滝藤賢一「僕がドラァグクイーンのメイクをしている様子を見て、小1の娘は目がハートに」

2023.1.13
手慣れた仕草でスカーフを結びあげ、スカーフ同様ビンテージのジャケットを羽織ると、仕上げに、黒いレザーのキャスケットを頭にのせた。時折カメラに目線を向けながら、路地裏を颯爽と歩く滝藤賢一さん。素材がいいものほど日常で長く活躍し、使い込むほど磨かれる。そんな古着に持つイメージは、滝藤さんにも当てはまるのかもしれない。特にエキセントリックな役柄や芝居に目を惹きつけられる俳優が、新たに演じたのは、ドラァグクイーン(以下、クイーン)だ。
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――映画『ひみつのなっちゃん。』では、クイーンを演じられていますが、長編映画は初主演だそうですね。意外でした。

滝藤賢一(以下、滝藤):これまで100本近く出演させてもらっているからか「まだ主演してなかったの?」とよく言われますが、僕もそんな感じです(笑)。

――クイーン特有の、強くて派手なメイクや衣装のシーンが少なく、素の姿での女性のお芝居は、素晴らしかったです。装いがないぶん、難しさもあったのでしょうか。

滝藤:LGBTQ+にはいろんなタイプがいると伺いました。僕が演じたバージンは、監督と話し合って、常に女性でいることを選択したんです。だから全身の毛を剃ったりして。コロナ禍でスケジュールが1年延期になったことで、役作りや準備の時間がしっかり取れた。だから、いつもみたいにいきなりエンジン全開でスタートダッシュするのではなく、少しずつ作り上げることができたんです。オードリー・ヘプバーンとマリリン・モンローの映画を観て、女性らしさを研究したりもしました。

――コツはなんでしょう。

滝藤:女性よりも女性らしく、大げさな仕草を心がけたことかな。じゃないと女性には見えなかったですね。姿勢も意識していて、肩が落ちるようなシルエットや、お尻をクッと上げて、カモシカみたいに細くてきれいな脚を作ったり。現場では、休憩中でも一度もスイッチを切っていないし、撮影の数か月前から、女性の動きを意識して生活していました。最初の頃は奥さんから、「パパ、そういう目で見るのやめて」とか「普段のパパじゃないからイヤ」なんて言われたけど、小学1年生だった娘は「パパ可愛い…」って、喜んでいましたね。娘が撮影を見に来た時、僕がクイーンのメイクをしている様子を見て、目がハートになっていて(笑)。そこからです。「私、ヘアメイクさんになる」って言い出したのは。

――可愛いです(笑)。完成作をご覧になっていかがでしたか?

滝藤:最初から最後まで、ずっと笑いっぱなしでした! 基本的に自分が出た作品は“ど贔屓”の目で見てるから(笑)。この映画はもちろんロードムービーですが、友情物語であり、恋愛物語であり、親子の愛情物語でもあって。登場するのは愛くるしいキャラクターばかりなので、ハートフルでとても優しい作品だと自画自賛してます(笑)。ロケ地の岐阜・郡上八幡(ぐじょうはちまん)の自然もきれいで、いろんな見どころのある映画です。

――ところで、もともと舞台の出身だそうですね。俳優を志したきっかけはどんなことですか? 

滝藤:高校卒業後、映像に関わる仕事がしたくて、映画演出の専門学校に通うために上京しました。すぐに辞めましたけど。その後、塚本晋也監督の映画『BULLET BALLET/バレット・バレエ』のオーディションに受かったのが、俳優になるきっかけです。僕、オーディションで初めて芝居をした時に浮足立っちゃって、呼吸は普通にできないし、唾もずっと飲み込んでいる状態だったんです。塚本さんからは「ここを見てセリフを言ってください」と言われているのに、キョロキョロしちゃって。自分がこんなことになっちゃうんだ、というのが衝撃的で、底知れぬ奥深さを感じたんですよね。それで演技をもっと勉強したいと思って、俳優養成所の「無名塾」を受けたんです。

――なぜ無名塾だったのでしょう。

滝藤:仲代達矢さん主宰で、卒業生に役所広司さんがいたからですが、授業料がかからないことも大きかったですね。お金がありませんでしたから(笑)。無名塾に入ると、最初からお芝居にのめり込みました。というのも、振り向き方から歩き方、声の出し方まで、すべてにおいてダメ出しの嵐。楽しいというより、必死になれるものを見つけたという感じです。当時はもちろん映像のお仕事は皆無でしたので、自分が芝居をする場を必死に探してました。誰も用意してくれませんからね。出演者が5人なのに、お客様が2人という舞台もありましたし、公演の直前まで客席作りをして、お客様が少なく見えないように、客席の間隔を広げたりして、ごまかしたことも…。

――そんな時代も経験されているとは。今では大変なご活躍で、今日の撮影中もすれ違う人たちが滝藤さんに気づいていたようでした。

滝藤:街を歩いていて気づいていただくようになったのは、ドラマ『半沢直樹』に出演してから。エスカレーターに乗っていたら、反対側から上ってくる人全員に気づかれたこともあって。

――嬉しいものですか?

滝藤:そりゃ嬉しいですよ。遂に発見された、新種の微生物の気持ちでしたね(笑)。ただ僕、銭湯が好きでよく行くのですが、京都に行った時に「あれだよ、俳優、俳優…ほら倍返しの」と言われて、皆さん列をなして確認しに来られたんですよね。スッポンポンの僕を、スッポンポンの男たちが見に来る光景は異様ですよ(笑)。できれば銭湯でだけは、見て見ぬふりをしてほしいです。

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映画『ひみつのなっちゃん。』は1月13日より全国公開。ある夏の夜、新宿二丁目で店を営むなっちゃん(カンニング竹山)が死んだ。ドラァグクイーンのバージン(滝藤賢一)は、仲間のモリリン(渡部秀)とズブ子(前野朋哉)の3人で、オネエであることを隠し、岐阜県郡上市の実家で行われる葬儀に参加することに…。

たきとう・けんいち 1976年11月2日生まれ、愛知県出身。舞台を中心に活動後、2008年の映画『クライマーズ・ハイ』で脚光を浴び、以降ドラマ、映画、CMで幅広く活躍。主演ドラマ『グレースの履歴』(NHK BS4K・BSプレミアム)は、3月19日より毎週日曜夜10時から全8話放送予定。

※『anan』2023年1月18日号より。写真・まくらあさみ ヘア&メイク・山本晴奈 インタビュー、文・若山あや

(by anan編集部)