「みんなの前で褒められるのが、気まずい」 20~30代の“仕事の悩み”を臨床心理士が分析

2024.2.29
さまざまな世代の心の悩みに数多く耳を傾けている臨床心理士の塚越友子さん。いつの時代も20~30代は、人間関係で悩みがちな年代だと言います。

より良い関係は、自然体の“思いやり”から。優しい関係。

「この世代は、会社や社会、友人関係など大勢の人たちと上手くコミュニケーションをとりながら、新しい関係性を築いていくことが求められます。仕事はもちろん、プライベートな友人関係も、いい人間関係があって初めて上手くいくもの。全方向的に人間関係を作るのに忙しいからこそ、人付き合いに関しての悩みやストレスが尽きない世代だと思います」

コロナ禍を経て、人間関係の悩みに変化はあるのだろうか。

「かつては、“こんなことがあって辛い”“こんなことを言われて傷ついた”など、〈起こった事象〉に対しての悩みが多かったんですが、最近は人間関係で何かが〈起こる前〉に、衝突を避けようとする意識が強いのか、起きたトラブルの相談よりも、事前に回避する相談が多い気がします」

その世代の人たちからは、“傷つきたくない”という気持ちをとても強く感じると塚越さん。

「誰かと摩擦が起き、それによって悩むというよりは、“摩擦を起こしてしまったらどうしよう…”と思う気持ちから、相手に踏み込まない人が多い。遠慮は優しさなのかもしれませんが、なかにはその遠巻きな距離感が、“ぬるい人間関係”に感じられる人もいます」

リアル社会で実際に顔を合わせる接触に加え、SNSを通じてのコミュニケーションもある現代。上手くいかないと思ったら、アカウントを削除し人間関係をリセット、という人も多いそう。

「会社にしても友人関係にしても、かつてよりも帰属意識が希薄なのも特徴。なので、今の場所の居心地が悪いなら、そこを去って新たなコミュニティに移動するといった、リセット文化はもはや普通」

“この距離感がベスト”という目安もない今、人と距離を詰めることや、親しくなるというのは、本当に難しいのかも…。

「遠慮をして距離を詰めなければ相手を知ることはできないし、詰めすぎると摩擦が起こる。“本当に”優しい関係とは何なのか、コロナ禍後の私たちが今考えるべき課題の一つだと思います」

anan総研110人に聞いた、人間関係のお悩みって?

Q. 今、人間関係に悩んでいますか?

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悩んでいる…28%、少し悩んでいる…33%、あまり悩んでいない…22%、悩んでいない…17%
「悩んでいる」と答えた人は3割以下と意外に少なかったが、「悩んでいない」という人は2割以下。表面化するほどではないけれど、多くの人が何かしら心にモヤモヤを抱えているという結果に…。

Q. どんなことに悩んでいますか?

1位…仕事関係、2位…家族関係、3位…友人関係
1位は仕事関係。リモートでの仕事が増えても、職場の人間関係は永遠の命題なのかも。友人よりも、家族との関係に悩んでいる人が多いのもとても現代的。

お仕事の悩み編

「中途採用で入った、年上の後輩に上手く指導できない」(30歳・サービス業)
業界未経験で入った中途採用の男性が、私より3歳上。プライドが高いのか私に教えられるのが不服そうだけれど、引き継がないと仕事が増える一方。周囲にも相談しにくい。

「誘いを断ると、変に思われないか不安になる」(26歳・販売)
新人だったこともあって今まではランチ会に参加していたけれど、最近は行きたくなくて断るように。急に断るようになって、変に思われていないか心配。

「チームメンバーが男性だらけで、気を使われている」(31歳・建設)
ちょっと愚痴を聞いてほしかっただけなのに、上司に共有されたり、「無理しないで」と私だけ仕事量を減らしてくれたり…心配してくれているのはありがたいけど、正直やりにくい。

「上司に二人きりで食事に誘われるが、断り方がわからない」(29歳・保険)
下心があるのかないのかわからないから、無下に断れなくて正直ストレス。他人を呼んだり、候補日を遠くしたり、工夫しているけれどもう限界!

「みんなの前で褒められるのが、気まずい」(29歳・営業)
仕事は頑張りたいけれど、あまり目立ちたくない。平和に仕事したいのに、みんなの前で褒められたりすると摩擦が起きそうなのでやめてほしいけれど上司に言えない。

「飲みに行く以外、職場の人との仲の深め方がわからない」(34歳・デザイナー)
どうやったら職場の人と仲良くなれるのかわからず、飲みに誘ってしまうけれど、本当は仕事のあとはすぐ家に帰りたい。相手は嫌かもしれないと思うけど、他に方法が思い浮かばない。

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「最近、会社の人間関係に悩む人に共通して感じるのが、“人より抜きんでたくないけれど、でもちゃんと頑張っていることは評価してほしい”という思い。今の20~30代はどこか、“目立つのは困る。ほどほどでいたい”という気持ちがあるのかな、と思います」

一方、上司や先輩たちにとって現代は、小さなことでもハラスメントになりうる時代。後輩や部下を前にすると、“厳しく指導をしたら傷つけるのでは…”と、そちらも遠慮しがち。結果、互いに距離を測りかね、前述のように“ぬるい人間関係”になることも多々。

「指導がないぬるい環境は、期待をかけられたくない人には居心地がいいかもしれませんが、成長したい人にとっては物足りない。前述の通りコミュニティに対する帰属意識も薄いので、この世代に転職や起業が多いのは、そんな理由もあるのかもしれません。でも、自分に後輩ができるようになると、今度はどこまで踏み込んでいっていいものか…、という新たな悩みが。いろんな世代が集まっている職場は、人間関係の悩みが尽きない場所なんだと思います」

塚越友子さん 1973年、スイス生まれ。臨床心理士、公認心理師、産業カウンセラー。2008年、東京中央カウンセリングを開業し、悩める人々をサポート。メディア出演、研修講師なども務める

あさみみちゃん TikTokで注目を集める、OLもタレント活動も頑張るうさぎの女の子(25歳)。深く考え込みがちな世の中で、“あなたの気持ちを浅くする寄り添いうさぎ”として愛されている。座右の銘は「Don’t deep!」=「深く考えすぎないで」の意味。

※『anan』2024年3月6日号より。©2021‐2024 Adavito inc

(by anan編集部)