羽田圭介の最新作はまさかのゾンビ・サバイバル小説!

2017.1.6
芥川賞作家の羽田圭介さんが最新作を上梓。
羽田圭介
はだ・けいすけ 作家。1985年生まれ。2003年『黒冷水』で文藝賞を受賞してデビュー。’15年『スクラップ・アンド・ビルド』で芥川賞を受賞。

今注目の作家が放つのはゾンビ×純文学×エンタメ大作です。

一昨年『スクラップ・アンド・ビルド』で芥川賞を受賞して以降、さまざまなメディアでも引っ張りだこの羽田圭介さん。そろそろ新作が読みたくなるこのタイミングで、実に750枚の大作を上梓。しかもこの『コンテクスト・オブ・ザ・デッド』、ゾンビ・サバイバル小説だ。

「書きはじめたのは3年半ほど前です。当時は純文学の新刊を出しても出しても話題にもならなくて、じゃあエンタメ性のある作品を書いてみることにしたんです」

その時考えたのが、以前から趣味で観ていたゾンビ映画が、純文学と親和性が高い、ということ。

「高校生でデビューしてから自分なりに純文学を勉強して洗練させていくほど、普段小説を読まない人には手に取ってもらえなくなっていく。ゾンビ映画も数が増えてお約束事が増えていくほど、それほど興味がない人は観てもらえなくなっていく」

羽田圭介
『コンテクスト・オブ・ザ・デッド』ある日、渋谷のスクランブル交差点にゾンビが現れたのを皮切りに、各地にゾンビが出現。人々の生き残りをかけた死闘をスリリングに描く芥川賞受賞後第一作。講談社 1600円

渋谷の街にゾンビが出現。噛まれた人間がゾンビ化していくため彼らは増殖し、人間たちはパニック状態に。その騒ぎに巻き込まれる作家や編集者、公務員や女子高生ら6人のサバイバル劇が幕を開ける。

「前半ではリアルな出版界の暴露話や僕自身が感じている愚痴を出して、業界を覗き見ている感覚で面白がれるようにしました。後半にいくにつれてフィクションの濃度を上げて、盛り上げていくようにしました」

逃げても逃げても行く先々でゾンビに遭遇する者もいれば、噛まれた家族を匿う者も。そして噛まれたにもかかわらず、変化しない者も登場。

「どういう人がゾンビになり、どういう人がならないか、途中から少しずつ理由が分かるようにしました」

その“理由”に絡んでくるのがタイトルにもある“コンテクスト”だ。

「文脈という意味ですよね。多くが日本語話者で構成されている日本では、阿吽の呼吸で文脈が通じてしまう。結束を高める分にはそれでもいいけれど、排他的になってしまう危険性もある。そのことに無自覚でいるのはまずいと思うんです。自分も純文学という普通の人たちからはとっつきにくい世界でやっていますけれど、自覚的でありたい」

強烈な批判性を含んだエンタメ純文学。刺激たっぷりです。

はだ・けいすけ 作家。1985年生まれ。2003年『黒冷水』で文藝賞を受賞してデビュー。’15年『スクラップ・アンド・ビルド』で芥川賞を受賞。

『コンテクスト・オブ・ザ・デッド』ある日、渋谷のスクランブル交差点にゾンビが現れたのを皮切りに、各地にゾンビが出現。人々の生き残りをかけた死闘をスリリングに描く芥川賞受賞後第一作。講談社 1600円

※『anan』2017年1月11日号より。写真・土佐麻理子(羽田さん) 森山祐子(本)インタビュー、文・瀧井朝世

(by anan編集部)