志村 昌美

ELAIZA「なかなか褒めてくれない」歌手である母との関係

2022.2.23
素顔を見せることなくトップまで駆け上がり、“顔なきポップスター”と称されている世界の歌姫Sia。新体感ポップ・ミュージック・ムービーとして大きな反響を呼んでいる『ライフ・ウィズ・ミュージック』で、映画監督に初挑戦したことでも注目を集めています。今回は、いよいよ日本にも上陸する本作について、こちらの方にお話をうかがってきました。

ELAIZAさん

【映画、ときどき私】 vol. 458

今回、主題歌であるSiaの「Together」を日本語で歌う日本版カバーソングアーティストを務めているELAIZAさん。女優業だけでなく、幅広いフィールドで才能を発揮している池田エライザさんが「ELAIZA」の名義で本格的なアーティスト活動を始めたことでも話題となっています。そこで、本作の見どころや音楽に救われたエピソード、歌手でもあるお母さまとの関係性などについて、語っていただきました。

―本作では、孤独に生きる主人公のズーが自閉症の妹ミュージックと関わることで愛や希望を見出していく様子が描かれていますが、ご覧になったときはどのような印象を受けましたか?

ELAIZAさん 人間としてまだ完成していない未熟な者同士がお互いを補い合っていく姿を魅力的に描いている作品だと思いました。しかも、人が抱えている孤独とか寂しさというのは、ともすれば薄っぺらくなりがちな部分ですが、それをセリフや展開で見せるのではなく、ミュージックの頭のなかにある音楽や映像で表現しているのがSiaらしいなと。Siaだからこそ、これだけの完成度で映画として示せているんだと感じました。

―現在は女優、歌手、映画監督などさまざまな活動を行っていますが、それぞれの観点によって本作の注目するポイントも違ったのではないでしょうか。

ELAIZAさん いろいろなことをしているとそれぞれに垣根があるように見られがちですが、実はあるようでまったくなくて、ただ「表現する」というのが1本ある感じです。今回は、純粋に観客として楽しんでいる部分が大きかったですが、監督を経験したことがある人間からすると、自分自身の人生に起きたことを人に託すSiaの勇気はすごいなと。それはお互いに信頼関係があって、俳優たちがSiaを尊敬していなければ絶対にできないことですから。そういうところには、すごく感銘を受けました。

Siaが叫んでくれるだけで安心できる

―ELAIZA さんから見たSiaの魅力とは? 

ELAIZAさん いつも車のなかで歌っているほど、以前から大ファンなのですが、自分が日頃叫べないことを彼女が叫んでくれるだけで安心するところはありますね。あの声で張り上げてくれると、胸の暗いところが開けていくというか、明るく照らされていくような感じがするというか。苦しそうなのに、すごく希望を持った歌い方をしているので、本当に不思議な魅力を持っているのがSiaだと思います。私はそういうところが好きですね。

―今回、主題歌の「Together」を日本語でカバーされていますが、実際に歌ってみて気づかされることもあったのではないかなと。

ELAIZAさん Siaの曲なので簡単ではなかったですが、好きなお菓子を袋詰めしているときのようなワクワク感を味わえる言葉たちがたくさん並んでいたことと、音の運びがいいことにはすごく驚かされました。

ただ、和訳したときに文章の並び方とか言葉の音とかは違ってくるので、日本語に合う柔らかさみたいなところはちゃんと出していけたらいいなと。日本語は強く歌えば歌うほど、いろいろな意味を持ち始めたりすることがあるので、それぞれの言葉にマッチする歌い方を探していく作業はすごく楽しかったです。

―ご本人も聴いてほしい?

ELAIZAさん そうですね。私の歌唱力がどうこうよりも、日本語バージョンを聴いてもらうことでSiaが日本にもこの映画が広がっていくのを感じてもらえるのなら、それはすごくうれしいです。

音楽と関わっているときが一番イキイキしている瞬間

―「ELAIZA」として本格的に音楽活動を始められたところですが、名前に込めた思いをお聞かせください。

ELAIZAさん 「サブスクで海外の人も見やすくなったらいいかな」と思っただけで、実は特に意味はないんですよね。実際、発表の何日か前に決めたくらいですから(笑)。

―歌手であるお母さまの影響もあって、子どものころから幅広いジャンルの音楽を聞いて育ってきたそうですね。歌手活動をするなかで、改めてご自身にとって音楽はどういう存在だと感じていますか?

ELAIZAさん 自分が内側から輝くのを感じることもあり、私にとっては音楽と関わっているときが一番イキイキしている瞬間。いろいろな気持ちが溢れてくるので、普通に話をしているときには開けられない“蓋”を開けられるのが音楽の魅力だと思います。みなさんにとってもそうかもしれないですが、私とは切っても切れない関係ですね。

―お母さまからは、先輩としてのアドバイスなどもあるのでしょうか。

ELAIZAさん なかなか褒めてはくれないですね(笑)。でも、お母さんがいることで積極的に取り組もうと思えるので、「厳しくいてくれてありがとう」という感じです。ただ、私が出演している番組は全部見てくれているので、厳しいですけど、大好きでいてくれているんだなと。すごく仲がいいので、親友みたいな存在です。

「生きてるだけで偉い」と思うようにしている

―音楽に救われた経験はたくさんあると思いますが、いま頭に浮かんだエピソードといえば?

