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偽アカウントの創作活動にざわつき…詩作をめぐる高校生主人公の小説

2020.4.23
詩の投稿に熱中する男子高校生のストーリーを描いた小説『坂下あたると、しじょうの宇宙』の著者・町屋良平さんに作品に対する思いを聞きました。

詩作に懸ける男子高校生ふたりが友情や才能をめぐり、問いかける。

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佐藤ダブリスという筆名で詩の雑誌や小説投稿サイトに自分の詩を投稿していた高校2年生の佐藤毅。彼のそばには、毅が天才的な文学的才能の持ち主だと信じてやまない親友の坂下あたるがいる。ふたりが投稿しているサイトやSNSでもあたるはちょっと知られたスターだ。

「そのあたるの言葉に刺激されて、毅も詩を作ります。ただ、その後、彼らの関係がどう変わっていくのかは僕自身もわからないまま、書き進めました」

ある日、小説投稿サイトに〈坂下あたるα〉というあたるの偽アカウントが登場してくる。本家の作品やレビューの中の言葉を少しだけ変えてアップするという行動を繰り返す偽あたるの存在によって、ネット界隈はざわつき、毅とあたるの関係までもがぎくしゃくし始め…。

「AIに作品を乗っ取られる事件が起きるのは予感があったのですが、ふたりの関係の変化は僕自身書いていていちばん意外なところでした」

現実に人工知能に小説を書かせるソフトもあり、絵空事ではない。

「AIがいつかすごく面白い作品を書くのかなと、僕自身、とても興味深いんですよね。ただ、小説っておそらく書かずにはいられないという初期衝動も大きくて、そういうモチベーションをAIは持ちうるだろうかとも思ってしまう。僕が好きなのはみな、いびつさがある作品なんです。それは生きるという試行錯誤の中で生まれるものだし、創作に関しては案外楽観視しています」

最果タヒさんや文月悠光さんら、いま注目を集めている若手詩人たちの作品が、多く引用されている。

「特に中尾太一さんや、本作には織り込めなかったけど暁方ミセイさんは本当に好きで。『詩とかわからないから』と自分の興味の外にあるものに人は案外冷たいよなというのが僕の長年のフラストレーション(笑)。なので、あたるの心情とシンクロしながら、若い人がもっと小説や詩の世界に入ってきてくれたらなという“祈り”を織り込みました」

とても意味深なタイトルは、「自分の中では、詩情と至上がまずあり、でもひらいたら、ダブルミーニングやトリプルミーニング…もっと言葉の可能性があるなと。作中でもあえてひらがなを使うのは、僕自身がひらがなが好きだからですね」

町屋良平『坂下あたると、しじょうの宇宙』 詩の投稿に熱中する高2の佐藤毅。親友で文学的才能のある坂下あたるや彼の恋人の浦川さとか、京王蕾らとのザ・青春的丁々発止も楽しい。集英社 1600円

まちや・りょうへい 1983年、東京都生まれ。2016年に『青が破れる』で文藝賞を受賞しデビュー。‘19 年、『1R1分34秒』で第160回芥川賞を受賞。他の著作に、『ショパンゾンビ・コンテスタント』など。

※『anan』2020年4月29日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・三浦天紗子

(by anan編集部)