監督業で新境地の渡辺大知「藤原季節くんには思いのたけを伝えました」
渡辺大知さん
【映画、ときどき私】 vol. 482
映画やドラマで、唯一無二の存在感を放っているミュージシャンで俳優の渡辺さん。今回は、個性豊かな9作品が並ぶなか、すれ違う男女を描いた『Good News,』で監督・脚本・編集を務めています。そこで、本作を通して感じた映画への思いや自身の変化との向き合い方などについて、語っていただきました。
―このプロジェクトには、Season1で役者として出演されていましたが、監督としてオファーがあったときは、どのようなお気持ちでしたか?
渡辺さん 僕はもともと映画が好きだったので、大学でも映画作りを勉強しましたが、映画をもっと多角的に考えたいとずっと思っていました。役者のお仕事も映画を知るための活動のひとつでもあったので、こうして作り手の企画に呼んでいただけたのはうれしかったです。ありがたい企画に参加させていただけて、ワクワクしました。
人をだます嘘と演技は何が違うのか考えていた
―『Good News,』のストーリーは、どのようにして作り上げていったのでしょうか。
渡辺さん 以前から、「嘘」をテーマにした作品を作りたいと思っていました。というのも、演技をすることも、好きな人の前で自分をよく見せるのも、嘘のようで嘘じゃない。人をだます嘘と演技とは何が違うんだろうかと考えるようになっていたからです。そんなときにこのお話をいただいたので、詐欺師の男と女優を諦めた女性という2人が小さな嘘をつき合ってみたらおもしろいんじゃないかなと。
ただ、その過程でコロナ禍になってしまい、いま撮る意味のあるものにしたいと思うようになりました。給付金詐欺が増えているとか、悲しい話を多く聞いていたなかで知ったのは、警官に成りすました男にだまされた振りをしたおばあちゃんが警察に犯人を捕まえさせたというニュース。設定は変えていますが、この話はそこから膨らませていきました。
―劇中に登場するカップルは、藤原季節さんと夏子さんがはまり役で演じていらっしゃいましたが、キャスティングへのこだわりについても教えてください。
渡辺さん 今回は、僕が仕事をしたいと思っていた大好きな役者さんたちに出ていただけたので、本当にうれしかったです。夏子ちゃんは初めてお会いしましたが、季節くんとはだいぶ前に1度だけ飲んだことがあったので、オファーをOKしてもらってから、同じ店で落ち合うことに。そのときにどういう映画にしたいのか、思いのたけを伝えました。
人とモノを作る喜びを改めて感じることができた
―藤原さんはどのような反応でしたか?
渡辺さん 今回は極端に説明ゼリフの少ない脚本にしていたので、季節くんからは最初に「難しいですね」とは言われました。でも、僕としては必要な情報は変にセリフで説明するのではなく、映像で入れることで、そこに流れている空気をイキイキさせたかったというか。セリフもこの2人の関係性を濃くするために使ってほしかったので、あえて観客に伝えようとしなくても大丈夫だということは伝えさせてもらいました。
―本作では監督としての現場を経験することで、新たに学んだことも多かったと思いますが、振り返ってみていかがですか?
渡辺さん 役者の仕事だと、現場が出来上がってからの参加というか、与えてもらった場でどう表現するかみたいなところがありますが、今回は全部イチからの作業。脚本に始まり、ロケハンや美術の打ち合わせなど、スタッフさんとは何度もコミュニケーションを重ねていきました。
過去に自主映画を撮ったことはありましたが、今回のようにさまざまな現場を経験されている方からいろいろなアイディアを教えてもらったり、ひとりでロケハンしたり、というのは自分にとってすごく新鮮でした。たくさんの可能性があるなかで何をどうやって選んでいくのか、といったことは勉強になりましたし、人とモノを作る喜びを改めて教えてもらったと感じています。
無理に自分を変えずに、波に漂っていたい
―この企画では、「変化」がテーマとして掲げられていますが、最近ご自身で変化を感じた瞬間といえば?
