松下洸平「自分以上に役が大きくなるのは、嬉しいと同時に、背筋も伸びます」

2022.3.6
NHK連続テレビ小説『スカーレット』の十代田八郎や、『最愛』の“大ちゃん”こと宮崎大輝など、日本中が焦がれる役を演じてきた俳優・松下洸平さん。シンガーソングライターの顔も持っている彼が主演をつとめるのは、音楽劇『夜来香(イエライシャン)ラプソディ』。第二次世界大戦末期の混沌とした上海を生きる、作曲家・服部良一を演じる。
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「服部さんは、まさに音楽に恋い焦がれた人です。生きることさえ困難であった時代の中にありながら、音楽のことを一番に、最優先に考えている。欲得を考えず、ただそれが好きだからという想いだけで突っ走る彼のピュアさを軸に演じることで、服部さんの生き様を表現できたらと。僕はいつも、台本をいただくと、最初に、役の人物像を探るんです。この人はどういう性格なのか、世の中のことにどれくらい目を向けているのか。そうして、芯のような、人間でいう骨格の部分を作っていきます。それから、セリフを覚え、共演者の皆さんと声を合わせ、演出家と話し合いながら肉付けをしていく。途中、自分が想像もしていなかった形に役が変化して迷うこともありますが、そんな時は最初に自分が描いた像を思い出すと、原点に立ち戻れる。一番シンプルな役作りの仕方だと思っています」

服部さんのピュアな生き方に憧れながらも、「そうあり続けるのは簡単ではないですね」と微笑む。

「いろいろな欲が出たり、他人を顧みず我を通したい時もありますから。ただ、総じて、この仕事が好きだからこその行動ではあるんですけど。僕はどちらかというとピュアでまっすぐに役を演じようと思ってやってきましたが、服部さんとくらべると、ピュアさは足りないなと思いますし、見習わなきゃとも思っています。八郎や大輝もそうですが、演じた役を素敵に思っていただけることは、もちろん嬉しいです。だからこそ、役を剥ぎ取った自分も、僕なりの魅力をちゃんと備えていかないと、とは思っています。作品はいつか終わるけど、僕自身は終わらず続いていくわけですから。自分以上に役が大きくなるのは、嬉しいと同時に、背筋も伸びます」

一方で、これまでとは違う雰囲気を纏う役にも挑戦したいという。

「今日の撮影のような妖艶なムードのものや、泥くさい役もやってみたいんですが、まだ経験がないですね。皆さんが僕に抱いてくださっているイメージも大事にしたいとは思いますが、逆に、常に新しいことにトライすることは忘れず、自分の中にまだ秘めているものや、隠している感情も開放して、“気持ちよく裏切る”ことができればいいなと思っています」

あらためて、今号の特集テーマである“焦がれる気持ち”について尋ねてみると、少し時間を置いた後にこんな答えが返ってきた。

「一途で、まっすぐな気持ちではあるけれど、一方的に想いを馳せている感じがします。焦がれている対象とはしっかりと繋がっておらず、少し孤独を感じる。陰か陽かでいうと陰な感じです」

松下さん自身、そんな焦がれる気持ちを常に感じているという。

「誰かに認められたい、褒められたいという欲に対してですね。ものづくりが仕事なので、自分たちが作ったものを見せたいし、見せたら褒められたい。もちろん、“好きで作っているんだから何も言われたくない”という人もいると思いますが、僕は割と単純で、欲しがりなんです(笑)。もちろん、褒められるばかりではなく、思わぬ反応がくることもありますが、全部ひっくるめて成長のきっかけになると思いますから」

“一人の時間”も欠かせない。

「仕事で誰かと一緒にいるのは好きだし、エネルギーをもらえる大事な時間です。でも、誰とも会わないというだけじゃなく、何も考えない一人を楽しむ時間も必要ですね。たそがれたり、将来や家族のことなど、エモいことをぼーっと考える瞬間もきっとあると思うんですが(笑)、それさえも考えないことが、僕には必要なんですよね。昔からそうで、小学生の時、友だちと遊ぶのが好きなのに、たまに誘いを断って田んぼでカモをぼーっと見ることが好きでしたから(笑)。観察日記もつけていましたよ。今は、ドライブや散歩が大切な時間です」

さまざまな作品を経験したことで、最近、仕事における新たな目標が生まれたと松下さん。

「昔にくらべて、責任の大きさを実感する仕事が増えてきました。スタンスや芝居に取り組む姿勢は変わらないけれど、一つの作品を大事にしながら、同時に別の大事にしなければならないものがあったり。だからこそ、服部さんではないですが、大好きな仕事に対して、よりピュアでいたい。これからずっと変わらない目標です」

まつした・こうへい 1987年3月6日生まれ、東京都出身。主演舞台cube 25th presents音楽劇『夜来香ラプソディ』が3/12から、東京・Bunkamuraシアターコクーンほか、名古屋、大阪、長岡で上演される。3/14にデジタルシングル「KISS」が配信。4月クールのドラマ『やんごとなき一族』に出演。
ジャケット¥60,500 シャツ¥49,500 パンツ¥31,900(以上CINOH/MOULD TEL:03・6805・1449) 靴¥12,100(RIVIERAS/アマン TEL:03・6418・6039)

※『anan』2022年3月9日号より。写真・樽木優美子(TRON) スタイリスト・丸本達彦(UNFORM) ヘア&メイク・KUBOKI(Three PEACE) 取材、文・重信 綾

(by anan編集部)