考察合戦も白熱! 初の女性主人公で話題『機動戦士ガンダム 水星の魔女』の魅力とは!?

2023.4.14
『機動戦士ガンダム 水星の魔女』(以下、『水星』)は、TVシリーズ初の女性主人公、しかも学園ものという今までにない試みだ。第1話では女性同士の婚約が話題となり、その後も毎週放送の度にSNSで考察合戦が繰り広げられるほどの“祭り”っぷり。その見どころを『水星』にどっぷりハマったアニメ文化ジャーナリストの渡辺由美子さんと、ライターの青柳美帆子さんが語ります。

女同士の絆を本気で描く、長寿シリーズの挑戦作。
『機動戦士ガンダム 水星の魔女』

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青柳美帆子:実は、今までガンダムの関連作品はほとんど観てこなかったんです。『水星』は、Twitterの盛り上がりが気になり観始めました。10代に人気なのかな? と思っていたんですが、作中描かれる親子の確執や社会問題は、20~30代以降にこそ深く刺さっているんじゃないかと。

渡辺由美子:私は『機動戦士ガンダム』から観ていたけど、女性視点で印象深かったのは『機動戦士ガンダムSEED』。あれから20年、ガンダムに初めて女性主人公が登場したのは感慨深い……。本作は、主人公が学園に編入してくる少女マンガ的な導入がうまい。何もわからないスレッタに手を差し伸べる陰のある美少年エラン、憎めないオレ様キャラのグエル、飄々とした色男のシャディクなど、スレッタとミオリネを中心としたハーレム的構図など、少女マンガ的なお約束がちりばめられています。スレッタがたぬき顔のドジっ子で、完璧美少女じゃないのもいい。

青柳:ハーレム状態で、スレッタ自身が好感度のある女性キャラなので、気持ちを乗せやすいと思いました。最近の少女マンガはクセが強めな女性が主人公に据えられることが多く、むしろミオリネの方が主人公としてメジャーな雰囲気。でも、あえてみんながイメージする少女マンガ的な主人公を据えることで、多くの人が理解し、物語に入りやすくなったのかも。

渡辺:アニメの歴史を遡ると、男性ファン主体の作品では「こんな女いないだろ」とツッコむことも多かったんです(笑)。近年はアニメの現場に物語の源流に携わる女性スタッフが増えたこともあり、女性キャラの描写が洗練されました。『水星』でもスレッタの母やその元同僚など、見た目的にも年相応で、キャリアを持った中年女性が描かれているのも新しい。

青柳:男性中心だったアニメ業界の変化を感じますよね。物語が違和感なく受け入れられるのに一役買っている気がします。

渡辺:スレッタの花嫁ミオリネは、企業グループ総裁の一人娘ですが、自分のすべてを決めてしまう父に疑問を感じ、自立し運命を切り開いていこうとします。彼女も現代的なヒロイン像なので、感情移入しやすい。スレッタが追試を手伝ってくれる仲間がいなくて困っているのをミオリネが助けたり、スレッタも不器用なりにミオリネを元気づけようとしたりして、観ていると、尊い気持ちに。

青柳:時には協力関係、またある時はライバル関係と、女性アイドル好きも『水星』は刺さるかも? 物語の序盤では、エランとスレッタ、グエルとスレッタといった男女間の描写が先行気味で、二人は女性同士の婚約者という設定ですが、恋人同士としては描かれていない。私は二人にこの先、恋愛関係になってほしいけど……!

渡辺:私は物語のラストまでは恋愛関係にならなくてもいい派。今のバディ感が好きだから。『水星』はキャラクターの関係性以外にも、「ベネリットグループ」内の企業間の腹の探り合いがあったり、ミオリネがスレッタの危機を救うために学生起業家となって会社を立ち上げたりと、企業ドラマの要素があるのも斬新ですよね。

青柳:長年ガンダムを観ている友達もそこに驚いていました。イデオロギーの衝突を描く上で、宇宙規模の争いよりも、企業同士の競争や社内政治のあれこれの方がリアルに感じられる人は多いのでは。

渡辺:そういう意味でも、大人でも『水星』を楽しめるはず。

青柳:ガンダムでは、父と息子の確執は何度も描かれていると聞きますが、母と娘というのは初めてでは? スレッタと母プロスペラは仲良し母娘と思いきや、実は母が娘を縛っていたのでは、ということが明らかになりました。

