“少し変わった植物学者”は透明人間。奇妙な植物に翻弄される人間たちのドラマを描いたコミック

2023.3.7
「植物だけでなく音楽や映画、民俗学など、自分の興味をひとつ残らず入れたお話を作りたかったんです」 著者の穂坂きなみさんが話すように、『グリーンフィンガーズの箱庭』はひとことでジャンルを説明しにくいのだが、それもあってか独特の余韻を残してくれる。
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文学部に通う大学生の旭は、大学の裏山にある大きな屋敷に住む“少し変わった植物学者”の手伝いをするアルバイトを紹介される。迷うはずのない山中でなぜか迷子になり、幼少期に何度も神隠しに遭った過去を思い出しながら辿り着いた屋敷にいたのは、透明人間の植物学者・草薙だった。

「草薙は当初、1話限りのゲストキャラだったのですが、気に入ったのでメインキャラに(笑)。表情が見えない謎めいているところが面白いと思いつつ、身ぶり手ぶりをオーバーにしたり、おしゃべりな設定にして怖くならないようにしています。旭はできるだけ普通の人にしようと思い、ある意味、私に一番近いキャラになりました」

旭の神隠しの原因は植物にあることを特定し、草薙がそれを取り除いたことがきっかけで、ふたりはバディ的な雇用関係に。不思議な現象や風習、日本人の自然観、おとぎ話などをモチーフに、奇妙な植物とそれらに翻弄される人間たちの姿が描かれていく。

「物語は基本的にシーンから思いつくタイプです。たとえば第1話だと、草薙と旭が最初に出会う庭のシーンみたいに。その場面に最初から植物が登場していればそこから話を広げていくし、そうでなかったらどういう植物が出てきて、どういう展開だったらこのシーンが一番輝くのかを考えていきます」

いろんな要素を盛り込んでいるものの、主軸となっているのは人間ドラマ。幼少期の経験から寂しさを抱えてきた旭が、同じようにちょっと不器用な人たちと出会い、内に秘めた想いに触れたときに起こる、ささやかな変化に光を当てる。

「人間の細かい心情の移り変わりを描くのは、自分の強みとまでは言わないけれど、向いているかなと思っています。単にいい話で終わらないような読後感にしたいんです」

単行本では、描き下ろしとして各話の最後に、別の角度から物語を補完するショートストーリーが収められていて、読後感がさらに豊かに。

「本編で描ききれなかったこともたくさんあるので、描き下ろしを含めてようやく1話が完成しているイメージです。今後は、草薙がなぜ透明人間になったのか、過去を掘り下げていくと思うのですが、達観しているように見える彼の人間くさいところも描いていきたいですね」

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『グリーンフィンガーズの箱庭』2 透明人間の植物学者・草薙と大学生アルバイト・旭の距離感の変化も見どころの第2巻。人の欲望と想いに、不思議な植物が交錯するファンタジー。イースト・プレス 880円 ©穂坂きなみ/イースト・プレス

ほさか・きなみ イラストレーター、漫画家。著書に『おやすみエトランゼ』。本作はイースト・プレスのWebメディア「マトグロッソ」で連載。

※『anan』2023年3月8日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・兵藤育子

(by anan編集部)