絶世の美男子・光源氏は罪な男!? 『源氏物語』に見る、平安恋愛のレアケース

2024.2.21
平安時代の時代性そのものや、その関連作品に注目が集まる昨今。当時の恋愛に欠かせなかった和歌にフォーカスをあて、その内容から恋愛観を考察します。

平安時代の恋愛はどんなふうに育まれたの? キホンを知れば和歌への解像度が上がるはず!

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恋愛の社会的位置付け

世は摂関政治全盛期。貴族階級の女性の多くは、東宮(皇太子)や天皇に輿入れするよう親に仕向けられる。一方、后の世話をするような中流階級や、それ以下の身分の女性は、婿を取るというシステム。男性は複数の女性の家に通うため、女性はそのまま実家で子育てなどもする。自分の生活が恋愛によって定まるといえるほど、恋愛の社会的位置付けは高かった!

平安のマッチング条件

女性が外に出て男性と出会うということがほとんどない時代。お互いに顔がわからないなか、まずは男性が女性に和歌を送り、そのやり取りから恋愛に発展する。成人(13~16歳頃)を迎えた女性のもとにはたくさんの和歌が届き、高貴な身分の女性の場合は、両親が相手を吟味。中流階級以下の女性の場合は、自由恋愛! 宮中の男性は中流階級の女性との恋愛を楽しむ傾向にあった。

当時の恋愛の実らせ方

貴族階級の女性の場合、親が相手をジャッジするが、その基準は和歌の上手さというより相手の家柄や役職。一方、中流階級以下の女性の恋愛成就は、和歌の上手さが決め手に。気の利いた歌を返せることが、恋心をくすぐるカギ。この時代は、女性がすぐになびくより、ツンデレくらいが男性に好まれたよう。何度か和歌をやり取りして、お互いよければ男性が女性の家を訪ね、顔合わせへ。

恋における和歌の重要性

男女の交流が和歌から始まるように、和歌は恋に必要不可欠。その優劣によって恋の行方が変わってくるため、代筆を頼む人もしばしば。そもそも和歌には恋にまつわるものが多く、和歌そのものが恋のためにあるといってもいいほど。会えるか会えないか、ドキドキしている時にこそ有効で、『和泉式部日記』が、和泉式部と敦道親王の恋の成就で終わっていることからも、察せられる。

『源氏物語』に見る平安恋愛のレアケース

『源氏物語』は、絶世の美男子・光源氏を主人公とした恋愛小説。天皇の息子である光源氏は、年齢も身分も様々な女性たちと恋をする。

「なかでも有名なのは、藤壺と紫の上です。藤壺は光源氏の父帝の后であることから、道ならぬ恋。藤壺の姪の紫の上は幼い頃から目をかけ、ずっと愛し続けた正妻です。ほかにも『源氏物語』のなかには、個性豊かな女性が数多く登場します。男性ではなく女性からのアプローチなど、当時の恋愛スタイルとは少し違うレアケースを、物語に収録された和歌から読み解いていきましょう」(津田塾大学学芸学部多文化・国際協力学科教授・木村朗子先生)

心あてにそれかとぞ見る白露の光添へたる夕顔の花【夕顔】
寄りてこそそれかとも見めたそかれにほのぼの見つる花の夕顔【光源氏】
夕露に紐とく花は玉鉾のたよりに見えしえにこそありけれ
露の光やいかに【光源氏】
光ありと見し夕顔のうは露はたそかれ時のそら目なりけり【夕顔】

→かなり稀な女性からのアプローチ。それほど源氏が美しかった?
1首目は、夕顔という女性が光源氏を初めて見た時に「あなたは光源氏様では?」と送った歌。通常、最初の和歌は男性から送るため、珍しいケース。その歌に「近寄って見たらどうですか?」と返す源氏。二人は恋愛関係になるが、「実物の私はどうですか?」という源氏に、夕顔は「思ったほどではない」とツンデレな返答でいい女ぶりを発揮!

影をのみみたらし河のつれなきに身の憂きほどぞいとど知らるる【六条御息所】
袖濡るる恋ぢとかつは知りながら下り立つ田子の身づからぞ憂き【六条御息所】
なげきわび空に乱るるわが魂を結びとどめよしたがへのつま【葵の上に取りついた六条御息所】

→つれない光源氏を想うあまり、生霊になって取りついてしまう。
六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)とも恋愛関係だった光源氏。しかし、最初の正妻・葵の上の懐妊や、新しい恋人・夕顔との逢瀬で、足が遠のいてしまう。御息所は「(光源氏が)つれない」「袖濡るる(=涙に暮れる)」と、苦しい胸の内を嘆く。やがて無意識のうちに生霊となり、葵の上に取りついて「私の魂を衣のすそに結び付けて」と訴える。光源氏、罪な男…。

木村朗子(さえこ)先生 津田塾大学学芸学部多文化・国際協力学科教授。専門は日本古典文学、女性学。『百首でよむ「源氏物語」』(平凡社新書)、『紫式部と男たち』(文春新書)など和歌や平安文学にまつわる著書多数。

※『anan』2024年2月21日号より。イラスト・カシワイ 取材、文・保手濱奈美

(by anan編集部)