平野レミ「子育てで大事なのは、親がレールを敷かないこと」

2022.4.23
人生の先輩的女性をお招きし、お話を伺う「乙女談義」。4月のお客様は、料理愛好家、シャンソン歌手の平野レミさん。第4回目は子育てと、年をとってからの過ごし方についてです。夢中になれるものを持つって、大事ですね。
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寄り道が多い人生は、豊かだと思います。

もう2人とも結婚しましたが、私たち夫婦には2人の息子がいます。上の子は、試験前日なのにギターを抱えて制服のまま寝ちゃうような子、一方、下は、塾も留学も一人で決めてしまう、ほっといても勉強をするような子。長男がバンドでデビューしたときに和田(誠)さんが、「あのとき“勉強しろ、勉強しろ”と言ってたら、彼の人生はこんなおもしろいものにならなかったかもしれないよ」と言ったのを聞いて、そうだな、と思いました。

人生のゴールが先にあるとして、障害物のない高速道路を最速で進むパターンもあるけれど、高速道路の下には田んぼとかあぜ道とかがあって、そこには蝶が飛んで花が咲いていて。それを見ながらゆっくりゴールに辿り着くのも、ありだと思う。いろんな経験を背負って歩くことで、人の痛みがわかる人間になれるかもしれないし。子育てで大事なのは、親がレールを敷かないこと。放っておくほうが、自分の道を自分で見つけるものです。

一人になった今からが、平野レミの第二章。

最愛の夫である和田さんが亡くなり、今年の秋で3年。いつでも会いたくて、「どこに行っちゃったの?」と思っています。同時に、この気持ちはいつかは消えるのかしら…と思いますが、それこそ大昔から人間は、最愛の人を失った悲しみや苦しみと闘ってきたのよね。人は、一人で生まれ、一人で死んでいくもの。その意味が今、本当にわかります。もちろん今も悲しいけれど、でもそういう意味では、私の人生はここからかな、と思います。これまでの私は半人前だった。これからの人生は、一人前になるためのものなんでしょう。

やりたいことといえば、やっぱり歌。とはいえ年をとったからか、声がガラガラになっちゃったのよねぇ。そういえばお友達の森山良子ちゃんは酔って歌ってもコロコロといい声が出るの、羨ましい(笑)。でも歌はいいわよ、心が豊かになる。年をとって一人になっても夢中になれるものがあるのは幸せよ。みなさんもぜひ、そういう何かを見つけてね。

ひらの・れみ 料理愛好家、シャンソン歌手。主婦の経験を生かし、テレビや雑誌で数々の料理を発信。新著に子育てと料理についてのエッセイ&レシピ集『おいしい子育て』(ポプラ社)が。

※『anan』2022年4月27日号より。写真・中島慶子

(by anan編集部)