日本人女性がかかる割合は9人に1人!? 乳がんの基礎知識を医師が解説

2023.12.12
日本人の2人に1人ががんになるといわれる時代。なかでも、女性にもっとも多いのが乳がんだ。これほど多ければ、自分だけではなく、親や姉妹、友人や同僚がかかることだってあり得る。ひとごとではない、身近な病気なのだ。

「がんと聞くと怖いですよね。でも、乳がんは治癒する病気です。まずはその認識をもつこと。そして、年齢などに応じた適切な頻度で検診を受けることが大切です」

と教えてくれたのは、乳腺科医の島田菜穂子先生。

治療法はめざましく進化していて、辛いイメージが付きものの抗がん剤治療も昔とは変わってきているという。

「薬そのものがよくなっているだけではなく、選択肢も増えています。乳がんのタイプ、体の状態、年齢、生活スタイルに応じた治療をカスタマイズできる時代になりました。それに、0期というもっとも早い段階で発見できれば、薬の治療は必要ありません。検診がいかに重要か、わかりますよね」

ここからは乳がん○×クイズで基本的な知識や、勘違いしがちなポイントをチェックしていこう。

【問題1】乳がんは、乳房にできるがんのことだ。

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答え…△ 乳房の中の「乳腺」にできます。
答えは○に近い△。乳房にできるといっても、正確には「乳腺」という臓器にできる。その乳腺は、乳管と小葉から成り、がんの多くは乳管から発生して広がったり、転移したりする。

「つまり、乳腺があるところはがんができる可能性のあるところ。比較的多いのは、乳房の外側上部、その次に内側の鎖骨に近いあたりです。稀にですが、乳房だけではなく腋の下にも乳腺がある人もいるので、セルフチェックのときは腋のあたりまで触ってみるといいですよ」(島田先生)

乳腺は授乳期にしか働かない臓器なので、がんになっても症状があらわれにくい。ただ、体の表面に近い場所にある臓器なので、触診やセルフチェックでしこりを見つけられるのも乳がんの特徴。ほかのがんと違いセルフチェックが推奨されるのはそのためだ。

【乳腺】胸の中の臓器で、乳がんはここに発生する。乳汁をつくる小葉と、乳汁を通す乳管から成り、乳頭から放射状に広がって並んでいる。乳汁は乳管を通って乳管洞という乳頭に近い部分に溜まり、乳頭から分泌される仕組み。授乳期間には乳腺が膨らんで発達し、胸の張りを感じることも。

【脂肪組織】乳腺を守る役割がある脂肪組織。乳腺の発達する思春期に増えていく。量は人それぞれで、脂肪の量が胸の大きさの違いにもなる。

【クーパー靭帯】主にコラーゲンなどでできている膜状の組織。乳房内のほかの組織を埋めるように広がり、大胸筋などとともに乳房を支える役割。

【大胸筋】乳房の大部分がのっていて、乳房を支えている大きな筋肉。胸の土台である大胸筋を鍛えると胸の形や見た目のサイズにも影響する。

【問題2】乳がんは、日本人女性のおよそ20人に1人がかかっている。

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部位別がん罹患数(女性)
乳房…97,142人、大腸…67,753人、肺…42,221人、胃…38,994人、子宮…29,136人
(5位まで。厚生労働省「全国がん登録 罹患数・率報告2019」より抜粋)

答え…× 9人に1人がかかるといわれています。
「9人に1人」と聞くと、どれほど身近な病気かを実感できるのでは? 上のグラフでも、女性がかかるがんの中で乳がんがもっとも多いのが見てとれる。2019年の罹患数は9万7142人。世界的に増えているなか、日本での罹患数もこの20年ほどで倍増している。原因ははっきりとはわかっていないものの、ライフスタイルの変化や出産年齢の高齢化なども一因ではないかといわれている。

「間違いなく、日本人女性がもっともかかりやすいがんです。誰しもかかる可能性があるということ。自分は健康に自信があるからとか、リスク要因に当てはまらないなどと過信しないようにしましょう」

一方で、5年相対生存率は90%以上。治療によって長く生きられる病気だということも、データが物語っている。

【問題3】出産経験の有無は関係ない。

答え…× 出産経験がない人のほうが、多少リスクがアップ。
出産を何度も経験した人と、一度も経験していない人とで比べると、未経験の人のほうがやや注意が必要だという。

「妊娠中は生理がなくなるように、胸も、妊娠・授乳期間はふだんとはまったく違う状態になり、女性ホルモンによる刺激が一時的にストップします。それがない人は閉経までずっと同じサイクルで刺激を受け続けているということなので、少しリスクが上がると考えられます。でも、たくさん産んだ人とゼロの人との比較ですから、わずかに関係があるという程度です」

【問題4】低用量ピルなどのホルモン療法が影響することがある。

答え…△ 長期間ピルを使用する場合は、こまめに検診を。
「若い人でも、PMSや月経困難症の治療などで低用量ピルを用いる人が増えていますね。乳がんがない状態で使うなら問題ありませんが、もし、がんがあるのに気づかず使い続けていると、がんに栄養(=女性ホルモン)を与えてしまうことになります。また、長い期間ピルを使っていると、ほんの少しですがリスクが上がります」

対策としては、ピルの使用開始前に検査をしてがんがないことを確かめるのがおすすめ。長期間ピルを使っている人も定期的な乳がん検診を。

【問題5】胸が大きい人、太っている人のほうがかかりやすい。

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答え…△ 大きさは無関係だが、閉経後の肥満には注意。
胸の大きさと乳がんのリスクには関係がなく、大きい人のほうがかかりやすいという事実はないそう。注意すべきは、とくに閉経後の太りすぎだとか。どういうこと?

「閉経すると、女性は代謝が落ちるので、誰でも多少は太りやすくなるものです。それが肥満傾向にまでなると、乳がんになりやすい。それは、アロマターゼという、男性ホルモンを女性ホルモンに変えて使うための酵素が皮下脂肪にあるから。酵素の働きで女性ホルモンが増えれば、骨粗しょう症を防げるなど女性にとってうれしいメリットも多いのですが、その半面、乳房にも栄養を与え続けることになり、女性ホルモンを栄養とするタイプの乳がんにかかりやすくなるというデメリットがあります」

読者世代にはまだ先のことだけど、親世代には切実な新事実。親にも教えてあげよう。

島田菜穂子先生 「ピンクリボンブレストケアクリニック表参道」院長。筑波大学卒。渡米して研究し、帰国後はピンクリボン運動立ち上げに参加するなど、乳がん啓発活動も牽引。www.pinkribbon-breastcare.com/

※『anan』2023年12月13日号より。イラスト・鈴木衣津子 取材、文・黒澤 彩

(by anan編集部)