かわいい装丁も増加中! “ロマンス小説”がアメリカのZ世代に人気な理由

2024.2.17
お金持ちや身分の高い男性とのロマンティックな恋物語…と思われがちな、海外ロマンス小説。しかし翻訳家の山口真果さんによると、実は恋に加え、女性の背中を押す力も持つ物語なのだとか。イメージで表紙を開かないのはもったいない! めくるめくロマンス小説の世界を覗いてみましょう。

アメリカではZ世代に人気が再燃。「ロマンス小説」って、いったい何?

一般的にロマンス小説とは、欧米の翻訳恋愛小説の一ジャンルのこと。翻訳家の山口真果さんによると、

「ロマンス小説は、【1】ヒロイン(主人公)とヒーロー(恋の相手)が、何かしらの障害を乗り越える恋愛物語で、【2】ヒロインは主体性があり、【3】紆余曲折がありながら最後は絶対にハッピーエンドになる、という構造の物語。ある意味、誰でも安心して読める恋愛小説だと思います」

オースティンの『高慢と偏見』など、18~19世紀のイギリスから始まったロマンス小説の歴史。恋愛がテーマであることは変わらないものの、二人の前に立ちはだかる障害の種類や主人公と恋の相手の性別、そして結婚がゴールという結末など、定番のディテールは時代に合わせて変化。

「かつては億万長者のマッチョな男性と経済的に恵まれないヒロインの間にある身分の差、のような設定が多かったのですが、最近は、例えば幼い頃に受けたDVによるトラウマを二人で乗り越えるなど、内面の葛藤を克服するプロセスが登場したりしています。またLGBTQを取り扱った作品も増え、白人女性だけでなく黒人やアジア系が主人公の作品が登場したりも。実はロマンス小説は昔から、恋愛だけでなく今を生きる女性の抱える葛藤や問題にもフォーカスしている側面があります。恋のハラハラドキドキを味わわせてくれながら、女性読者に対して“自由に生きていいんだよ”というメッセージも送ってくれている。書き手も読み手も圧倒的に女性が多い世界なので、シスターフッド的な繋がりを感じられることもあります」

主人公と恋の相手を待つのは、幸せな結末であるというのも、ロマンス小説の良いところ。そこだけは絶対に変わらない。

「幸せの絶頂で本を閉じることができる。それが確約されているので、どんな山あり谷ありでも安心して読むことができる。社会が不安定な今だからこそロマンス小説が支持されるのかもしれません」

本は、何度も読み返せるところが最大の長所だと、山口さん。

「自分に響いたセリフを読み返すことは、自分自身をエンパワーすることにも繋がります。力になる作品はロマンス小説の中にもたくさんありますので、ぜひお気に入りを見つけてみてください」

王道あり、新感覚あり。山口さんおすすめ、珠玉の4 冊

舞台は18世紀の英国、ヒロインの腹黒さが痛快!

Entame

『没落令嬢のためのレディ入門』
著・ソフィー・アーウィン 訳・兒嶋みなこ ミラブックス 1250円
妹を守るため裕福な名士との結婚を狙う没落令嬢のキティは、母の旧友に手ほどきを受け可憐なレディに変身し、社交界の花に。しかし伯爵家の若き当主ラドクリフの反応は…。

「お金も地位もないキティは、したたかに男を狙うのですが、ラドクリフは彼女に容赦ない。どうやったらこの二人がうまくいくのか、全然わからないのですが(笑)、驚きのストーリー展開です。ロマンス小説の定形が詰まっているので、初心者におすすめです」

仕事に打ち込む看護師と、記憶喪失の男の恋物語。

Entame

『凍った愛がとけるとき』
著・アメリア・アドラー 訳・鮎川由美 扶桑社 1540円
仕事に邁進する女性看護師のカリは、悲しい過去を背負っていた。彼女が働く救急病棟に運ばれてきたのは記憶喪失のクレイグ。極寒の町をさまようクレイグとカリは同居生活を送ることに。その後クレイグの正体が判明、さらなる驚きの展開が。

「元看護師の作家さんが書いているだけあって、仕事の描写がものすごくリアル。ロマンス小説にありがちな設定ですが、性描写を含まないクリーンな作風が新鮮で人気を集めています」

NYの地下鉄で恋をした彼女は手の届かない相手?!

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『明日のあなたも愛してる』
著・ケイシー・マクイストン 訳・林 啓恵 二見書房 1540円
NYの大学に編入し、大都会での新生活に四苦八苦する主人公のオーガスト。でもある日、地下鉄でゴージャスな美人を見かけて一目惚れ。次第に仲を深めていくのだが、彼女にはどこか不思議なところがあり…!?

「主人公も恋をする相手も女の子。しかも好きになる相手はアジア系。これまでのロマンス小説にはなかった要素が詰まっている作品なのですが、全員が地に足のついたキャラクターなので、スッと物語に入れます」

ロマンス小説の新しい扉を開けた、現代の名作。

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『イット・エンズ・ウィズ・アス ふたりで終わらせる』
著・コリーン・フーヴァー 訳・相山夏奏 二見書房 2530円
開業したばかりのフラワーショップで働くリリーは、脳神経外科医のライルと恋に落ち、結婚。しかしライルの心にはトラウマがあった。

「ヒロインが物語の冒頭に結婚をすることが、ロマンス小説的にはまず斬新。乗り越えるべき障壁が彼の抱えるトラウマというところも、現代の女性たちに響いたポイントだと思います。この作品の登場で、ロマンス小説が新しい時代に入ったと言っても過言ではない、まさに現代を代表する作品です」

Entame

こちらは原書。

「かわいい装丁が増加していて、Z世代には電子書籍よりもSNSにアップできる紙の書籍が人気です」

山口真果さん 翻訳家、海外文学ブログ「トーキョーブックガール」主宰。英語とスペイン語で、文学から実用書まで、幅広く翻訳を手掛ける。ブログはhttps://www.tokyobookgirl.com

※『anan』2024年2月21日号より。写真・内山めぐみ

(by anan編集部)