志村 昌美

岡山天音が「仲野太賀くんは“演技のカイブツ”だと思う」と語る理由

2024.1.3
2024年も楽しく笑って過ごしたいところですが、笑いに取り憑かれる生を送ることになってしまったある男の実話が映画化。ラジオ番組や雑誌へのネタ投稿で圧倒的な採用回数を誇り、“伝説のハガキ職人”と呼ばれたツチヤタカユキさんの私小説をもとにした話題作『笑いのカイブツ』がまもなく公開を迎えます。そこで、こちらの方にお話をうかがってきました。

岡山天音さん

【映画、ときどき私】 vol. 628

映画『キングダム』シリーズや『沈黙のパレード』、『ある閉ざされた雪の山荘で』など話題作への出演が続き、実力派俳優として注目を集めている岡山さん。劇中では、5秒に1本ネタを考え続ける生活を送り、笑いにすべてを捧げた不器用なツチヤを見事に演じ切っています。今回は、自身も味わった苦しい過去や“演技のカイブツ”だと思う俳優仲間のこと、そして好きなお笑いなどについて語っていただきました。

―精神的に追い込まれるような大変な役どころだったと思いますが、どのようなお気持ちで現場に挑まれましたか?

岡山さん 前回主演を務めたときからはだいぶ時間がたっていて、その間に経験値も増えていたので、どうしたら面白い作品になるかというのを事前に滝本(憲吾)監督といろいろ相談させていただきました。

脇役のときだったら踏み込まないような領域にまで入ることになりましたが、それが主演としての責任ではないかなと思ったので。普段よりもリーチするべき範囲が広かったぶん、撮影前から監督とは信頼関係が築けたと感じています。

ツチヤとは“同じ星に生まれてしまった人”みたいな感覚

―とはいえ、現場では引き裂かれそうになる日々を経験されたとか。役作りで苦労したのはどのような部分でしたか?

岡山さん ツチヤが強烈な個性を持って生まれてしまった人物ということもあり、どうやっても社会とうまく混ざり合えないので、何をするにしても息苦しい感じはありました。ツチヤはただそこに存在しているだけで、とてつもない異物感みたいなものがありますからね。

でも、僕自身がもともと持っている性質も完璧主義というか極端なところがあるので、ツチヤの行動原理はわりと最初からスッと入ってきたほうかなと。ツチヤのようなことはしないまでも、“同じ星に生まれてしまった人”みたいな感覚はありました(笑)。

―監督も岡山さんのことを「いい意味で変」とおっしゃっているようなので、おふたりに近いものを感じていたのでしょうか…。ご自分でも変わっているなと思うことはありますか?

岡山さん 他人の身体に乗り移れないのでわかりませんが、自分が感じていることをみんなも感じているんだろうなと思っていますし、「自分だけ特別」ってことはないと考えています。でも、なぜか「変だもんね!」とはよく言われますね(笑)。その人のなかでどうしてそういう判断になったのかはどこに着目しているかによっても違うかもしれませんが、そんなふうに強烈な孤独というか誰ともわかち合えない瞬間を味わうことはあります。

「何考えているのかわからない」とか「心を開いてくれないよね」みたいなことも言われることが多いですが、自分としては「けっこう開いているけどな…」と思うことも。なので、「この人も僕のことをそう思っていたんだ」と気付かされる日々です。

10代は芝居にのめりこみすぎて地獄の日々も経験した

―ご自身も若い頃は、オーディションに全然受からない“地獄の時期”があったとか。そういう部分でも、ツチヤには重なるところがあったと思いますが、岡山さんはどのようにしてつらい時期を乗り越えましたか?

岡山さん ツチヤと近い人間である感覚がありながら圧倒的に違うのは、僕はわりと周りに混ざることができますし、自分と異なるものにも美しさや面白さを見い出せます。自分のなかの“正義”がはっきりしているツチヤに比べると、僕はまだ定まっていない部分があったので折り合いをつけられる余白があったのかなと。外側からもらったものが自分のなかに根付いていることもあるので、そういう部分での差はあると感じています。

―とはいえ、笑いに取り憑かれているツチヤのように、演技や役にのめりこみすぎて日常生活に支障が出たことはありませんか?

岡山さん それは、けっこうありますね(笑)。特に10代の頃は、周りが求めているお芝居に到達しなきゃと思うあまり、あがいていた時期があったので、あのときは本当に地獄の日々でしたね…。

先入観で勝手に作り上げてしまったり、「芝居とはこういうものだ」と安易に考えて抽象的なものを追いかけてしまったりしていたので、そのときは生活を後回しにしていました。なので、一緒に暮らしていた家族にはすごく気を遣わせてしまいましたし、当時は支障だらけだったと思います。

いまのマイブームは、人間を“研究”すること

―ということは、いまはそういう経験を踏んで、うまく切り替えられるようになったと。

岡山さん そうですね。仕事とプライベートをわけないと、どんどん自分が貧しくなりますし、そこを面白くしないと日常の延長線上にあるお芝居も枯渇してしまうとわかったので。「生きているからにはいろんなことを味わわないともったいない」と気付いてから、どうしたら価値のある日常にできるのかを考えるようになりました。と言っても、まだ試行錯誤の日々ですが、「お芝居だけ鋭くできればいいんだ」という方向性からは変わってきているのを感じています。

―ちなみに、ツチヤにとってのお笑いくらい、ハマっていることはありますか?

