ひとつ屋根の下で暮らす、三姉妹の愛しき日常を描くコミック『三拍子の娘』

2022.8.1
三拍子を刻むように軽やかに、心地よいテンポで描かれる日常がクセになる、町田メロメさんの『三拍子の娘』。

三姉妹が弾んで、奏でる日常という名の愛しきワルツ。

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「初めての長期連載だったので、手元から離れすぎず、身の回りにあるものでドラマにしたかったんです」

三姉妹という設定にしたのも、町田さんには妹がふたりいるから。

「モデルとまでは言いませんが、大まかな性格はそれぞれ合わせていて、長女のすみの描写は、ほとんど自分の絵日記みたいな感覚です(笑)」

すみ(28歳)は長女らしく責任感が強いが、楽天家。得意なピアノを辞め、音楽系のライターをしている。次女のとら(22歳)は豪快でお酒好き。仕事の取引先や商店街のおじさんを手玉に取っている。三女のふじ(18歳)は利発で、姉たちをクールに観察しがちだが、時折、女子高生らしさものぞかせる。ひとつ屋根の下で仲良く、慎ましく暮らす彼女たちの結束を強めているのが、いわゆる家庭の事情。すみが高校生のときに母が亡くなり、音楽教師だった父はすべてを捨てて放浪の旅へ。

「何も変わらない日常が続いていく物語は個人的にも好きなんですけど、全部通して読み終わったときに、問題が解決されるようなマンガにしたかったんです。父親はそのための、仕掛けみたいなものですね」

淡々とした日常を彩るのが音楽、特にクラシックのモチーフ。いつの間にか音楽に没頭して、目の前のことを忘れてしまったり、その日聴いた音楽の気分で夕飯の献立が決まるようなことは、誰でもあるはず。そんなふとした瞬間を、今にも音楽が鳴り出しそうなくらい臨場感たっぷりに表現しているのだ。

「この話の構想を始める1年くらい前から、クラシック音楽にハマり出して、自分の中で一番エネルギーのあるモチーフだったんです。三姉妹が主にいる場所は、マンションとスーパーと駅周辺くらいなので、絵的に変化をつけたくて、音楽にまつわる妄想シーンを意図的に入れてもいます。描いている側が楽しまないと、読む人も楽しくないと思うので」

母との思い出や、父の消息もちらつかせながら、いつも通りの一日を繰り返すことで、三姉妹の現在地は少しずつ変わっていく。私たちの人生がそうであるように。

「2巻を描きながら、ストーリー上で解決しなければいけない問題とは別に、このマンガがそもそも言いたいことは何なのか、ずっと考えていました。1巻のときは、目の前の1話に集中して見えていなかった道筋が、ようやく見えてきた気がします」

代わり映えのしない日々でも、同じ日、同じ瞬間は二度とない。だからこんなに楽しく、愛おしいのだ。

Entame

町田メロメ『三拍子の娘』2 3人の関係性だけでなく、個々の知られざる一面も見えてくる2巻。そして、気になる父の動向は? コミックアプリ「ebookjapan」で連載中。DU BOOKS 1210円 ©町田メロメ/ebookjapan

まちだ・めろめ イラストレーター、漫画家。2020年より連載を始めた本作で第25回文化庁メディア芸術祭マンガ部門審査委員会推薦作品に選出される。

※『anan』2022年8月3日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・兵藤育子

(by anan編集部)