志村 昌美

冤罪の過去も! 頭脳警察PANTA「スティングに負けない」大波乱人生

2020.7.15
生きるうえで欠かせないものといえば衣食住ですが、人生をより豊かにしてくれるもののひとつといえば音楽。そこで、音楽に人生を捧げ、“日本語ロックの元祖”と言われているこちらの方にお話をうかがってきました。

頭脳警察のPANTAさん!

【映画、ときどき私】 vol. 310

1969年にPANTAさんとTOSHIさんによって結成された頭脳警察は、反戦・反体制運動が激化するなか、過激な歌詞と自由なメロディで若者から圧倒的な支持を得た伝説的ロックバンド。

その後、解散と再結成を繰り返しながらさらなる進化を遂げてきた頭脳警察ですが、まもなく公開の映画『zk/頭脳警察50 未来への鼓動』では、過去から現在までの長い歴史を堪能することができます。今回は、映画では語られていない裏話から音楽への熱い思いまでを語っていただきました。

―頭脳警察は昨年で結成50周年を迎えましたが、まずは振り返ってみていかがですか?

PANTAさん 本当に月並みな答えですけど、一瞬でしたね。何とかここまでやってこれたんだなと。でも、もともとは続けようという意識はなかったんですよ。

というのも、ファーストアルバムが1972年に発売中止となり、続くセカンドアルバムも発売禁止となったので、本当は社会から早く抹殺されなきゃいけなかったバンドでしたから……(笑)。でも、なぜか生きながらえて長寿グループになってしまって、本当に摩訶不思議な感じがしています。

―映画を観ていても、まさに時代とともに生きてこられたバンドだと感じました。

PANTAさん そうですね、本当に悲喜こもごもでしたけど、時代と重なる部分もずいぶんとありました。今回のコロナに関していえば、僕たちは去年の4月から50周年のイベントをスタートさせていて、今年の2月に終えたばかりだったので、少しでも遅かったら開催できなかったでしょうね。幸いなことに、何とか助けられたという感じです。

曲とシンクロする事件が本当にたくさんあった

―いろいろな危機を乗り越えながら、ここまでたどり着いたと改めて実感されていると思います。本編には映っていないところでの裏話などがあれば、教えていただけますか?

PANTAさん お話できないことはたくさんありますよ、毎日が修羅場ですから(笑)。そのなかでも、振り返ってみると、思い出すのは先ほども触れたファーストアルバムが発売中止になったときのこと。

東京と京都でライブレコーディングをしたんですが、ちょうど発売しようとしたときに日本中のテレビのブラウン管に映っていたのが連合赤軍によるあさま山荘事件の映像。アルバムに「赤軍兵士の詩」など、政治的に過激な曲が入っていたこともあり、発売中止となりました。

そのあと、スタジオ録音に切り替えてもう一度発売しようとしたら、今度はイスラエルでの銃撃戦が勃発。1曲目のタイトルが「銃をとれ」でしたから、これも無理ですよね……。セカンドアルバムも回収騒ぎになったりして、本当にいろいろとシンクロする事件が多くありました。

―かなり波乱の日々ですね。そのなかでも、忘れられない出来事といえば、どのようなことでしょうか?

PANTAさん 80年代のある日、あまりに巨大化したロックビジネスに嫌気がさしてしまい、レコード会社や事務所のスタッフと次のアルバムについての打ち合わせをしようってときに、ドア開けるなり、「俺、やめた!」って言って帰っちゃったこともありました。みんなポカーンとしてましたけどね(笑)。

「日本には俺がいるんだ!」という自負が湧き上がった

―それはみなさんのほうが衝撃的だったでしょうね……。そのあと、どうなったのでしょうか?

