志村 昌美

「宇宙人に連絡したら家に派遣できる」中国の注目監督が驚いたUFO愛好家たちとの出会い

2023.10.12
いつの時代も終わりのない熱い議論が交わされているテーマのひとつといえば、宇宙人にまつわる論争。そこで今回オススメするのは、宇宙人の存在を信じ続ける主人公が次々とハプニングを巻き起こす一風変わったロードムービーです。

『宇宙探索編集部』

【映画、ときどき私】 vol. 604

かつてはメディアにもてはやされ、高い人気を誇っていたUFO雑誌「宇宙探索」。活気のあった編集部も部員が減って廃刊寸前となり、電気代さえ払えないほどの危機的状況に陥っていた。

そんななか、編集長のタンが掴んだのは、中国西部の村に宇宙人が現れたという情報。そこで、仲間たちを引き連れて西へと向かうことにするのだが、彼らを待ち受けていたのは、予想と人智をはるかに超えた出来事の数々だった。果たして、タンたちは念願の宇宙人に出会えるのか?

中国No.1の映画専門大学である北京電影学院の卒業制作でありながら、さまざまな映画祭で反響を巻き起こした本作。2023年4月に中国で公開されると、約150万人もの観客を動員するほどの評判となります。そこで、作品の見どころをこちらの方にうかがってきました。

コン・ダーシャン監督

初の長編監督作となる本作で国内の映画賞をいくつも受賞し、現在の中国でもっとも期待と注目を集める若手監督の一人となったコン監督。今回は、作品完成までの道のりやUFO愛好家たちから聞いた驚きのエピソード、そして日本で一緒に仕事をしてみたい人などについて語っていただきました。

―大学の卒業制作が大ヒットし、そこから著名な方々のサポートを受けて大手映画会社で配給が決定、という流れは中国映画界でも異例のことだったのでしょうか。

監督 若い監督にとってデビュー作を撮るというのは、チャンスがないとなかなか難しい状況であるのは確かですが、基本的には2つの方法があります。まず1つ目は、自分で撮ったショートムービーをネット上に公開して、気に入ってくれた映画関係者から声をかけてもらうというもの。これは非常に多いケースです。

2つ目は、自分の脚本を持って国内のいろんな映画祭に参加すること。若手を応援するためのプログラムがだいたいあるので、コンペに応募して出資者を見つけるというのが主流です。映画を撮るのは決して容易なことではないので、僕も映画化できたこと、そして結果もよかったことはうれしく思っています。

―監督はもともとSFやUFOに興味があったわけではなかったようですが、初長編作品を撮るうえで、ご自身の得意分野ではないところで勝負することへの不安はありませんでしたか?

監督 内容的なことよりも、初めての作品ということで、経験がないからこその緊張や不安はありました。実際、心の準備ができていなくて、「大きな問題が起きたらどうしよう」と慌てたこともあったくらいです。でも、結局はやるしかないので、まずは1歩1歩進んでいこうという気持ちで取り組みました。

UFOの愛好家の大会に参加して、面白い人たちと出会った

―本作は、ある村人が宇宙人を捕まえたというニュースを見て興味を持ったことがきっかけだったそうですが、すぐに「これは映画にできそうだ」と思ったのでしょうか。

監督 大学で映画監督になるための勉強をしていると、必ず通る1つの過程として、「フェイクドキュメンタリーを撮らなければいけない」というのがあります。これは映画制作を学ぶうえで、非常に重要なことだと言われているのですが、このニュースを見たときに「これをフェイクドキュメンタリーにしたら面白くなるんじゃないか」とすぐに感じたんです。報道として取り上げられているのに、この村人が語っていることは突拍子もない話で、そのギャップが興味深いなと思いました。

―実際にご自身でリサーチを始めるようになってから、驚くようなエピソードに出会ったこともあったのでは?

監督 そうですね。たとえば、UFOの愛好家たちの大会に参加した際には、「宇宙人と会ったことがある」と多くの人が言いますし、なかには「定期的に宇宙人とコンタクトを取っています」と話す人もいました(笑)。本当にいろんな人がいて面白かったので、そこで知り合った愛好家や隕石ハンターの人には、映画にも出てもらったくらいです。

そのなかでも特に印象深かったのは、ある50代の女性。「大師」と呼ばれる彼女は愛好家のなかでは非常に有名な人ですが、「私は宇宙人と連絡が取れるので、もし何かの病気を患っているようなら、あなたの家に宇宙人を派遣して病気を治せますよ」と堂々と言うんですよ。彼女の得意分野は子どもの自閉症ということもあって、会場には子どもを連れた母親がたくさん来ていました。

