奈緒「苦しい気持ちでいっぱいになります。それでも…」 舞台『恭しき娼婦』に挑む

2022.6.5
「今回の舞台のお話をいただいたとき、嬉しくて胸が高鳴りました」 正統派ヒロインから奇抜で強烈なキャラクターまで、これまで幅広い役柄を演じてきた奈緒さんがそこまで語る作品は、栗山民也さんが演出を手がける舞台『恭しき娼婦』だ。
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「まだ舞台を1回もやったことがないときに、栗山さんが演出された『アンチゴーヌ』という舞台を観て、衝撃を受けたんですよね。シンプルな舞台セットがすごく美しくて、その中で目が離せないような感情の動きが表現されていて、終わった後もしばらく放心状態でした。これが演劇なんだなって思って、もし舞台をやるならこういう作品をやってみたいと思っていたんです。栗山さんと舞台でご一緒された先輩方や仲間から稽古場のお話を伺うこともあり、いつかぜひと思っていたのがこんなに早く実現して光栄です」

人種差別が根強く残る時代、白人が犯した殺人の濡れ衣を着せられた黒人青年をかくまう娼婦・リズィーが奈緒さんの役だ。しかし街の権力者が、彼女に虚偽の証言を強いろうとする。人間の尊厳とは何か、正義とは何かを突きつけてくる問題作だ。

「稽古中、栗山さんから『これはアンチゴーヌだよね』って言葉を聞けたんです。逆らうということがあり得ない関係性にありながら、自分の意思を貫こうとするのはアンチゴーヌにも通じる。運命だなって(笑)」

重苦しくヒリヒリとした展開が続く物語だけれど、「比較的恵まれた環境の中で生きている自分が、役者としてだけでなく人として向き合わないといけない題材」だと語る。

「自分が今ここにいる意味だったり、自由に生きるということはどういうことなのかだったり。そういうことを考えさせてくれる作品です。正直、向き合おうとすると、世の中にこんなに苦しく理不尽なことがあったんだって、苦しい気持ちでいっぱいになったりします。それでも、やっぱり知らなきゃいけないと思うんですよね。世の中にはすごく悔しい気持ちや、やるせない怒りを抱えている方がいて、そういう誰かを、私自身が無知なせいで気づかないうちに傷つけていることって、きっとたくさんあると思います。その無知をすごく恥ずかしく思う一方で、自分がこれまで触れながらも、気づいていなかった人間の奥底に少しずつ近づけていることが嬉しいんですよね。そしてまた、これを多くの方々に伝えるんだっていう使命感みたいなものもあって。どう受け止めるかは、もちろんご覧になる方の自由でもあるけれど、この作品があるべき姿で正しく伝えたいとは思っています」

念願の栗山演出。稽古の様子を語る表情からも充実感が伝わってくる。

「最初にお芝居に出合った頃に感じたような、新鮮な気持ちで稽古に行けています。稽古を終えて家に帰ったとき、久しぶりに『お母さん、お芝居がね、すごく楽しいの』って報告しちゃったくらい。失敗さえマイナスな落ち込みにならなくて、わからないことが逆に“もっと追究したい”に変わる。この瞬間瞬間を刻みながら本番に臨みたいですね」

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『恭しき娼婦』 列車内で、若い白人男性が黒人男性を撃ち殺す場面を目撃した娼婦のリズィー(奈緒)。しかし、犯人の親族である街の有力者の息子・フレッド(風間)は、彼女に嘘の証言を強いろうとする。6月4日(土)~19日(日)新宿・紀伊國屋ホール 作/ジャン=ポール・サルトル 演出/栗山民也 出演/奈緒、風間俊介ほか 全席指定9500円 サンライズプロモーション東京 TEL:0570・00・3337(平日12:00~15:00) https://www.tbs.co.jp/uyauyashiki_shofu/ 兵庫、愛知公演あり。

なお 1995年2月10日生まれ、福岡県出身。主演映画・MIRRORLIAR FILMS Season3『可愛かった犬、あんこ』公開中。出演映画『TANG タング』『マイ・ブロークン・マリコ』も公開を控える。
ワンピース¥39,600(ル フィル/LE PHIL NEWoMan 新宿店 TEL:03・6380・1960)

※『anan』2022年6月8日号より。写真・小笠原真紀 スタイリスト・岡本純子 ヘア&メイク・竹下あゆみ インタビュー、文・望月リサ

(by anan編集部)