江戸時代から現代まで…『大奥』『きのう何食べた?』作者による、連作オムニバス『環と周』

2024.1.17
『大奥』『きのう何食べた?』など近年は長編作品が続いていた、よしながふみさん。『環と周』は1巻完結の連作オムニバスだが、構想自体は16~17年ほど前からあったのだそう。

時代も関係性も異なる環と周のかけがえのない巡り会い。

Entame

「最初の現代の話と最後の江戸時代の話は、大まかに考えていました」

しかし先述の2作の連載が予定以上に長引いて、このタイミングに。

「当初は恋愛関係の男女を描くイメージでしたが、環(たまき)と周(あまね)の性別が時代によって入れ替わったりして、より幅広い関係性になったのは、今だからこその変化といえますね」

現代編では、中学生の娘と同級生の女の子のキス現場を目撃する妻と、それを報告される夫の反応が描かれる。誰にも打ち明けていないものの、夫の初恋相手も実は同性で……。明治時代編では女学校で出会い、結婚後も文通を続ける2人の女性が。’70年代編は余命わずかの中年女性と、同じアパートに住む少年の交流が。戦後編では、帰還したかつての上官と部下が闇市で助け合って生きる姿が。江戸時代編では、仇討ちのために再会する幼馴染みの男女が登場。

「それぞれの時代の人にとっての普通の感覚を意識しました。たとえば明治時代の女性は、親の決めた相手との結婚に疑問すら持たなかったかもしれませんが、女学校という今までなかった世界でお友達を作ることが可能になるわけです。不自由さだけに目を向けず、できることが増えていたのだと想像して描きました」

環と周、同名の人物が出てくることと、“好き”を描いていることだけが共通項に思える各話が、どうつながるのか。大恋愛のようにドラマティックでなくとも、どんな人生もかけがえのない出会いに溢れていると思わせてくれる読後感が心地よい。

「あのときあの人に出会わなかったら、今の自分はなかったと思えるような出会いって、たくさんあると思うのです。たとえ悲しい別れ方だとしても、どの話もこの人に会えてよかったという喜びを前面に出そうと思いました。冒頭の現代の夫婦が一番平凡なんですけど、彼らは平凡だからいいのかなという気がします。そう考えると自分の隣にいる職場の人や同級生なども、実はすごくご縁のある人かもしれないですよね」

久しぶりに短編を描いたことについては「楽しかった」と振り返る。

「5つの短編で見えている景色がすべて違うので、描き手としてもいい経験ができてありがたかったです」

よしながさんの短編を、読み手としても久々に堪能できる喜びを!

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よしながふみ『環と周』 家族、恋人、友人などさまざまな関係性で綴られる、“好き”のかたち。どんな時代にもあったはずの、かけがえのない出会いと喜びに光を当てた連作オムニバス。集英社 748円 ©よしながふみ/集英社

よしながふみ マンガ家。1994年デビュー。昨年後半は『大奥』『きのう何食べた?』のドラマも放送。2024年より芸能界を舞台とした新連載を『ココハナ』で開始予定。

※『anan』2024年1月17日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・兵藤育子

(by anan編集部)