ELAIZAさん 中学生のときに、受験に落ちてしまった日のこと。山の上にあった学校からの帰り道で、目の前に真っ赤な夕日が広がっていたんです。ちょうどそのときに聴いていた曲の歌詞が、「陽は落ちても、明日はもっと明るい太陽が昇ってくるよ」みたいな感じで、それを聴いた瞬間に、すごく吹っ切れたんですよね。

いまどれだけ悲しくても、明日には元気になるのっておもしろいなって。そこから、「1日以上落ち込むほどのことじゃないし、いままでもそういうのたくさん乗り越えてきたんだから、よし次行くぞ!」と思えたんです。知り合いのバンドマンが作った曲で世に出てない曲でしたが、そんなこともありましたね。

あと、子どものときから好きなのは、スティーヴィー・ワンダーの「フォー・ワンス・イン・マイ・ライフ」。歌詞の意味がわからなくても心躍る曲なので、音楽の力を感じる1曲として、いまでもよく聴いています。

―また、本作の主人公ズーは、自己肯定感が低く孤独な人物でしたが、共感するようなところはありましたか?

ELAIZAさん 日本は自己肯定感が低い人が多いと言われていますが、理由もなく低いとしたら、それほど恐ろしいことはないなと感じてます。私はどちらかというと意識的に上げているほうですが、やりたいことが全部自分の外側にあるので、あまり自分のことを考えていないというか、「生きてるだけで偉いじゃん!」と思うようにしています。

努力していれば、自分の価値は見出してもらえるはず

―劇中では、ズーがミュージックと出会うことで自分の存在価値を見つけていく過程も描かれています。職業的にもそういうことと向き合う瞬間は多いのではないでしょうか。

ELAIZAさん 存在価値というのは、 自分が意図しないほうへと転がっていくこともありますからね。でも、自分の存在価値を他人に押し付けるほど厚かましいことってないんじゃないかなって。ただ、努力することは好きなので、それを続けていれば、きっと信頼している人が自分の価値を見出してくれるとは思っています。

―最初のほうに、歌手でも女優でも監督でも垣根はないとおっしゃっていましたが、創作活動の源となっているものは何ですか? 

ELAIZAさん 思いついてしまうから、やるしかないんですよね(笑)。ただこの仕事が好きなだけで、その気持ちは小さいときに恐竜の図鑑を読んでいたときと何も変わらないかなと感じています。

―ということは、やりたいと思ったらすぐ行動に移せるタイプ?

ELAIZAさん いや、私はそんなに大胆ではないです(笑)。なので、ジワジワと地道に勉強してからするようにしています。

映画を観ることで心を明るくしてほしい

―昨年インタビューをさせていただいたときも、歴史や日本のことなど幅広く勉強されたいとおっしゃっていましたよね。

ELAIZAさん 東京オリンピックのときに、開会式の入場を見ていて、自分が知らない国がこんなにもあるのかと、打ちのめされてしまいましたから。まずは世界地図を覚えたいなと。そこから自分がいる国の状況や立場などを勉強して、身の丈を知っていけたらいいなと考えています。社会科の勉強からですね(笑)。

―先が見えない時代のなかで、ズーのように自暴自棄になったり、悩みを抱えていたりする人も多いと思うので、最後にananweb読者へのアドバイスがあればお願いします。

ELAIZAさん うまくいってないなと思っているときというのは、自分が変わらなきゃいけない瞬間やこれまでの価値観を否定しなければいけないこともあるので、その過程でつらい思いをすることはあるかもしれません。でも、映画を観ていると、そういう瞬間も含めて美しいと思えるので、『ライフ・ウィズ・ミュージック』のような映画から努力している人の美しさを感じて、自分自身も当事者であると感じられたらいいのかなと。それほど素晴らしいことはないと私は思っています。

あとは、この作品のなかに盛り込まれている音楽シーンの映像は、純粋に心を明るく持ち上げてくれるので、そういう意味でもぜひ観てほしいです。私もがんばりますので、みなさんもがんばりましょう! そして、私の1stアルバム『失楽園』にも伝えたいことは込めているので、合わせて聴いていただけるとうれしいです。

インタビューを終えてみて……。

ブレることのない芯の強さがありつつ、天真爛漫な笑顔でその場を一気に明るくしてしまうELAIZAさん。お話をしているだけで、ポジティブな気持ちにさせていただきました。これからも溢れ出る才能から生み出される作品の数々が楽しみですが、まずは「Together」で披露している美しい歌声は必聴です。

琴線に触れる珠玉の音楽と人間ドラマ

自身の実体験を基にしたリアルな苦しみや痛みを描きつつ、唯一無二のアーティストであるSiaにしか表現できないカラフルな世界観で愛と希望を映し出している本作。Siaが放つ音楽と映像は、これまでにない映画体験とともに、誰もが抱える孤独に救いの手を差し伸べてくれるはずです。


取材、文・志村昌美 撮影・金井尭子(A.K.A.)
ヘアメイク・豊田健治(資生堂) スタイリスト・カトウリサ
ドレス¥81,400、グローブ¥23,100(共にANNA SUI/アナ スイ ジャパン03-6635-6470)

ストーリー

アルコール依存症のリハビリテーションプログラムを受けたズーは、祖母の急死により、長らく会っていなかった自閉症の妹・ミュージックと暮らすことになる。頭のなかではいつも音楽が鳴り響く色とりどりの世界が広がっているが、周囲の変化に敏感なミュージックとの生活にズーは途方に暮れていた。

そこに現れたのは、アパートの隣人である優しい青年エボ。次第に3人での穏やかな日々に居心地の良さを覚え始めたズーは、孤独や弱さと向き合い、自身も少しずつ変わろうと決意するのだが……。

目と耳を奪われる予告編はこちら!

作品情報

『ライフ・ウィズ・ミュージック』
2月25日(金) TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開
配給:フラッグ 
https://lifewithmusic.jp/
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