事情を抱える年の離れた友人たちとの交流で少女の心は…コミック『魔女の村』

2022.5.30
著者の山内尚さんは、本作『魔女の村』の主人公である9歳の少女・桃のように、世間からは“おばさん”とか“おばあさん”と呼ばれる世代の人たちに、子どもの頃から親しみを感じていた。

自分が自分であるために大切な、居場所と仕切り。

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「おばあちゃん子だったというのもありますが、渋くてかっこいいなあと思っていました。こういった世代の女性たちは、物語のなかではわりと脇に追いやられたり、いたわられるような存在として描かれがちですが、もっと能動的に生きている魅力的な姿を描きたいと思ったのです」

そんな女性たちが暮らしているのが、通称・魔女の村。入り口に大きな鐘があり、バラなどの植物に囲まれたコーポ・レイコという集合住宅なのだが、“親戚のおばさま”である麗子が大家をしているこの住宅で、桃は一時的に暮らすことに。両親のいさかいが絶えず、家庭内で自分の声を失ってしまった桃は、いつの間にか他人の顔色をうかがって言いたいことを言えず、手洗いをやめられない神経質な状態になっていた。一方、男子禁制のこの集合住宅で暮らすのも、桃と同じように何らかの事情を抱えている人たちだった。

「戸籍の変更をしていないトランスジェンダー女性のともみさんや、男の人が怖くて外に一歩も出られないゆきさんなど、一般的なアパートには入居しづらい人ばかりですが、本来は変な人でも、避けるべき人でもまったくない。いろんな過去がありつつ、今を普通に生きている姿を描こうと意識しました」

年の離れた友人たちと交流しながら、山内さんいわく「桃の心は花が開くように、ふわりと緩んでいく」。弱い立場に置かれがちな人たちが、肩を寄せ合って暮らしているが、寄りかかったり、傷をなめ合ったりはしていないところも清々しい。

「シェアハウスではなく集合住宅という設定にしたのは、居住空間だけでなく関係性にも仕切りは大事だから。自分の生活をきちんと送った上で、それぞれを尊重しながら連帯している様を描きたかったのです」

反対に、仕切りのない関係として描かれるのが、桃と母親。

「私のマンガは、居場所を作るような話がわりと多いのですが、健全な関係を築くためには、たとえ家族であっても、それなりの仕切りは必要だと感じています。私自身も自分のための居場所を持ったことが精神の安定につながって、周りの人との関係もうまくいくようになったので」 

巻末に収録されている商業誌デビュー作「帰る家」も、異父姉妹の居場所にまつわる物語。どんな人にとっても、“魔女の村”は必要なのだ。

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山内 尚『魔女の村』 両親が離婚することになり、9歳の桃はおばの営むコーポ・レイコに一時的に入居することに。さまざまな事情を抱えた人と穏やかな時を過ごすことで、少しずつ心がほぐれていく、癒しの物語。秋田書店 660円(電子書籍のみ)©山内尚(秋田書店)2022

おやつとお茶を囲めば、そこに居場所が生まれる。

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同時発売の『クイーン舶来雑貨店のおやつ』は、『魔女の村』の後に描かれた作品。祖母が営む雑貨店の番を任される孫のジャックや訪れる人々が、やはり居場所を見つける物語。「『魔女の村』もそうですが、読んでくれた人に『自分もこういう場所が欲しい』とか『作りたい』と言ってもらえるのが嬉しくて。物語に出てくるような場所を、多くの人に持ってほしくて描いているところがあると思います」。秋田書店 660円(電子書籍のみ)

やまうち・なお マンガ家。「わたしの歯」で「アフタヌーン四季賞2018秋」佳作に選出。『エレガンスイブ』8月号より新連載スタート。4姉妹の物語。

※『anan』2022年6月1日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・兵藤育子

(by anan編集部)