女子高生×宇宙人の王子!? 不思議な出会いが生きる連鎖を生むコミック

2022.10.24
父親の遺骨を抱えて海辺の自宅に戻ってきた、女子高校生の波間帳(はま・とばり)。母はすでに亡い。死の誘惑に誘われるように波際までやって来たとき、帳は発光する青年を見つける。放ってもおけずに連れ帰った翌朝、青年がした自己紹介は、ヨルという名の宇宙人で、とある星の〈王子〉らしい…。そんな不思議な出会いから幕を開ける有海とよこさんの『波間の子どもたち』。物語の余韻にいつまでも浸っていたくなるコミックだ。

かぐや姫を発光王子に、換骨奪胎。ボーイ・ミーツ・ガールストーリー。

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「夜の海で女子高校生が落ちている男の人を拾うという発想の出発点は『かぐや姫』。発光する人物というアイデアもそこから採りました(笑)。最初はもっと、帳とヨルとがストレートにモノを言い合うような関係性を考えていたんです。けれど、落ち込んでいるときにあれこれアドバイスされても、自分で納得できなければ立ち直ることもできない。私自身のそういう想いもあって、ヨルには、帳自身が自分と向き合えるように導く神様的な存在として、見守る関わり方をしてもらおうと」

読者の心を浮き立たせるヨルの無防備な笑顔と、ケセラセラな優しさ。彼に感化され、生と死の境界で揺れていた帳もいつしか変わっていく。

「帳は内に抱え込んで自問自答するタイプです。極力セリフを削り、できるだけ絵だけで感情や情動を伝えていけたら…というのは、私自身の課題でもありました」

その表出に大きく関わっているのが、海や波の表現だ。

「最初からずっと、陸と波とが生と死のモチーフだったので、帳がその境界をどんな気持ちで行ったり来たりするのかを表さなくては、と思っていました。海や波は一瞬たりとも同じ模様を描かないわけで、描き分けは大変だったんですが、他のマンガ家さんは海の風景をどんなふうに描くのかなとマンガをたくさん読んで研究したり。面白い挑戦でした」

病弱で生きることに臆病だった帳の幼なじみ・錦(にしき)や、コンプレックスの強かったクラスメイトの宝(たから)らも、帳の変化によって化学変化を起こし、前を向くきっかけを掴む。その連鎖がまた美しい。

「人間誰しも、何か持って生まれてくるより、何も持たないで生まれてくる方がずっと多い。その上で人はどうやって変わっていけるのかを描きたいと思っているんです。そのときに大事なのが、出会いなのかなと」

有海さん自身、吉本ばななさんや入江亜季さんの作品などに影響され、励まされてきたという。

「12月からは、音楽を題材にした連載が始まります。つらいときも、読んだら少し元気になれるような作品を描いていきたいですね」

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『波間の子どもたち』 足が速く、走ることに少しずつ傾倒していく帳。地に足を着けて生きるという彼女の決意とうまく重なっており、キャラクター造形の奥深さも圧巻。全1巻 KADOKAWA 792円 ©有海とよこ/KADOKAWA

ありうみ・とよこ 1994年、埼玉県生まれ。幼いときから絵を描くのが好きで、独学でマンガ創作を始める。同人誌活動を経て、本作が初単行本。

※『anan』2022年10月22日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・三浦天紗子

(by anan編集部)