秦基博、『ONE PIECE FILM RED』劇中歌は「Adoさんの歌声の魅力をイメージしながら作った」

2022.8.28
学生の頃に『ONE PIECE』と出合い、一気にハマったという秦 基博さん。「好きな作品の映画に関われるのは素直にうれしい」と柔和な笑顔を見せる秦さんは、過去にもアニメーション作品の音楽を数多く手がけてきた。今回、書き下ろした楽曲「風のゆくえ」には、いったいどんな思いが込められているのだろうか。
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――音楽をテーマに描く本作『ONE PIECE FILM RED』について、シンガーソングライターとして活躍されている秦さんの目にはどう映りましたか?

音楽に携わっている身としては、歌というものが『ONE PIECE』の世界と繋がることが純粋にうれしくて。『ONE PIECE』の世界の中で音楽がどのように表現されるのか、興味深く脚本を読ませていただきました。

――歌姫・ウタというキャラクターに対して感じたことは?

歌を通して思いを表現していく部分に関しては、僕自身もミュージシャンなので共感できますね。ウタは明るく強い女性で、音楽を発信することでみんなを救いたいという思いを持っているけど、その根底には痛みや悲しみがあって。そのあたりも曲に落とし込めたらいいなと思いました。

――ウタの歌唱部分はAdoさんが担当。そこは曲作りにおいて強く意識された部分ですか?

そうですね。今回は自分が歌うわけではないので、Adoさんの歌声の魅力をイメージしながら作りました。パンチ力や切れ味など、Adoさんの声が持つ浸透力は出したいと思いました。また、力強さだけでなく、細かなニュアンスや声の表情も大変豊かな方なので、そこでウタの悲痛さや弱さが出るといいなと思いながら作っていきました。実際にAdoさんが歌われた音源を聴いたら、一曲の中にいろんな表情があって、とても感動しました。

――「風のゆくえ」はAdoさんの伸びやかな歌声と壮大なオーケストラの音色が調和するバラードナンバーですが、制作サイドからはどんなリクエストが?

事前に一度打ち合わせをして、谷口監督からは「応援歌であり、背中を押すような楽曲を作ってほしい」というお話で。実際、バラードにしようと決めて取り掛かったわけではなく、物語やキャラクターをイメージしながらああいう曲調になっていた感じですね。

――今回、楽曲を制作する上で大事にされたことは?

歌や音楽というものの在り方を表現したいなと思って。僕自身、自分の作った歌が聴き手にどんな影響を及ぼして、どう響いているのかを常に考えていて、そこで何かを見いだせたら自分が音楽をやっている意味にもなる。ウタにとってもそうなんじゃないかなと思い、そのあたりを曲に込めました。

――曲を聴いていると、ルフィや海賊たちの冒険が目に浮かび、『ONE PIECE』の世界観もしっかり描かれているな、と。

そこは意識しました。『ONE PIECE』の世界の中で、ウタの歌として生まれてきたような楽曲にしたいなと思っていたので。ただ、映画を観ている人たちにとっても遠くなりすぎないようにしたかったので、風や海、歌声など、自分たちにもイメージできる言葉を入れています。それは同時に、『ONE PIECE』の世界に存在するものでもあるんですけど。

――「風のゆくえ」はエンディングでかかる楽曲であり、劇中歌としても2回流れる。登場場面が異なる分、制作のアプローチも難しそうですが。

そうですね。最初に流れるのは、子供時代のウタがシャンクスたちの前で歌い、みんなが喜んでくれていて、純粋に歌うことの喜びを感じているシーンですが、結末で流れるときはまた全然違う。心情が変わるので、ひとつの感情だけを捉えるというよりは、ウタというキャラクターのいろんな気持ちを掬い取って、ひとつの曲にできればいいなと思っていました。

――この映画に携わったことはどのような経験になりましたか?

「風のゆくえ」という曲を生み出せたことは、自分にとってもひとつ大きな歓びでした。自分で歌うとなったらこの曲は生まれていない。女性のAdoさんが歌う想定で、ウタという人物が『ONE PIECE』の世界でどんなことを歌うのか、それを考えて作った曲なので。しかも今回は、お話の一部にならなければいけない。そういう楽曲を手がけられたことは自分の音楽活動においても貴重な経験になったと思います。

はた・もとひろ 1980年10月11日、宮崎県生まれ。2014年、『ひまわりの約束』をリリースし、大ヒット。現在、デジタルシングル「残影」配信中。9月よりファンクラブ限定ツアーも開催。

ブルゾン¥39,600 パンツ¥31,900(共にCULLNI/Sian PR TEL:03・6662・5525) カットソー¥5,500(green label relaxing) 靴下¥1,980(CHICSTOCKS) 共にユナイテッドアローズグリーンレーベル リラクシング 自由が丘店 TEL:03・5731・8531 靴¥14,300(MAISON MAVERICK PRESENTS/THE PR TEL:03・6803・8313)

「風のゆくえ」 エンディングでかかる曲であり、劇中歌としても重要なシーンで流れるバラードナンバー。「歌姫としても少女としても、ウタの強さや優しさを表現できたらいいなと思い、『私は最強』とはまた違う、ルフィや海賊たちにとっての追い風になるような歌い方を意識しました」

『ウタの歌 ONE PIECE FILM RED』 「風のゆくえ」含む7曲を収録したアルバムも好評発売中。通常盤ジャケットのウタ×Adoさんのコラボイラストは『ONE PIECE』原作者であり、本作の総合プロデューサーを務める尾田栄一郎先生の描き下ろし。通常盤¥1,980。Spotifyなど各種聴き放題サービスでも配信中。

『ONE PIECE FILM RED』 音楽の島エレジアで開催される歌姫・ウタのライブを訪れた、ルフィ率いる麦わらの一味。大勢のファンが埋め尽くす会場には、よからぬ思惑を持った者もいて…。原作・総合プロデューサー/尾田栄一郎 監督/谷口悟朗 脚本/黒岩勉 音楽/中田ヤスタカ 公開中。

『ONE PIECE』 1997年、『週刊少年ジャンプ』にて連載スタート。主人公のルフィが海賊王を目指して、仲間と共に戦い、成長していく冒険活劇。現在、103巻まで発売中。

※『anan』2022年8月31日号より。写真・野呂知功(TRIVAL) スタイリスト・高橋 毅(Decoration) ヘア&メイク・ハラタタケヒコ(Artsy Life) インタビュー、文・関川直子

(by anan編集部)