阿部サダヲ「満足したり、達成感を得ることはない」 名作の再再演を前に“芝居”を語る

2022.5.15
26年前に松尾スズキさんが書き下ろし、18年前に再演。演劇ファンの間で名作と語り継がれる『ドライブインカリフォルニア』が再再演を果たす。田舎のドライブインを舞台に、事情を抱えた人々のややこしい思いが錯綜する物語で、阿部サダヲさんは店長のアキオを演じる。

人の業が渦巻く話題の舞台が18年ぶりに再再演。ホームの大人計画で、新境地を切り開く?

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「初演の頃は僕も大人計画に入って3年目くらい。松尾さんの作品のなかでも大人っぽい印象でした。徳井(優)さんや小日向(文世)さんが演じた役をやるような年になったんだなあって思いでいます(笑)」

一人何役も演じ、スピーディに展開していた初期の大人計画。一幕もので、じっくりと俳優の演技を見せる本作は異色だった。テンション炸裂、パンチのある役を多く演じてきた阿部さんにとって、今回の抑制のきいたアキオ役は意外だったそうだ。

「あまりやったことのない役なので、面白そうだなと思います。大人計画を初めて観る人には入りやすいお話だし、ずっと観てきた人にとっては新鮮な感じがするんじゃないかな」

阿部さんは、これまでも『ふくすけ』や『マシーン日記』、最近では『THE BEE』(野田秀樹作・演出)など、高い評価を得た作品の再演で主役を担ってきた。しかも、初演の記憶を塗り替えてしまうほど、自分の役にしてしまうからすごい。

「再演をやるプレッシャーは、昔はありました。他の人に当て書きされた役だし、初演の人がやればいいのに、と思うことも(笑)。でも、『ニンゲン御破算』の再演で、中村勘三郎(初演時勘九郎)さんの役をやることになった頃から、さすがにふっ切れましたね。芝居も人も全く違うし、別ものとしてやっていいんだと思えるようになりました」

近年、映像では『MOTHER マザー』や『死刑にいたる病』など、シリアスな作品で非道な男を演じることも増えてきた。

「どんな役もやりたいと思っています。『ハードな役は辛くなりませんか?』とよく聞かれますけど、全然そんなことない。撮影が終わればすぐ切り替わりますから。殺人犯の気持ちを家にまで持ち帰っていたら迷惑ですよね?(笑)」

年々演技に深みが増しているが、あまり考えてやってはいないという。

「自分が観て面白いと思えないと、お客さんにも面白がってもらえない。楽しまないとダメだなとは思います。でも、満足したり、達成感を得ることはないです。千秋楽でたくさん拍手をもらっても、もっとできる、もっとやりたいと思っちゃいます」

芝居の「正解」を探すのではなく、無限の可能性を追い求めることを楽しんでいる。だから、阿部さんのお芝居は一瞬も目が離せなくなるのだ。

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日本総合悲劇協会 VOL.7『ドライブインカリフォルニア』 竹が名産の田舎町でドライブインを営むアキオ(阿部サダヲ)。東京に出ていた妹のマリエ(麻生久美子)が14年ぶりに息子を連れて帰ってくる。次第にある事情が明らかに…。5月27日(金)~6月26日(日) 下北沢・本多劇場 作・演出/松尾スズキ 出演/阿部サダヲ、麻生久美子、皆川猿時、猫背椿、小松和重、村杉蝉之介、田村たがめ、川上友里、河合優実、東野良平、谷原章介 指定席7800円ほか 大人計画 TEL:03・3327・4312(平日11:00~19:00) 大阪公演あり。https://otonakeikaku.net/2022-drivein/

あべ・さだを 1970年生まれ。’92年より「大人計画」に参加。映画『舞妓Haaaan!!!』で日本アカデミー賞優秀主演男優賞、舞台『THE BEE』にて第29回読売演劇大賞優秀男優賞を受賞。映画『死刑にいたる病』公開中。

※『anan』2022年5月18日号より。写真・小笠原真紀 スタイリスト・チヨ(コラソン) ヘア&メイク・中山知美 インタビュー、文・黒瀬朋子

(by anan編集部)