志村 昌美

「日本から影響を受けていることを出していきたい」鬼才監督が語る日本への愛

2022.3.17
何かとストレスが溜まりやすい現代で、ときにはうっぷんを晴らしたいと思うこともあるのでは? そこで、憂うつな気分も吹き飛ばしてくれるオススメの話題作をご紹介します。

『ガンパウダー・ミルクシェイク』

【映画、ときどき私】 vol. 466

ネオンきらめくクライム・シティで、暗殺組織に属する腕利きの殺し屋サム。トップ・アサシンとして暗躍していたが、彼女はあるミッションでターゲットとされていた人物の娘エミリーをかくまったことで、組織から逆に命を狙われてしまう。

次々とやってくる刺客たちを蹴散らし、夜の街を駆け抜けるサムとエミリーは、かつて殺し屋だった 3 人の女性が仕切る図書館に飛び込むことに。知恵と力を結集させた女たちは、図書館秘蔵の銃火器の数々を手に、悪の組織への反撃を開始する!

CG抜きの迫力あるアクションを堪能できるだけでなく、バイオレンスとユーモアを融合させた“新世代のシスター・ハードボイルド・アクション”として注目を集めている本作。作品の裏側について、こちらの方にお話をうかがってきました。

ナヴォット・パプシャド監督

世界各国の映画祭で数々の賞を受賞した経験に加えて、クエンティン・タランティーノ監督からも才能を認められているイスラエルの鬼才パプシャド監督。今回は、映画マニアならではのこだわりや日本に対する特別な思いなどについて、語っていただきました。

―まずは、本作に登場する主要の殺し屋を全員女性にしようと思った理由から教えてください。

監督 僕にとっては、「そうしない理由はないんじゃない?」と思っていたくらい自然なことでした。『エイリアン』とか『キル・ビル』のように、女性が物語を引っ張っていくような作品は以前からもわりとあるようなイメージがあったので。ただ、数としてはまだまだ足りていないのかなという印象はありました。

それからもうひとつの理由としては、「もし男性が主人公だったらこんなスマートな判断はしないかもしれない」と思うところが本作にはいくつかあったので、女性のほうがいいのではないかなと。決して男性を見下しているわけではありませんが、人質になった少女と母娘のような関係になるほうが自然だし、そのほうがおもしろいと感じたのです。そういったところからこの映画では女性であることが大きなテーマになり、シスターフッドの作品となりました。

女優たちとのコラボはキャリアにおいても最高の経験

―なるほど。そのあたりについては、出演されている女優陣とも話し合ったのでしょうか。

監督 そうですね。物語の主軸となる感情面や葛藤というのは女性ありきの部分だったので、彼女たちと一緒に相談しながらキャラクター造形を完成させることができたのは大きかったです。彼女たちが素晴らしいコラボレーターとなってくれたおかげで、作品のレベルも上がりましたし、僕自身のキャリアにおいても最高の経験となりました。

―劇中では気になるアイテムが数多くありましたが、タイトルにも使われているミルクシェイクを母娘の絆を感じさせる大事なシーンのアイテムとして選んだ理由とは?

監督 2人をつなぐものとして何かを入れたいと考えていたときに思いついたのが、ミルクシェイクだったからです。僕自身、食べ物とともに両親との思い出を振り返ることが多かったというのもありますが、そのなかでもミルクシェイクに含まれているのは、童心に帰れる要素とロマンチックさ。それをスローモーションで撮ることによって、母親と子どもの絆をノスタルジックな瞬間として表現できたと思っています。

僕にとって母親の作ってくれたチョコレートケーキは、たとえ味で負けていたとしてもミシュランの3つ星店が作るチョコレートケーキよりも特別なもの。そんなふうに記憶や感情とつながり、絆を感じさせるものがこの作品には必要だったのです。

日本文化とは昔からつながりを感じている

―そのほかに日本製のシリアルをサムが食べていたり、サムとエミリーが日本語の書かれたシャツを着ていたりしているのも気になりました。小道具に日本の要素を取り入れたのには何か意図がありますか?

監督 まだ1度しか訪れたことがないものの、僕は日本が大好きで、大きな敬意の念を抱いています。言葉ではうまく説明できませんが、昔から日本文化とはつながりを感じていましたし、日本語の響きは僕にとっては音楽のようでもあります。

僕は日本から影響を受けていることを隠すつもりはなく、むしろそれをドンドン出していきたいと思っているので、劇中で日本語の書かれたアイテムを登場させました。それくらい僕は日本の文化や映画に対して思い入れがあるので、それをみなさんにも知ってほしいです。

―さらに、この作品では黒澤明監督にインスパイアされて作ったところもあるのだとか。映画マニアでもある監督が、本作に黒澤監督の要素を取り込もうと思ったのはなぜでしょうか。

監督 それは、もはや愛のようなものですね(笑)。人を好きになるのに理由がないのと同じではないかなと。今回は、黒澤明監督だけでなく、セルジオ・レオーネ監督とアルフレッド・ヒッチコック監督という3名からインスピレーションを受けているので、それらが交錯するような映画になっています。

僕の祖父が映写技師だったこともあり、僕は「映画とは何か」というのを知る前から映画に触れて育ちました。そういったなかでも、観ているだけでまるで催眠にかかったかのように引き込まれてしまうのがいま挙げた3人の監督。黒澤監督に関していうと、幼いころに父と観た『七人の侍』に魅了されたことをよく覚えています。

落ち着いたら日本には一番初めに行きたいと思っている

―そのなかでも、注目してほしいところはありますか?

監督 本作では暗殺モノを誘拐モノにつないでいく、というアイデアを実現させることができました。たとえるならレオーネ監督の『続・夕陽のガンマン』を観ていたと思ったら、黒澤監督の『天国と地獄』になっていたというような感覚に近いかなと。そうやってジャンルをミックスすることも今回は意識したところです。

―それでは最後に、監督が日本に対して伝えたい思いがあれば、お聞かせください。

監督 僕は学生時代から黒澤明監督や黒沢清監督、三池崇史監督といった方々から影響を受けてきました。映画を通して日本という国を知ったというのもありますが、僕にとって日本は“映画的な国”です。そのほかにも、アニメや音楽といった日本の文化も大好きなので、このパンデミックが落ち着いたら一番初めに行きたいと思っています。

ポップでカラフルなのにバイオレントも全開!

強さと美しさを兼ね備えた女性たちが繰り広げる手加減なしのド派手なバトルに、爽快感炸裂の本作。甘さは控えめだけど超刺激的な1本に、誰もが心をシェイクされること間違いなし!


取材、文・志村昌美

興奮が止まらない予告編はこちら!

作品情報

『ガンパウダー・ミルクシェイク』
3月18日(金)、TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
配給:キノフィルムズ
https://www.gpms-movie.jp/
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