適度な距離感が心地いい…大人の独身女性限定シェアハウスが舞台の『若葉荘の暮らし』

2022.10.18
こんな場所に住んでみたい――そう思わせるのが、畑野智美さんの新作小説『若葉荘の暮らし』の舞台となるシェアハウス。
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「コロナ禍で一人暮らしが続いてしんどくなった時、こんなアパートがあればいいなと思ったんです。それで、今回は私の理想を書きました」

40歳のミチルは、感染症の影響でアルバイト先の洋食店の経営が厳しくなり収入が減少。そこで知人に紹介され、40歳以上の独身女性限定のシェアハウスに転居する。キッチンや水回りは共同、掃除やゴミ捨てなどは“なんとなく”の当番制だ。

「ルールをきっちり決めると、それで揉めることもある。体力も得意不得意も人それぞれなので、話し合ったうえでの、ゆるい当番制がいいなと思いました。基本的なルールさえ守れば誰でも住める場所にしたかったんです」

入居者は仕事も性格もばらばら。互いに干渉はしないが、一緒に食事することもある。そんな適度な距離感が心地いい日常が描かれていく。ミチルについては、あえて際立った個性は持たない女性にしたという。

「20代の頃はドラマでも身近に感じる女性主人公がいたのに、30代後半くらいから、同世代の女性が主人公だと母親や妻だったり、医者や弁護士だったり、変わり者だったりして、自分は当てはまらないなと感じるようになりました。それで今回はあえて、個性や特技のない“ごく普通”の女性を主人公にしました」

そんなミチルが、バイト先の常連客の男性と少しずつ親しくなる。だが、二人ともなかなか次の一歩を踏み出さずにいて…。

「20代、30代の頃の恋愛って、わりとその先の結婚を意識したりしますよね。でも40代って、人にもよりますが、今から結婚して子どもを産もうと言われても迷うし、だからといって恋愛はもういいです、というわけでもない。40歳を過ぎたら、10代の頃のように結婚や条件を意識せずに純粋に相手を好きになっていた頃に戻りたいな、って(笑)。結婚して家庭を持つのが人の幸せだ、という考えの押し付けはもういい、という気持ちもあります。私は今40代独身ですが、幸せに暮らしていますから」

住人の中には、人生の別のステージを迎える人も。たとえば小説家の千波は本が書けなくなり、別のことを探そうとする。

「コロナ禍でやりたいことができなくなった人はたくさんいる。それで人生が終わるわけではないし、違う喜びや楽しみがあるかもしれない。覚悟をしたうえで、次のステージに向かっていく姿も書きたかった」

では、畑野さんだったら?

「私は何があっても、一生小説を書いていくと思います。そして将来的には、若葉荘みたいなアパートを経営したいですね(笑)」

『若葉荘の暮らし』 ミチルが転居した若葉荘は、40歳以上の独身女性限定のシェアハウス。高齢の管理人女性も住人たちも、みなそれぞれの人生を生きていて…。小学館 1980円

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はたの・ともみ 2010年「国道沿いのファミレス」で小説すばる新人賞を受賞してデビュー。『海の見える街』『南部芸能事務所』は吉川英治文学新人賞の候補に。『感情8号線』はドラマ化もされた。

※『anan』2022年10月19日号より。写真・土佐麻理子(畑野さん) 中島慶子(本) インタビュー、文・瀧井朝世

(by anan編集部)