「年収の壁」対策はあくまで“つなぎ” 成長しない日本経済に負担感は増すばかり?

2023.11.29
意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「年収の壁」です。

日本経済の成長が負担感を減らす一番の近道です。

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厚生年金保険や共済組合等に加入している会社員や公務員に扶養されている配偶者で、一定の収入のない人は、第3号被保険者といって、厚生年金保険や健康保険などの社会保険料の負担が発生しません。そういう被扶養者がパートやアルバイトで一定額を超えた収入を得ると適用外となり、社会保険料が引かれ逆に手取りが減ってしまうため、働く時間を抑えようとします。それが「年収の壁」です。従業員101人以上の企業で週20時間以上勤務する場合の「106万円の壁」と、「130万円の壁」があります。

現在、政府は社会保険の適用範囲を段階的に広げており、昨年10月から、従業員数が100人超の企業は、パートでも社会保険の加入が義務付けられ、新たに45万人が対象になりました。

しかし、今は空前の人手不足。日本商工会議所のアンケートによると、中小企業で「人手が足りない」と答えた企業は過去最悪の68%に。さらに、今年の10月から全国の最低賃金が約1000円に引き上げられたため、企業は人手を減らさないと回らなくなり、年収の壁を考える人は、働く時間をもっと抑えなければいけなくなります。

この状況を受け、岸田政権では、壁の範囲を超えて働いても不利益にならないような策を打ち出しました。ただそれは、賃上げなど、手取り収入を減らさない取り組みを実施している企業に対して助成金を出す形なので、誰もが優遇されるわけではありません。あくまでつなぎの政策であり、2025年の年金法改正に向けて、抜本的な見直しを進めようとしています。

国民年金第3号被保険者制度ができたのは1985年。専業主婦の世帯が多く、「夫が働き、妻子を養う」という家族像をモデルに設定していましたが、家長の収入が減り、共働きでないと経済的に苦しい家庭が増えている現代にはそぐわないところがあります。扶養控除をなくし、全ての働き手が負担するのが分かりやすいですが、男女の賃金格差を考えたら、女性には収入が少ない上に負担増になります。最も問題なのは、ここ30年は日本経済が成長しておらず、国民の社会保障費の負担感が増していることなんですね。

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ほり・じゅん ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX月~金曜7:00~8:30)が放送中。

※『anan』2023年11月29日号より。写真・小笠原真紀 イラスト・五月女ケイ子 文・黒瀬朋子

(by anan編集部)