日本一忙しいアニソンアーティスト・オーイシマサヨシ「“掴みの2秒”が最重要」

2022.3.31
「ようこそジャパリパークへ」の大ヒットで知られるアニソンクリエイター&シンガーのオーイシマサヨシさん。徹底して“原作原理主義”を貫く制作や、業界の中心から見たアニソンの未来を伺いました。

自分、監督、そしてファン。多くの視点を活かしたい。

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ジャンルを問わず次々と曲を生み出し“日本一忙しいアニソンアーティスト”の異名をとるオーイシマサヨシさん。アニメ作品とその世界観を音楽で表現する楽曲との関係性をどう捉えるのだろう。

「アニソンは、作品と直系で繋がる子どもであり、名刺代わりにもなりますよね。同時に、最終回の後もそのメロディを聴けば、視聴者にとって思い出深いシーンが思い浮かぶ栞のようでもあって。そんな重要な役割を果たしているアニソン作りは、毎回やりがいを持ってやらせていただいています」

アニソンが視聴者の心を掴めるかは、イントロにかかってるとも。

「30分枠のアニメのオープニングやエンディングは90秒で作られていることがほとんど。その前後0.5秒は無音でないといけないので、実質的には89秒しかありません。この89秒間でどう曲を構成するかがアニソンクリエイターの腕の見せどころ! 特に“掴みの2秒”が最重要で、代表的な例でいうと『残酷な天使のテーゼ』のインパクトある頭サビなどですが、実際に売れたアニソンのほとんどは最初の2秒間で作品の世界観を印象付けています。楽曲提供した『ようこそジャパリパークへ』では、牧歌的で平和な空気を出すために、頭でホルンを使いました」

自身も大のアニメファン。楽曲を制作する上で掲げる“原作原理主義”こそが、オーイシさんの曲が作品ファンに支持される大きな理由でもある。オファーを受けたら、原作を徹底的に読み込み、台本やキャラクターデザインなど、手に入る資料にはすべて目を通す。ファンのSNSをよく見ていることでも有名だ。

「アニメファンの方々の間では『あなたのツイートの背後にオーイシマサヨシがいる』と冗談で言われるほど(笑)、自分が携わらせていただく作品に関するSNSはすごく見ていますね。僕の主観的視点だけで作ってしまうと、原作にないことを盛り込んでしまったり、キャラクターの心情を勝手に読み取ってしまったり、解釈の拡大を招きかねないんです。それを避けるために、監督さんの視点、そして、僕よりも原作に詳しく作品を愛するファンのみなさんの視点と、できるだけ多くの視点を設けます。そして、それらが交わるところを探り、作品が最も“映える”曲の構成を考えるのが僕のアニソンの作り方。そうすることで、主観で勝手に原作にはないことを書いてしまう解釈の不一致や、作品やキャラクターに熱い想いを持ったファンの方々が求めていないことをしてしまう、いわゆる地雷を踏む行為も避けられるんです」

さまざまな立場の人たちが関わるアニメ制作。クライアントからのリクエストも多そう。

「明らかにこちらのほうがいいという答えをこちらが持っている場合以外は、リテイクはお受けしています。丸々作り直すこともありますし、1つの作品に対して7曲作ったこともありますよ。でも、それは全然苦じゃないですね。僕は、とにかく作品の役に立ちたい。その気持ちが何よりも先行しているので、アニソンは、あくまで自分のためではなく、聴いたファンの方々の曲。みなさんが喜ぶ顔を見て評価していただくことがシンプルに嬉しいんですよね。でも時々、初稿でOKが出るホールインワンの曲もあるんです。ちなみに『ようこそジャパリパークへ』は、ニアピンぐらいでした(笑)」

さまざまな動きが進行し変革期真っ只中のアニソン界。

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大石昌良名義でやっていたバンド活動を経て、アニソンクリエイター&アニソンシンガーになって約8年。アニメを取り巻く環境は大きく変わり、動画配信サイトでの視聴がすっかり定着した。

「動画配信サイトの“イントロをスキップ”に、僕は、アニソンの存在危機を感じています。イントロを飛ばされてしまってはあまりにも寂しいですし、アニメ映像とともに主題歌に価値を見出し、尊いと思ってもらえる曲作りがますます必要とされてきていますね」

昨年、LiSAさんが歌い、爆発的ヒットとなった「紅蓮華」には、大いに刺激を受けたそう。

「アニソンがこんなにも多くの人に愛されるコンテンツになっていたということを改めて感じました。より多くの方々に聴いてもらえるようになったということは、気が抜けないぞと背筋が伸びる思いでしたね。ただ、オリコンチャートに入りたくてアニソンを作っているクリエイターってほとんどいないんですよ。『紅蓮華』にしても、『鬼滅の刃』という作品を高い解像度で表現した結果、アニメファンの間で局所的な熱を帯び、そこから溢れ出た作品愛が一般層に伝わって大ヒットに繋がったと思います。今後、アニメファンだけではなく、お茶の間の一般層にも耳を傾けてもらえるアニソン作りを意識しないといけないけれども、やっぱり根本には“作品への愛”がアニソンに必要とされていることは変わらないと思いますね」

クリエイターとして、ファンとして、作品やアニソンに愛を注ぎ続けるオーイシさん。今後のアニソン界を見据えて、こんな予想をしてくれた。

「完全な僕の予想ですけど、アニソン業界は二極化していくんじゃないでしょうか。一つは、いわゆる“電波ソング”のようなものすごくコアなファンに向けた、局所的に熱量を持った楽曲が濃度を増していくパターン。もう一方は、J‐POPとして昇華できる、オシャレで聴きやすい一般層向けですね。後者では、King Gnuさん、米津玄師さん、Official髭男dismさんなどJ‐POP、J‐ROCKの方々がアニメ作品へ深い愛を注いで曲を紡ぎ、作品との相乗効果でヒットしていくことが増えていきそう。今後も、J‐POP、J‐ROCKのアーティストがアニソンシーンで活躍して、アニソンクリエイターは、アニメの世界を超えてドラマの主題歌やCMソングを手掛けていく。そんなジャンルのボーダーレス化が始まってきている今、アニソン界はちょうど変革期にあると思います」

1980年1月5日生まれ、愛媛県出身。2001年、バンド「Sound Schedule」メンバーとしてデビュー。’14年よりオーイシマサヨシ名義で活動開始。ワンマンライブ「エンターテイナー」Blu‐ray&DVDが発売中。
メッシュブルゾン¥63,250(RYU) ボーダーニット¥25,300(CULLNI) ハイネック¥17,600(SHAREEF) スウェットパンツ¥28,600(LOCAL AUTHORITY) ソックス¥2,750(NEW ORDER) スニーカー¥81,400(ALES GREY)

※『anan』2022年4月6日号より。写真・小笠原真紀 スタイリスト・宇都宮春男(YKP) ヘア&メイク・瓜本美鈴 取材、文・小泉咲子

(by anan編集部)