PANTAさん それから1週間後に、車に乗っていたらラジオからスティングが歌っていた「ラシアンズ」が偶然聞こえてきたんです。アメリカとソ連による東西冷戦を批判した曲にも関わらず、グラミー賞で歌い、しかもそれをアメリカ国民が受け入れているんですよ。そのときに、「これは負けていられないな」と思いました。

というのも、実はスティングとは彼が「ポリス」というバンドで日本に来たときに、いろいろな話をしていたことがありましたから。ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンと新宿LOFTの差はあるかもしれないですけど、「日本には俺がいるんだ!」という自負がむくむくと湧き上がってきて、それ以来ずっと続けているという感じです。

ただ、一度解散して1990年に頭脳警察を再結成したあと、何もやる気が起きなくなり、音楽と全然関係ない仕事をしたりして、気がついたら10年も遊んじゃったことはありましたけど(笑)。

―(笑)。ちなみに、何がPANTAさんをそうさせたのでしょうか?

PANTAさん 再結成のときに掲げたコンセプトが、古代ギリシャの哲学者ヘラクレイトスの「万物流転」。これは「この世にあるすべてのものは、絶え間なく変化している」という意味なんですが、「実際の世の中は何も変わっていなくて、バカなことばっかり繰り返しているじゃないか」と感じたんです。そしたら、何もやる気がなくなってしまったんですよね。

ところがある日、音楽仲間と沖縄で朝まで話し込んでいたときに、話題に上がったのが、ソ連の映画監督だったアンドレイ・タルコフスキーの『サクリファイス』という映画の話。そこで、「世の中は同じことばかりを繰り返しているけれど、少しずつ変わっている。いや、変わらざるを得ないんだ」という劇中の言葉を聞いて、肩からスーッと力が抜けていきました。

つまり、「大きく振りかぶって新しいことをしなくても、世界が変わっているんだから、自分は同じことを繰り返していてもいいんだ」ということに気がついたんです。それ以降は、少しは良くなってほしいなという思いを込めて歌えるようになりました。そうなるまでに、10年かかってしまいましたけどね。

音楽の存在に関する大きな問題と向き合っている

―とはいえ、今回の新型コロナウイルスの影響によって、また心境が変わってしまった部分もあったのではないでしょうか?

PANTAさん それはありますね。すべてが過去には戻れないですし、全世界の人がみな同じスタートラインに立っているような感覚ですから。音楽業界もライブや配信に関していろいろな意見が飛び交っていますが、僕はそれ以前の問題として、「音楽をどうしたらいいのか」という大きなテーマについて考えています。

―具体的には、どのような問題と向き合っていらっしゃるのでしょうか?

PANTAさん たとえば、最近は「音楽はタダで聴くもの」みたいなところがあるので、根源から一度考え直さないといけないんじゃないかなと。

この前、「音楽がお客さんを相手にするようになったのはいつからか」という話になって、それは単なるBGMだった宮廷音楽に人の目を向かせたベートーヴェンからなんですけど、そこから人は音楽を聴くようになり、そしてエジソンが蓄音機を発明し、レコードビジネスが始まり、CDになってからさらに音楽が大流行するわけですよね。

でも、それがいまや音楽はタダで聴くものとされていて、非常に難しい立場にあると思うので、今後どういう形になっていったらいいのかなというのは、悩んでいるところでもあります。

―音楽の置かれている環境はもちろんですが、いまは聞き手の心境も大きく変化してしまったところがあると思うので、作り手としてはさまざまな課題を突き付けられているのかもしれません。

PANTAさん そうなんですよね。そのほかにも、たとえばミュージシャンが政治的なことを発言すると誹謗中傷されることがあり、僕も相談を受けたことがありますが、本当にそういう行為は卑劣だなと。今回の自粛警察も含めて、SNSの問題は根深いですよね。

高校時代に味わった怒りがモチベーションの根幹

―そんななかで、PANTAさんが思う「音楽の力」とは? 