渡辺:プロスペラがスレッタに何度もかける「逃げたら一つ、進めば二つ」という言葉は、当初ポジティブに描かれていたのに、実は娘の退路を断ちコントロールする呪いの言葉でもあった、という展開も今どきの家族描写っぽい。

青柳:親子の呪縛を解き放つのは往々にして他人。ミオリネがその他人の立場で、きっとスレッタを解放してくれると思いたいので、Season2の展開に期待です。

渡辺:ガンダムといえばモビルスーツですが、スレッタの乗るエアリアルのようなかわいい顔は新鮮だな、と思いました。

青柳:清潔感がありますよね。

渡辺:その視点は初かも(笑)。

青柳:スレッタの騎士的な存在なのもいい! 私みたいにガンダムをあまり観てこなかった人には、モビルスーツの戦闘シーンは敬遠されがちかもしれません。でも、まずは「かっこよく動いているな」くらいの感覚で観ても、ストーリーを追う上で問題ないと思う。

渡辺:戦いのシーンは、戦国武将同士の戦いだと思って観るといいですよ。私は刀を交えた接近戦が真剣で重要な場面なんだな、と想像しながら観ています(笑)。

青柳:過去のガンダムを知らなくても楽しめるし、Season1を何話か観て、気になるキャラがいたら続きを観てほしい! だいたいのキャラがひどい目に遭うので(笑)、続きが気になるはず。これを言うのは悔しいんですが、私もスレッタに優しかったエランの顔が良すぎてハマりましたし……。

渡辺:『水星』は公式がSNSや動画配信に力を入れているので、そこから入ってもいいかも。ガンダムは主義主張が違う相手とわかり合えるか? という葛藤を描き続けてきたので、Season2ではどう描かれるかも楽しみ。

青柳:うまくまとめるのは骨が折れそうですが、Season1を観る限り制作陣の気合がかなり入った作品なので、「そうきたか」という展開を見せてくれるはず。

渡辺:どの登場人物にも信念があって、敵役にも相手なりの意味があるので、そこはきっちり描いてくるはず。SNSでの実況がここまで白熱するアニメはなかなかないですし、また盛り上がっていきましょう!

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父の支配から逃れるべく地球へ逃げようとしていたミオリネ(左)を、遭難者と間違い救出してしまったスレッタ(右)。出会いは最悪だったが、二人の間には少しずつ信頼関係が。

『機動戦士ガンダム 水星の魔女』

STORY
1979年放送開始の『機動戦士ガンダム』シリーズは、モビルスーツという兵器ロボットによる宇宙戦争や人間ドラマを描く長寿シリーズ。本作は、水星から来た少女スレッタの、巨大企業が運営する学園への編入で幕を開ける。学内ではモビルスーツによる“決闘”が行われ、生徒は様々なものを懸け戦っていた。スレッタは学園理事長でベネリットグループ総裁の一人娘ミオリネと出会い、グループ内「御三家」の御曹司グエルと成り行きで決闘することに。自らのモビルスーツ・エアリアルで勝利したスレッタは決闘勝者の中で最も優秀とされる「ホルダー」の称号を獲得。ミオリネは17歳の誕生日時点でのホルダーとの結婚を父に決められており、スレッタがミオリネの花婿候補に……!

Check it!
Season1で名目としての花婿、花嫁としての関係にとどまらず、共に困難に立ち向かい絆を育んできたスレッタとミオリネ。Season1の最終話では衝撃的な展開を迎え、二人の関係性はどう変化していくのか? MBS/TBS系全国28局ネットにて毎週日曜17:00~放送中。バンダイチャンネル、ガンダムファンクラブ、Netflix、Amazon Prime Video、U‐NEXTなどで配信も。Season1は、BS11で毎週金曜19:00~、MBS/TBS系列で毎週金曜26:25~にて放映中。各種配信も。

渡辺由美子さん アニメ文化ジャーナリスト。アニメ、ビジネス、ファンコミュニティなど、各ジャンルを横断する記事を執筆。’90年代からアニメ業界とファンを追い続けている。ツイッターは@watanabe_yumiko

青柳美帆子さん ライター。女性向けカルチャーを得意領域とし、書籍、雑誌、Webなどで幅広く執筆。月1回、ありまよさんと雑談ツイキャス「給料日ラジオ」を配信。ツイッターは@ao8l22

※『anan』2023年4月19日号より。取材、文・𠮷川明子

(by anan編集部)