“カンヌに愛されてきた”河瀬直美、山田孝之に手厳しいひと言…

2017.5.10
デビュー以来、カンヌに愛されてきた河瀬直美監督。今年、最新作『光』がコンペティション部門にノミネート。いままさに発表が待たれる直前のタイミングでのご登場です。

映画作りへの妥協を知らない姿勢、それにともない、現場でのスタッフやキャストに対する要求の高さなどから、河瀬監督はどちらかというと厳しくストイックなイメージがある。しかし、この取材が始まる直前、河瀬監督の最新作『光』で主演を務めた永瀬正敏さんが、隣の部屋でひと足先に取材が終わり、監督の元に挨拶に現れた。小さく言葉を交わし、ハグをして10数秒。そしてポンポンと永瀬さんの背中を2度叩いた。そこに流れていたのは、母性に近い、包み込むような穏やかさ。どうも想像していた河瀬監督像とは、すこーし違っているのかもしれない。

賞にこだわりはないけれど、次回作を撮りやすくなる。

河瀬直美

――監督に、ブレるとか、迷うということはあるんでしょうか。

河瀬:いつもブレてますよ。年をとってきてだいぶ少なくはなりましたけれど、つねに「どうかなぁ」って思いながらやっています。『光』を作る時も、60時間分の素材を1時間40分に編集していますから、とことんまで悩みました。編集に3か月近くかかりましたけれど、日々迷いの連続。答えが見つからなくて、数日間放置していたシーンもありました。世の中からは、決断や判断をすぐに求められたりしますけれど、私はそこで出せない結論は、急いで出さなくていいと思うんです。とくに表現者は。

――撮影現場だと、その場で判断を求められることもありますよね。

河瀬:…私の場合、「今日はわからん。もう帰る」って言ってます(笑)。スタッフがそれを理解してくれているから、急かされることもないですし。そもそも香盤表(撮影スケジュール)自体、余裕を持って作られています。俳優が時間を積んでいなくて、カメラを回せない時もありますし。

――もういいか、とはならない?

河瀬:ならないですね。楽はしたくない。私は集中しているから気づかないんですけれど、1シチュエーションを撮り終わるのに3~4時間経っていた、ということもしょっちゅうあります。それから私の現場では、撮影がいつ始まるかもわからない時があります。

――いつ始まるかわからない…?

河瀬:つまり、いつでも始める態勢でスタッフは準備していますが、俳優の中の時間が整ったところで、私がカメラマンにこうやったら(指を回す仕草)まわり始めます。

――それを聞いて、先頃、テレビ東京で深夜に放送されていた『山田孝之のカンヌ映画祭』を思い出しました。セットのなかに放置され役づくりをしていた山田さんが、役に入った瞬間も、河瀬 監督は同じ仕草をされていました。

河瀬:あの番組は、河瀬組の現場にTVクルーが入り込むという2重構造になっています。

――カンヌで賞を獲りたいから映画を撮るという山田さんに対して、監督が手厳しい言葉を返す場面にヒヤリとしましたが、あれはどこまでリアルだったんですか?

河瀬:「来ますよ」とは聞いていて、こちらも「わかった」と。事前に知っていたのはそれくらいです。

――では台本は一切なく?

河瀬:ないですよ。

――では、今後発表される映画に、あの場面も出てくるわけですか?

河瀬:そうです。でも、山田君にはぜひ私の長編作品にも出演いただきたいと思っています。

河瀬直美

――監督自身はカンヌ映画祭で高い評価を得ていますけれど、賞をもらうことは作品づくりのモチベーションにはなっていますか?

河瀬:もちろん、なっています。そのことで次回作の資金が集まりやすくなるという点も否めません。しかしそこにこだわっているわけではありません。

――ちなみに、監督ご自身はどんな映画をご覧になるのか気になっているんですが…。

河瀬:学生時代は、映画館に頻繁に通うことはありませんでした。それよりもドラマをよく見ました。トレンディドラマ全盛期でしたから、翌日、学校で友達と主人公たちの真似をしたりして。映画を撮り始めてからは、映画祭を中心に作品は観ました。カンヌでは大スクリーンで観る各国の映画の迫力に圧倒されることもあります。息子とは、『ONE PIECE』とか。

――『ONE PIECE』ですか!?

河瀬:息子と話が合わなくなるんで、原作マンガも読んでいます(笑)。海賊が主人公だと聞いて「悪い奴が主役なんてどういうことや。お母ちゃんに読ませなさい」って読み始めたんですが、3巻か4巻くらいからは泣きながら読みました。

――『ONE PIECE』でもいいのですが、他の方が作った映画を観て、こんなにいい作品を作って悔しい、と思うことは?

河瀬:この間、庵野秀明監督の『シン・ゴジラ』を観て、こんなの日本で撮れないだろうと思うようなことをこだわりをもってされていて、すごいなと思いました。

――いま監督として興味があるのはどんなジャンルなんでしょう?

河瀬:いつかホラーかコメディを撮ってみたいと思っています。

――河瀨監督のホラーとコメディ! どちらもとても観てみたいです。もし『新シン・ゴジラ』のオファーが来たら、どうします?

河瀬:楽しそうですね…(笑)。

――では、トレンディドラマは?

河瀬:結構いけると思いますよ(笑)。

かわせ・なおみ 生まれ育った奈良で映画を創り続ける。’97年に劇場映画デビュー作『萌の朱雀』がカンヌ国際映画祭カメラ・ドール(新人監督賞)を、’07年に『殯の森』でグランプリを受賞。映画監督の他、CM演出、エッセイ執筆などジャンルにこだわらず表現活動を行う。公式Twitterは@KawaseNAOMI

第70回カンヌ国際映画祭に出品の河瀬監督最新作『光』は、5月27日全国ロードショー。単調な日々を送っていた美佐子(水崎綾女)は、視覚障害者向けの「映画の音声ガイド」の仕事で、弱視の天才カメラマン・雅哉(永瀬正敏)と出会う。次第に視力を失う雅哉の葛藤を見つめながら、美佐子の何かが変わってゆく。迷える大人におくるラブストーリー。また山田孝之が出演する、河瀬監督のショートフィルム『パラレルワールド』は、6月1日開幕の「SSFF&ASIA2017」で上映。

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※『anan』2017年5月17日号より。写真・野呂知功(TRIVAL) ヘア&メイク・桑本勝彦 インタビュー、文・望月リサ

(by anan編集部)


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