PANTAさん 僕が最初に出会った音楽は、スティーブン・フォスターの「ケンタッキーの我が家」。親父の親友だったメリック軍曹がハーモニカで吹いてくれたんですが、それが自分にとっては原点になっています。

その後、エルヴィス・プレスリーやビートルズにはじまり、アニマルズ、さらはオーティス・レディングやサム・クックといったブラックミュージック、そして最後にはマディー・ウォーターズやジョン・リー・フッカーらのブルースと出会いました。

ただ、「差別の歴史のなかで生まれたブルースを極東のケツの青いガキが歌っていいのか?」と悩むようになり、19歳になったときに自分の言葉で歌いたいと思って頭脳警察を始めたのがきっかけです。

それ以来、僕が思っているのは、「音楽というのは、どんな軍隊よりも強い最高の武力である」ということ。音楽には、宗教も民族も国境も超える力があると僕はいまだに信じています。

―音楽への熱い思いがヒシヒシと伝わってきますが、もし音楽と出会っていなかったら、何をしていたと思いますか?

PANTAさん 実は、中学生のときは将来イタリアに行って車やバイクを作る工房で働きたいと考えてました。弟子入りして、デザインの勉強をしたいなと。ところが、高校1年生のときに、バイクの窃盗事件に巻き込まれて、何もしていないのに警察に連れて行かれ、自供を強要され、なんと退学になってしまったんです。いまだったら、高校生が冤罪で捕まって退学になるなんて、信じられないですよね。本当に腹が立ちましたよ!

―考えられない出来事ですが、それこそが頭脳警察を作るきっかけにもなっているということですよね?

PANTAさん そうですね。だいぶ経ってから、あるパーティで当時埼玉県警の本部長をされていた方と会ったので、「あのとき俺を逮捕してくれなかったら、頭脳警察はできていませんでしたよ。警察が頭脳警察の生みの親ですね!」と言って大笑いしました。

いまだったら、笑いごとではなくて、大事件ですけどね(笑)。でも、あのときに感じた怒りが根幹にあって、いまだにモチベーションとなっている部分もあるとは思います。

ヒーローがいなければ自分がなればいい

―すごいエピソードをありがとうございます。昨年は若いメンバーも加入されましたが、そこには若い世代に引き継ぎたいお気持ちもあると思うので、若い人たちに伝えたいメッセージがあれば最後にお願いします。

PANTAさん 僕から「こうしなさい!」と言うつもりはないですが、自分が一番大切にしているのは好奇心を持つこと。たとえ、自分が嫌いなものでも、わからないことがあれば謎を知りたいし、好奇心が高まると、そこに探求心が生まれますから。そうすると、行動できるようになるんですよ。

あと、いまの人たちと話してみてわかったのは、彼らにはヒーローがいないということ。僕が若い頃は、こうなりたいなと思うようなヒーローがたくさんいたんですけどね。だったら、自分がなるしかないんじゃないかな。

いまの若い世代がどこに価値を見出しているかわからないですが、みんながどうだからとか、流行りだからとか、そんなことは関係なくてひとりひとりで良いと思うんですよね。洋服だって、流行とか関係なく自分が着たいものを着ればいいんですよ。

「自分の好きなことをする」というのは周囲へ向けた最高のメッセージでもありますが、個人がそれぞれの利益を追求することは、公共の利益にもつながると信じているので、僕もいい曲を書きたいという思いがみんなの利益につながればいいなと思っています。

インタビューを終えてみて……。

お会いする前は近寄りがたいような印象があったものの、終始笑顔で優しいオーラ全開のPANTAさん。音楽の歴史からご自身の体験談まで、幅広いエピソードを聞かせていただき、とても濃密な時間となりました。PANTAさんのさらなる魅力は、ぜひ映画でご覧ください!

ライブの熱気を肌で感じる!

日本や世界の歴史とともに歩んできた頭脳警察の50年を体感できるドキュメンタリー映画。魂のこもった音楽、そして冷めることのない情熱は、いまの私たちに新たな力を与えてくれるはずです。

刺激的な予告編はこちら!

作品情報

『zk/頭脳警察50 未来への鼓動』
7月18日(土)より、新宿K’s cinemaにて公開
出演:頭脳警察  監督・編集:末永賢
企画・製作プロダクション:ドッグシュガー
製作:ドッグシュガー、太秦  
配給:太秦
©2020 ZK PROJECT
http://www.dogsugar.co.jp/zk.html