渡辺さん そもそも時間が流れているということは変化を伴うものであり、変化は生きることでもあるので、そういう意味ではつねに変化しているのかなと。生きることを見つめることが変化を感じ取るうえでは大切だと思っています。
映画にも始まりと終わりで変化があるように、どんなものを撮っても変化というものが映り込んでしまうので、そこに自分なりの生き方みたいなものを閉じ込められたらいいなとも考えているところです。
―なるほど。ちなみに、今後何か変化させていきたいことはありますか?
渡辺さん 自分で何かを変えていきたいというよりも、後悔や失敗は日々あるものなので、次はそうならないようにしたいなと思うことはあります。でも、同じことを繰り返しちゃうので、そこを変えなきゃみたいな気持ちにはなりますが、結局あまり変えられなかったりするんですよね(笑)。とはいえ、無理に自分を変えていくよりは、波に漂っていたいなという感じです。
大事なのは、つねに希望を絶やさないこと
―渡辺さんと言えば、ミュージシャン、俳優、監督といくつもの顔を持っていますが、今後特に力を入れたいと考えているものはありますか?
渡辺さん 人とモノを作る作業が自分に向いていると気づかせてくれたのは音楽でしたが、いまはバンドが活動休止中なので、イチからみんなで作り上げていく喜びを味わえたのが今回の監督としての活動。そのうえで、やっぱり自分にはこういう感覚が必要なんだなと感じました。
以前は音楽と役者業の2つをやっている状態が心地よかったですが、いまはバンドの代わりに新しいバランスの取り方みたいなものを模索していけたらと。環境はつねに変わっていくものですが、1日1日バランスを取りながらやりたいことと向き合い、より良い表現へと向かっていけたらいいなという思いです。
―では、ご自分のなかで最近一番の“Good News”を教えてください。
渡辺さん うーん、あまりGood Newsはないですね(笑)。でも、やっぱり今回の企画で監督ができたことは、自分にとってすごくいいことだったと感じています。次につながる実感がありましたし、僕は自分が好きな世界の良さを伝えられる役目になりたいとも考えているので、そういった活動を進めるうえでも大きな意味のあることでした。
映画はGood Newsがやってくるという話とは違いますが、いいことがないときこそ大事なのは希望を絶やさないこと。たとえ悪いことがあったとしても、いいことを望みながら自分でどう切り開いていけるかを考えることで、良くないことも打ち消せるんだと思います。
映画について考えるきっかけとなってほしい
―最後に、ananweb読者へメッセージをお願いします。
渡辺さん 『MIRRORLIAR FILMS』では、誰でも映画が撮れるというコンセプトのもとでやっています。ただ、映画は研究してもしつくせないほど難しいものなので、正直に言うと、誰にでも撮れるとは思っていません。
でも、映画を撮ってみたいと思う人なら誰でも挑戦できる時代にはなっているので、今回のような企画に触れることで、「自分にもできるかもしれない」とか、「もっと映画を知りたい」と感じてもらえたらいいなと。みなさんにとって、そういうきっかけとなったら最高だなと思っています。
インタビューを終えてみて……。
ひと言ひと言をとても丁寧に話される姿からも、映画に対する真摯な思いが伝わってくる渡辺さん。今回、新たな挑戦をしたことで、次への手ごたえを感じているようにも見えました。役者としてはもちろん、監督としても今後がますます楽しみです。
境界線を超えて放たれる才能を感じる!
9人の監督たちが自分なりの表現と向き合い、オリジナリティを追求して完成させた珠玉のオムニバス映画。豪華キャストたちによる熱演とともに、作品ごとに見られるそれぞれの“変化”も堪能してみては?
写真・北尾渉(渡辺大知) 取材、文・志村昌美
ストーリー
同棲しているコータローとミユキの2人。最近様子がおかしいコータローに対し、ミユキは浮気を疑っていた。ところが、コータローはミユキとの将来を考え、先輩に誘われてある詐欺に加担しようとしていたのだった……。
引き込まれる予告編はこちら!
作品情報
『MIRRORLIAR FILMS Season3』
大ヒット上映中
配給:イオンエンターテイメント/ティ・ジョイ
https://films.mirrorliar.com/
️©2021 MIRRORLIAR FILMS PROJECT