考え方が違うだけで普通の人たちだと気が付いた

―それは気になりますね。実際に、体験した方もいたのでしょうか。

監督 「あなたのおかげでうちの子の自閉症が治りました」と言っている人がたくさんいたので、それにはびっくりしましたね。ただ、相談をしに来た人のなかには、「子どもの年齢が行き過ぎているからできない。この治療を受けるのに必要なタイミングを逃してしまっている」と断られている人もいました。

最初にこの大会に参加したときは、正直に言うと「みんな頭がおかしいんじゃないのかな?」と思っていたんです。でも、いろんな人を見ているうちに、考え方が違うだけでみんな普通の人たちだなと思うようになりました。というのも、「苦しみから脱出したい」というのは人間誰にでも共通する悩みですからね。そういう意味で、彼らを理解できるようになりました。

―なるほど。主人公のタンは、そういった方々から着想を得て作り上げていったのですか?

監督 特定のモデルみたいな人はいませんが、UFO愛好家の方々が持ついろんな特性をミックスして、タンの人物像に投影しました。中国では宇宙の科学に関わっている人たちは、知識人のような印象が強いので、ハイクラスな文化人として扱われることもあるくらい。そういったことから、外見は中国でも有名な作家の服装や眼鏡、髪型を参考にして構築していきました。あとは、アメリカのアニメ「リック・アンド・モーティ」の主人公である天才科学者のリックからも着想を一部得ています。

ただ、欧米だとこういう人は映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に出てくる博士のようなイメージで語られているところもあるようなので、そういうところは大きく違うところかもしれませんね。特に、アメリカではUFOに対しては時空を行ったり来たりするものとして考えられているところがありますが、中国は何千年もある歴史においてそのような文化的土壌がないので、そういう部分で明らかな違いを感じています。

岩井俊二作品で初めてフェイクドキュメンタリーを知った

―ちなみに、監督自身はUFOや宇宙人の存在は信じているほうですか?

監督 そうですね。僕は昔から宇宙人の存在は信じています。なぜなら、人類以外の生命が宇宙のどこかには存在しているだろうと感じているからです。ただ、見た目に関しては、よく言われている頭や目が大きいタイプの宇宙人ではないと考えています。

―撮影中のことについてもおうかがいしますが、山での撮影はかなり大変だったのではないかなと。

監督 ハプニングはいっぱいありましたよ。ロケ地を見学に行ったときには、危険な場所が多くて交通事故に遭ってしまったこともありましたから…。とにかくいろいろありすぎて、この映画のメイキングは本編よりも面白いんじゃないかと思っているほどです(笑)。

―監督は、岩井俊二監督や中島哲也監督、宮藤官九郎監督、安藤桃子監督など日本の映画監督からも影響を受けていらっしゃるそうですが、この映画を作る過程で観た作品などもありましたか?

監督 何かの参考にしたり、アイデアを取り入れたりするために観たものはありませんでしたが、撮影のときにたまたま観たフェイクドキュメンタリーに関する日本の作品は、『カメラを止めるな!』と「山田孝之のカンヌ映画祭」です。

そもそも僕がフェイクドキュメンタリーというコンセプトに出会ったのは、岩井俊二監督の『リリイ・シュシュのすべて』を観たとき。まだ高校生くらいだったと思いますが、この作品ではフェイクドキュメンタリーの映像を使用している箇所があり、そこで初めてこういう表現があることを知りました。

この作品で3次元の世界を味わってほしい

―それもあって、いつかお仕事してみたい日本の俳優に蒼井優さんのお名前を挙げているんですね。もし、蒼井さんとご一緒できるとしたら、どんなストーリーにしたいですか? ほかにもキャスティングしてみたい日本の俳優がいたら教えてください。

監督 どういう役かはまだわかりませんが、蒼井さんはもちろん主役です(笑)。あと、浅野忠信さんともご一緒できたらいいですね。

―ぜひ楽しみにしています。それでは最後に、ananweb読者に向けてメッセージをお願いします。

監督 中国ではこの映画のことを“電波映画”と呼んでいて、テレパシーのようにお互いの考えていることが繋がる作品と言われています。なので、ぜひそういった3次元の世界を味わっていただけたらいいなと。あとは、スン・イートンという名前のキャラクターを演じている俳優のワン・イートンが「中国の染谷将太」とも呼ばれているので、そのあたりにも注目してください。

爆笑と感動が渦巻く異色作!

誰に何を言われても自分たちが信じる宇宙人を目指して突き進む宇宙探索編集部の姿に、笑いが込み上げつつも、いつの間にか胸が熱くなっているのを感じるはず。まったく先の展開が読めない奇想天外な旅に、あなたも一緒に出てみては?


取材、文・志村昌美

気になる要素満載の予告編はこちら!

作品情報

『宇宙探索編集部』
10月13日(金)より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
配給:ムヴィオラ
https://moviola.jp/uchutansaku/
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