長塚圭史「神奈川の“K”くらいには触れられた気が」 新芸術監督としての斬新企画

2022.2.8
横浜中華街のすぐそばにあるKAAT神奈川芸術劇場が、近頃面白いことになっている。エントランスロビーに、昔の芝居小屋を思わせる仮設劇場が出現したり。かと思えば、劇場の一角を一般に開放し、開幕に向けて俳優が稽古に勤しむ様子を通りすがりに眺められたり。それもこれも、劇場をもっと“ひらいて”いきたいという新しい芸術監督の想いから。それがこの長塚圭史さんだ。

新芸術監督が神奈川県と仕掛ける、ユニークな冒険譚。

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「ロンドンに1年間いた時、日本に比べて劇場がアーティストやお客さんと密接な関係にあると感じたんですね。子供に上質な演劇を観せる機会が広く設けられていたり、アーティストが研究や実験をおこなえるよう開かれていたり。劇場がそういう場所になったら豊かだなというのは、就任が決まる前から思っていたこと。でもそのためには、この場所にあるということをちゃんと自覚し、またそれを多くの人に知っていただくことが必要で。そのために、まず近隣の方たちとどう顔を合わせていくかを考えていたんです」

とはいえ、劇場になじみのない人も多い。ならばこちらから出向こうと発想されたのが舞台『冒険者たち』。『西遊記』でおなじみの三蔵法師一行が神奈川県内を巡る冒険譚を、県内各所で上演するという企画だ。

「神奈川県って、劇場のある横浜を起点にすると西にすごく広い。ならば西を目指す『西遊記』はどうだろう、と。物語に思いっきりのっかって、明るい作品を作りたいなと書いたんですが、こんな芝居を作ったことがなかったので、自分の中でも超不思議体験でした」

物語の中には各所の史跡や名所、人気店が登場。芝居を観ながら地域のことも知ることができるユニークな仕掛けに。

「これを書くことで神奈川の“K”くらいには触れられた気がしてるんです。家族に、朝出かける時も夜帰ってきてもまだ神奈川の地図を見てるって言われたくらい。でも、こういう荒唐無稽な設定だったり、いろんな手続きを踏まなくても別の場所へ転じることができたりって、演劇ならすごく簡単にできる。そういう演劇的マジックを、たくさんの方が楽しんでくれたらいいなと思っています」

現在、長塚さんはもちろん、キャストやスタッフ全員がさまざまなアイデアを持ち寄っては試す、クリエイティブな稽古がおこなわれている。

「観音経を音楽的に読経・演奏してみたかったので作ってみたら、なかなかよかったり。音楽の角銅真実さんがハルモニウムという楽器で入ったら、成河(ソンハ)が太鼓を叩き、(柄本)時生が木魚を叩きだして、それがすごくいい感じになったり…。とにかく予測を超えたいろんなものも生まれている。その稽古場の感じが、すごく楽しいですね」

Entame

KAATカナガワ・ツアー・プロジェクト第一弾『冒険者たち~JOURNEY TO THE WEST~』 天竺へ向けて旅を続ける三蔵法師(柄本)一行が紛れ込んだのは神奈川県。元の道に戻ろうと画策するが、供の猪八戒が行方不明。どうやら県内各地の飲食店で飲み食いしているらしく…。2月8日(火)~16日(水) 横浜・KAAT神奈川芸術劇場〈中スタジオ〉 上演台本・演出/長塚圭史(原作:呉承恩『西遊記』) 共同演出/大澤遊 音楽・演奏/角銅真実 出演/柄本時生、菅原永二、佐々木春香、長塚圭史、成河 一般4800円ほか チケットかながわ TEL:0570・015・415(10:00~18:00) https://www.kaat.jp/d/bokenshatachi 神奈川県内ツアーあり。

ながつか・けいし 1975年生まれ、東京都出身。主宰する阿佐ヶ谷スパイダースをはじめ、多彩な演劇活動をおこなっており、昨年よりKAAT神奈川芸術劇場芸術監督。出演映画『シン・ウルトラマン』が5月公開。

※『anan』2022年2月9日号より。写真・小笠原真紀 インタビュー、文・望月リサ

(by anan編集部)