岡山さん 基本的に熱中することが好きなので、読書するとなったら、ずっと本を読み続けたりします。エンタメに関係するものはどれも好きですが、最近は人を見るのが面白いですね。昔だったら、時間があると台本と向き合ってばかりいましたが、いまはいろんな人と会うようになりました。

長く付き合いがある人でも頻繁に会うと知らなかった側面が見えたり、イメージと違ったりすることもあるので、それが見えるのが面白いなと感じています。しかも、相手の反応によって、自分自身の内側や根っこを知ることに繋がりますからね。ここ数年は、そんなふうに人間を“研究”するのが僕のブームです。

自分の好きなことの“奴隷”になっている人が好き

―そのなかで、「この人は“演技のカイブツ”だな」と思った方がいたら教えてください。

岡山さん それは、本作でも共演した仲野太賀くんですね。初めてご一緒したのは10代半ばくらいですけど、テストや段取りのときだけでなく、セッティング中もどういうふうに集中力を高めて本番にピークの瞬間を持っていくか、というのをすごく丁寧にされています。

僕は年齢を重ねるとともに、お芝居との向き合い方も現場での立ち振る舞いも変わってきた部分がありますが、太賀くんは青い炎が静かに揺らいで燃えているようなたたずまいが子どものときから変わっていない。単純に同じ質量のモチベーションをずっと保てていることがすごいですよね。それだけお芝居や周りに対して愛があるということでもありますが、僕の抱く人間像では測れない領域まで来ているので、そこに彼のカイブツじみたものを感じています。

―なるほど。また、岡山さんは「ユーモアを持って日々を過ごすことを大事にしている」とお話されているようですが、ご自身の“笑いのツボ”は何ですか?

岡山さん これはお笑いに限らずですが、自分の好きなことの“奴隷”みたいになっている人が好きですね(笑)。表現が強く聞こえるかもしれませんが、周りがついていけない速度が出ていたとしても自分の本能のままに振り切って突き進んでいる人をみると爆笑してしまいます。

その人のなかにしかない文脈で意味がわからなくても、もはやわからなさすぎて面白い。そういう人のお笑いを見ると純度100%という感じがして、自分も笑ってしまうことが多いです。

いい悪いだけで判断せずに、その瞬間を楽しんでほしい

―お気に入りの芸人さんはいらっしゃいますか?

岡山さん ずっと好きなのは、永野さん。バラエティ番組などに出られていると、みんなが永野さんの脳みそにお邪魔しているような状態になるので、そういう瞬間は至福のときですね。あと、若手芸人の小松海佑さんという方も、すごい角度のある企画をYouTubeとかでされているので見ています。その人だけの世界に連れて行ってくれるような芸人の方がすごく好きです。

―それでは最後に、今年で30歳を迎える岡山さんから同世代のananweb読者に向けてメッセージをお願いします。

岡山さん 僕もいろんなことがよくわからないなと思うことが多いですね。日によって仕事も恋愛も肯定的に見つめられたり、そうじゃないときもあったりしますから。ただ、その瞬間に抱いている好きとか嫌いとか、ポジティブとかネガティブとかは、外側の常識から来るものだったりするので、それはあまり気にしなくていいと思っています。

本来、感情の色味みたいなものはたくさん種類があるので、その瞬間ごとにしかない色合いを味わって楽しんでいけばいいのではないかなと。いい悪いだけで判断して終わらせてしまうのではなく、角度を変えたら面白い部分も見えてくるので、僕自身もみなさんと一緒に楽しんでいきたいです。

インタビューを終えてみて…。

穏やかな空気感をまといつつ、ときおり覗かせる鋭い視点と独特なワードセンスで楽しませてくださった岡山さん。監督が褒め言葉として「いい意味で変」とおっしゃっていたのも腑に落ちるほど、岡山さんワールドに引き込まれるような感覚がありました。本作では、演技のカイブツぶり全開の熱演を見せる岡山さんをぜひ堪能してください。

魂を揺さぶり、笑いよりも涙が込み上げる!

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ヒリヒリするほどまっすぐな思いに突き動かされ、ほとばしる熱量に圧倒される本作。傷ついても、痛みを伴っても、好きなことに立ち向かっていくからこそ味わえる人生の面白さを体感させてくれる必見作です。新たな年を迎えたいまこそ、自分のなかに眠る“カイブツ”も目覚めさせてみては?


写真・園山友基(岡山天音) 取材、文・志村昌美
ヘアメイク・森下奈央子 スタイリスト・岡村春輝
トップス¥15,400(キート)、パンツ¥33,000(ウィザード/ともにティーニー ランチ 03-6812-9341)、その他(スタイリスト私物)

ストーリー

何をするにも不器用で、人間関係も不得意な16歳のツチヤタカユキ。唯一の生きがいは、大阪で暮らしながらテレビの大喜利番組にネタを投稿し、「レジェンド」になることだった。狂ったように毎日ネタを考え続けて6年、お笑い劇場で才能が認められ、念願叶って作家見習いとなる。

しかし、笑いだけを追求し、常識から逸脱した行動をとり続けるツチヤは周囲から理解されず、志半ばで劇場を去ることに。自暴自棄になりながらも笑いを諦められないツチヤは、ラジオ番組にネタを投稿する“ハガキ職人”として再起をかける。次第に注目を集めると尊敬する芸人・西寺から声が掛かり、構成作家を目指して上京を決意するのだが…

釘付けになる予告編はこちら!

作品情報

『笑いのカイブツ』
1月5日(金)テアトル新宿ほか全国ロードショー
配給:ショウゲート、アニモプロデュース
https://sundae-films.com/warai-kaibutsu/
(C)2023「笑いのカイブツ」製作委員会