

※『anan』2016年12月28日-2017年1月4日合併号より。写真・千倉志野 

(by anan編集部)